■ダーク・アワーズ 2023.4.24
本書は、レイネ・バラードとハリー・ボッシュがタッグを組む第三作目です。
レイネ・バラードの活躍には、ハラハラドキドキで大変面白いミステリーでした。
思えばハリー・ボッシュとのつき合いは、長く、出版されれば必ず買ってきました。
面白くてもそうでなくとも。もっとも期待を裏切られたことはなかったように記憶しています。
ハリー・ボッシュも歳。活躍の場面が少ないのがさみしいです。
その瞬間、これは事故ではないとバラードにはわかった。ラファは殺されたのだ。
ラファの頭の近くに銃を構え、引き金を引いたのだ。そしていま、バラードは、自分がこの事件の欲しており、自分が外されようがないくらい深く食いこむまでこの結論を胸の裡に秘めておく方法をさがすつもりであるとわかった。
それが我が身を守るために必要な解決策になりうる、とバラードは知っていた。
「ここにいたいな」ムーアは言った。「六時までに戻ってこられるわけがない」
「わかった。じやあ、このGEDファイルをダヴェンボートに返してくれる?」
「ええ、それは任せて。だけど、あなたはなぜこんなことをするの?」
「こんなことをするって?」
「この事件で走りまわること。殺人事件でしょ。みんなが向こうで目を覚ましたらすぐウェスト方面隊に引き渡すことになるのに」
「そうかもね。だけど、わたしに調べさせてくれるかもしれない」
「あなたのせいで、ほかの人に悪い評判を与えるんだよ、レネイ」
「なんの話?」
「自分の縄張りに留まっていて。だれも動かなければ、だれも傷つかない、わかる?」
バラードは肩をすくめた。
「ミッドナイト・メン事件にわたしが乗り気になったとき、あなたはそんなことを言わなかった」バラードは言った。
「あれはレイプだよ」ムーアは言った。「あなたが話しているのは、殺人事件だよ」
「ちがいがわからないな。被害者がいて、事件がある。それに変わりはない」
「あのさ、言葉にするとこうなる----ウェスト方面隊はちがいをわかるでしょう。連中は自分たちの事件をあなたが持ち去ろうとするのを黙って認めるわけがない」
「いずれわかるわ。わたしはいくから。もしうちのふたりの尻の穴野郎がまた事件を起こしたら連絡して」
「ああ、そうする。そっちもおなじことをしてね」
金を払ってギャングから足を洗った人間がいるという話をバラードは聞いたことがなかった。「血により入り、血により出る。死がわれらをわかつまで」というのがギャングの掟だとずっと思っていた。
自分がおこなう行動の戦略を練りながら、街までの残りの行程を黙って車を走らせた。例外は、ハリー・ボッシュへの短い電話連絡だった。自分の策をほかのだれも支持してくれなくとも、つねにボッシュがいる、とバラードはわかっていた。具体的になんのために待機するのか話すこともなく、バラードはボッシュに待機してほしいと頼み、ボッシュは断らなかった。ボッシュはどんなことにも対応する用意をして待機する。きみにはおれがついている、とだけ言った。
『 ダーク・アワーズ(上・下)/マイクル・コナリー/古沢嘉通訳/創元推理文庫 』
本書は、レイネ・バラードとハリー・ボッシュがタッグを組む第三作目です。
レイネ・バラードの活躍には、ハラハラドキドキで大変面白いミステリーでした。
思えばハリー・ボッシュとのつき合いは、長く、出版されれば必ず買ってきました。
面白くてもそうでなくとも。もっとも期待を裏切られたことはなかったように記憶しています。
ハリー・ボッシュも歳。活躍の場面が少ないのがさみしいです。
その瞬間、これは事故ではないとバラードにはわかった。ラファは殺されたのだ。
ラファの頭の近くに銃を構え、引き金を引いたのだ。そしていま、バラードは、自分がこの事件の欲しており、自分が外されようがないくらい深く食いこむまでこの結論を胸の裡に秘めておく方法をさがすつもりであるとわかった。
それが我が身を守るために必要な解決策になりうる、とバラードは知っていた。
「ここにいたいな」ムーアは言った。「六時までに戻ってこられるわけがない」
「わかった。じやあ、このGEDファイルをダヴェンボートに返してくれる?」
「ええ、それは任せて。だけど、あなたはなぜこんなことをするの?」
「こんなことをするって?」
「この事件で走りまわること。殺人事件でしょ。みんなが向こうで目を覚ましたらすぐウェスト方面隊に引き渡すことになるのに」
「そうかもね。だけど、わたしに調べさせてくれるかもしれない」
「あなたのせいで、ほかの人に悪い評判を与えるんだよ、レネイ」
「なんの話?」
「自分の縄張りに留まっていて。だれも動かなければ、だれも傷つかない、わかる?」
バラードは肩をすくめた。
「ミッドナイト・メン事件にわたしが乗り気になったとき、あなたはそんなことを言わなかった」バラードは言った。
「あれはレイプだよ」ムーアは言った。「あなたが話しているのは、殺人事件だよ」
「ちがいがわからないな。被害者がいて、事件がある。それに変わりはない」
「あのさ、言葉にするとこうなる----ウェスト方面隊はちがいをわかるでしょう。連中は自分たちの事件をあなたが持ち去ろうとするのを黙って認めるわけがない」
「いずれわかるわ。わたしはいくから。もしうちのふたりの尻の穴野郎がまた事件を起こしたら連絡して」
「ああ、そうする。そっちもおなじことをしてね」
金を払ってギャングから足を洗った人間がいるという話をバラードは聞いたことがなかった。「血により入り、血により出る。死がわれらをわかつまで」というのがギャングの掟だとずっと思っていた。
自分がおこなう行動の戦略を練りながら、街までの残りの行程を黙って車を走らせた。例外は、ハリー・ボッシュへの短い電話連絡だった。自分の策をほかのだれも支持してくれなくとも、つねにボッシュがいる、とバラードはわかっていた。具体的になんのために待機するのか話すこともなく、バラードはボッシュに待機してほしいと頼み、ボッシュは断らなかった。ボッシュはどんなことにも対応する用意をして待機する。きみにはおれがついている、とだけ言った。
『 ダーク・アワーズ(上・下)/マイクル・コナリー/古沢嘉通訳/創元推理文庫 』