満開の桜は魔物だ。
妖気を漂わせている。
あの妖気はただものではない。
大勢の中の一人として花見をしているときには、桜の妖気を感じない。
しかし、一人で満開の夜桜と接するとき、私を異様な妖気が取り囲む。
ほかの人は、そんな感じを持たないのだろうか。
私は桜が好きだ。
花見どきともなると、ワクワクしてくる。
年に幾度かは、カメラを背負って、満開の桜を追って行く。
そんな私でも、あの桜の妖気は恐ろしい。
恐ろしいけれども好きなのだ。
多少は倒錯気味なのかもしれない。
よく雪女の話を聞く。
桜にはそのような話はないのだろうか。
満開の夜桜の枝蔭に、「桜女」がひっそりと私を伺っているように思える。
次の朝、桜の太い根方に横たわっている私。
青白い顔で、すでに呼吸は停まっている。
こんな図は御免被りたい。
さればとて、夜から朝にかけ、フライパンをカンカンと叩きながら家の周りを彷徨っているのも願いさげだ。
「桜女」との縁はなくていい。
私は桜が好きだ。
しかし、やはり妖気は不気味だ。
天地(あめつち)の血を吸い尽くす桜かな 鵯 一平
← お読み頂きありがとうございました。
ポチッと応援クリックをお願いします。
励みになります。