かわたれどきの頁繰り

読書の時間はたいてい明け方の3時から6時頃。読んだ本の印象メモ、展覧会の記憶、など。

【メモ―フクシマ以後】 放射能汚染と放射線障害(10)

2024年10月24日 | 脱原発

2015年10月9日

 川内原発2号機が再稼働するとか、愛媛県議会が伊方原発の再稼働に同意したとか、不愉快なニュースが続いているが、それを帳消しにするくらいの良いニュースもある(原発を止めるのがほんとうの「帳消し」だが)。
 岡山大学の津田敏秀教授が医学専門誌「Epidemiology(疫学)」に発表した論文で、福島県が実施した原発事故当時18歳以下だった約37万人の県民の健康調査の結果を分析したところ、甲状腺癌の発生率が国内平均の「50~20倍」に達していたと結論している。
 チェルノブイリ原発事故では5、6年後に甲状腺癌の患者数が増加したことから考えれば、これは必当然の結果である。ウクライナ人も日本人もまったく同じ生化学的肉体を有する同じ人間であり、放射線の物理的作用に地域差があるはずもないのだから、おなじ被害が発生することは考えるまでもない。
 国際癌研究機関(IARC)が組織したチームが、いかなる閾値もなく低線量被曝でも白血病リスクは確実に上昇するという報告したことも、福島での甲状腺癌の高発生という結論も科学的、合理的な判断からすればごく常識的な結果に過ぎないが、原発推進勢力が権力を手にしている状況では、どちらも重要な科学的知見の公表であり、ニュースである。

 ベラルーシのスベトラーナ・アレクシエービッチさんがノーベル文学賞を受賞したこともとても素晴らしいニュースだ。『戦争は女の顔をしていない』や『チェルノブイリの祈り』などの作品で、反戦、反原発の立場を明確にして活動している作家、ジャーナリストである。戦争法案に反対し、原発再稼働に反対している私(たち)には心強い受賞である。
 彼女は福島事故後のメッセージで、「広島、長崎の原爆投下とチェルノブイリ事故後、人間の文明は『非核』の道を選択すべきではなかったのか。原子力時代から抜け出さなければならない。私がチェルノブイリで目にしたような姿に世界がなってしまわないために、別の道を模索すべきだ」と語ったということだ(毎日新聞)

 ノーベル平和賞も私(たち)を奮い立たせ、元気づける人びとが受賞した。「アラブの春」のあと、チュニジアの民主化に貢献したとして国民の対立解消につとめた4団体「国民対話カルテット」に平和賞が贈られた。
 チュニジアはまだテロが続く不安定な状況で、必ずしも諸手を挙げて喜べる状況ではないのだが、一方で、憲法を守ることで平和を追求する日本の民間団体が受賞する可能性が一段と高まったように思えるのは私だけではないだろう。憲法を守ることで優れた民主主義を求め、戦争に反対する民間団体は、民主的対話を追求した民間団体に優るとも劣らないのは間違いない。
 もう一つ良いニュースがあった。極東国際軍事裁判(東京裁判)と南京軍事法廷の記録など「南京大虐殺」に関する資料がユネスコの認定する世界記憶遺産となった。認定申請したのは中国政府なので、自公政権は当然のように反発しているが、これを歪曲することなく真摯に過去の歴史に向き合う契機としなければならない。ユネスコが認めたということは、南京大虐殺に関する日本の歴史修正主義者(自公政権)の主張が世界でいかに孤立しているかを示している。
 今回の世界記憶遺産認定は、戦争法制や歴史認識において明らかに戦前の大日本帝国へ退化している自公政権への警告になるはずだが、政権にはそんな認識は期待できないだろう。それを実態化(現勢化)するのは、やはり私たち国民の仕事に違いない。
 甲状腺癌の発生率が国内平均の20~50倍も高いとする津田敏秀先生の論文には、予想通り、原発を推進したい学者からの批判(非難?)が上がっている(日刊ゲンダイのニュースから)。面白いと思ったのは批判する言辞のなかに「時期尚早」という言葉があったことだ。
 「時期尚早」とは事を為すのは早すぎるという意味だ。つまり、もう少し後ならやっても良いということである。もう少し後に発表すれば津田論文は正しいのだということを、批判者は言っていることになる。これは、福島で甲状腺癌が多発するのは将来的には避けられないという告白(自白)に等しい。
 科学的な真理は時空を超える。時間や場所で真になったり偽になったりはしない。「時期尚早」などという人間くさい(政治がかった)戦術や策略とは無縁のはずである。ここにも、福島をめぐる放射線被曝の問題が、科学的、医学的にではなく、政治的に語られている空気が漂っている。


2015年12月11日

 東京新聞によれば、つぎのような高濃度汚染のニュースがあった。

 東京電力は九日、福島第一原発4号機の南側地下を通るダクトにたまった汚染水を調べた結果、放射性セシウムの濃度が昨年十二月の約四千倍になるなど、放射性物質濃度が急上昇したと発表した。東電は、周辺の地下水の放射性物質濃度に変化がないことなどから「外部に流出していることはない」としているが、原因は分かっていない。
 東電によると、今月三日に採取した汚染水で、放射性セシウムが一リットル当たり四八万二〇〇〇ベクレル(昨年十二月は一二一ベクレル)、ベータ線を出す放射性物質が五〇万ベクレル(同一二〇ベクレル)、放射性トリチウムが六七〇〇ベクレル(同三一〇ベクレル)計測された。

 このような高濃度汚染が新たに発生する原因となる最悪の事態は、どこかコントロールできない(場所が把握できない)場所で核分裂が起きていて、新たな核分裂生成物を生み出していることである。
 汚染水に含まれる様々な半減期の放射線核種の組成を調べれば、2011年のメルトダウン由来の放射能か現在も続く核分裂由来のものか判断できると思うのだが、相変わらず原因はわからないと東電は発表している。これまでのことを考えれば、わからないのか隠ぺいしているのか、私たちは判断できないのである。
 原発事故から4年も経ったいまでも関東のどこかで短半減期(8日)のヨウ素131が計測されるという情報がときどき流れてくる。この情報が本当なら、現在も相当量の核分裂が起きていて、核分裂生成物が大気中に放出されていることになる。
 メルトダウンした核燃料がどうなっているかまったくわからない(と東電は言っている)状態では結論を出すのは難しいが、不明な時には最悪の事態を想定して対策を講ずるべきだが、日本の政治家や原子力関係の人たちはあえて最良の事態しか想定しないようだ。典型的な人命軽視の思考方法なのである。

 
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