表紙素材は、このはな様からお借りしました。
「天上の愛地上の恋」二次小説です。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。
死ネタあり、苦手な方はご注意ください。
二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。
雪がはらりはらりと舞い散る中、二人の少年達が女衒に連れられ、大門をくぐろうとしていた。
黒髪に翠の瞳をした少年は、隣で歩いている金髪碧眼の少年が蒼褪めている事に気づき、そっと彼の手を優しく握った。
「さぁ、ここだよ。」
女衒に連れられて二人がやって来たのは、男色専門の大店・華屋だった。
「女将さん、居ますかい?」
「何だい、またあんたかい。」
そう言いながら部屋の奥から現れたのは、煙管を咥えた六十近い女が腰を擦りながら出て来た。
「今日は良い掘り出し物を見つけたんですよ。」
「掘り出し物だって?」
「この子達ですよ。」
「へぇぇ、あんたも偶には良い仕事をするじゃないか。」
華屋の女将・お夏は、そう言うと舌なめずりをしながら二人の少年達を見た。
「あんた達、名前は?金髪の坊やは、身なりからして何処かの良い所のお坊ちゃんかい?」
「僕はアルフレート=フェリックス、十二歳です。こちらの方は、ルドルフ=フランツ=カール=ヨーゼフ様で、僕がお仕えしている方です。」
「ルドルフ・・もしかしてあんたは、数日前に破産して一家離散した、ハプスブルク家の坊っちゃんかい?」
お夏の言葉に、今まで黙って俯いていた金髪の少年は、蒼い瞳で彼女を睨みつけた。
「僕は、お前のような女に憐れみをかけられる程、落ちてはいない。」
「生意気な子だねぇ。でも、仕込み甲斐がありそうだ。浜木綿、居るかい?」
「へぇ、女将さん。」
音もなく襖が開き、中に美しい着物を纏った一人の陰間が入って来た。
「今日からこの子達を躾けておくれ。」
「さぁ二人共、いらっしゃい。」
陰間―浜木綿太夫は、そう言ってアルフレートとルドルフを自分の部屋へと連れて行った。
「二人共、これからよろしくね。」
「よ、よろしくお願いします。」
「そんなに緊張しなくてもいいのよ。ねぇ、ルドルフ君はいつくなの?」
「九つだ。」
「そう。アルフレートとルドルフ君は、一体どんな関係なの?」
「僕は、ルドルフ様にお仕えしていました。」
アルフレートは、浜木綿太夫にルドルフと初めて会った時の事を話した。
流行病で両親を亡くし、真冬の路上で行き倒れになっていたアルフレートは、観劇帰りのルドルフ達に救われ、ルドルフの遊び相手として彼に仕える事になった。
幸せな日々は、長くは続かなかった。
流行病の影響を受け、その上ハプスブルク家が所有していた物流倉庫が火災で全焼し、多額の負債を抱えたハプスブルク家は倒産、ルドルフ達は一家離散した。
「そう・・ここは色々な事情を抱えている子達が沢山居るからね・・」
浜木綿太夫はそう言うと、アルフレートに微笑んだ。
こうして、ルドルフとアルフレートは、浜木綿太夫の禿として働く事になった。
「僕は、絶対にこんな肥溜めみたいな所から抜け出してやる!」
浜木綿太夫つきの禿としてその美貌と才覚故に引込禿としての教育を受ける事になったルドルフとアルフレートを待っていたものは、周囲の羨望と嫉妬の視線だった。
その日、ルドルフは家族に会いたいが為に足抜けしようとしたが失敗、楼主の弥七から折檻を受けた。
アルフレートは折檻されたルドルフを手当てしていると、彼の唇の端が血で滲んでいる事に気づいた。
「ルドルフ様、その時はわたしもお供致します。」
ルドルフとアルフレートが華屋に売られてから、十年の歳月が経った。
―おい、見ろよ、あれ・・
―今をときめく翡翠太夫と碧太夫の太夫道中だ!
―華屋の“天女太夫”を二人共見られるなんて、幸せだねぇ。
シャラシャラと、豪奢な簪を揺らしながら共に足で外八文字を描くのは、華屋の太夫として美しく成長したルドルフとアルフレートだった。
「やっぱり、あんたの目利きはあの時間違っていなかったようだねぇ、玄八。」
お夏は沿道で二人の太夫道中を見ながら、女衒にそう言って笑った。
「今や飛ぶ鳥を落とす勢いの二人が、未だに男と肌ひとつ重ねちゃいねぇってここいらの野郎共が知ったら、どうなるか・・」
「馬鹿だねぇ、あんた。あの二人の孤高の美しさが、この町を支えているのさ。」
お夏はそう言うと、女衒と共に店へと戻った。
「これ全部、あの二人宛の、ご贔屓様からの贈り物なの!?」
「あんたは新入りだから知らないけれど、あの二人はうちでは特別な存在なのよ。」
「へぇ・・」
禿達がそんな事を廊下で話していると、アルフレートはルドルフの髪を黄楊の櫛で優しく梳いていた。
「お前に髪を梳いて貰うと、何だか落ち着くな。」
「ルドルフ様、お客様の前では顰め面をしてはいけませんよ?」
「あれは、あの親爺がわたしの手をしつこく握って来たから・・」
「だとしても、顔に出してはいけませんね。」
「お前、小言を言うのは昔から変わらないな。」
「そうですか?」
アルフレートはそう言いながらも、櫛で髪を梳く手を止めなかった。