ゆめ未来     

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敵前の森で/古処誠二

2023年08月21日 | もう一冊読んでみた
敵前の森で 2023.8.21

2023年7月15日朝日新聞読書欄で宇田川拓也氏が「ひもとく/最新ミステリの収穫」で『 前線の森で 』を紹介されていました。
ぼくは、古処誠二氏の作品を読んだことがないので、早速手に取りました。

宇田川氏は、書評のなかで次のように述べています。

 戦争という特殊な状況でしか起こり得ない真相を秘めた、日本と日本人について令和だからこそ心に響く物語であり、忘れがたい読み応えを約束する。

ぼくなりに理解したつもりですが、果たしてそれは正解だろうか?




 「全部やるよ」
 「双眼鏡までいいのか」
 「コヒマでの鹵獲品だ。今日の鹵獲兵器も置いていく。その代わりと言っちゃなんだが、こいつらにも少し乾パンをわけてくれんか」
 手の届く距離に食い物があれば我慢が利かない。それくらいのことは察しろといった口調だった。
 雑嚢に手を突っ込む班員を制して北原は手持ちの乾パンをすべて出した。
 立ったままむさぼる歩兵たちは鬼気迫っていた。彼らは残らず蝿をまとい、一名はうなじの熱帯潰瘍に蛆はわせていた。</fopnt>

 「でしたら案外モンテーウィン少年も気は張っていたかも知れませんね。ナポレオンの受け売りですが、なんだかんだで人は服装どおりの人間になるものです

 敵の心を読み、ときには操り、戦は進む。男を寄越したのは五の川以西の住民をすでに掌握していると示すためでもあるだろう。英印軍が現れるまでマルフ部落は日本軍に協力していたのであって、英印軍に使われる男の姿を見れば日本兵は士気を削がれるとも踏んだだろう。
 日の沈まぬ国を造り上げたイギリス人は一筋縄ではいかないと感じ入るには充分だった。


 「佐々塚兵長が逃がしたのではないかとの疑念をあなた自身が当時抱いたはずです。あなたの言うとおりモンテーウィン少年は気が小さい。逃亡と投降には誰かの強要があったのではないかと想像しないわけがない」
 「想像はあくまで想像です。佐々塚が逃がしたと確信を持って言えることではありません」
 「負け戦の中でビルマの少年を逃がす。これは、事実だけを取ればまごうかたなき人道的行為です。確信がなかろうと部下の行いであろうと、民間人虐待の容疑をかけられたあなたならば進んで語りたいはずです」
 ところが隠すことを選んだ。ひとつでも偽りを述べたら殺すとの脅しを受けても偽ることを選んだ。
 「すべてはモンテーウィン少年を守るためですね?


 食うことは戦地における最も重要な楽しみだった。

   『 敵前の森で/古処誠二/双葉社 』


コメント
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