老舎の《出口成章》はきれいな文章で書かれており、学習教材として好適ではないでしょうか。老舎の創作活動の打明け話もたいへん興味深いものです。今回は、《語言、人物、戯劇》という題の、講演の書き取りです。ここで老舎は、芝居の脚本を書くときに使うことばについて述べています。
■ 要我来談談創作経験,我没有什麼可談的。説几句関于戯劇語言的話吧。
文学の創作の経験を話さなければなりませんが、何も話すべきことがありません。芝居のことばについて、いくらかお話したいと思います。
■ 写劇本,語言是一個要緊的部分。首先,語言性格化,很難掌握。我写的很快,但事先想得很多、很久。人物什麼模様,説話語気,以及他的思想、感情、環境,我都想得差不多了才動筆,写起来就快了。劇中人的対話応該是人物自己応該説的語言,這就是性格化。対一個快人快語的人,要知道他是怎様快法,這就要考慮到人物的思想、感情和劇情等几個方面,然后再写対話。在特定時間、地点、情節下,人物説話快,思想也快,這是甲的性格。假如只是口歯快,而思想并不快,這不是甲,而是乙,另一個人了。有些人是快人而不快語,有些人是快語而不是快人,這要区別開。《水滸》中的李逵、武松、魯智深等人物,都是農民英雄,性格有相近之処,却又各不相同,這在他們的説話中也可区別開。写現代戯,読読《水滸》,対我有好処。尤其是写内部矛盾的戯,人物不能太壊,不能写成敵人。那麼,語言性格化就要在相差不多而確有差度上注意了。這很不容易,必須事先把人物都先想好,以便甲説甲的話,乙説乙的話。
・快人 kuai4ren2 はきはきした人
・口歯 kou3chi3 話し方/[用例]口歯清楚:ことばがはっきりしている。口歯伶俐:口が達者である
・開[方向補語]動詞+開:事物が開いたり、分かれたり、離れたりすることを表す。心理的、観念的な状態にも比喩的に用いられる。→ここでは、違いがはっきりすること。
芝居の脚本を書く時、ことばは重要な部分です。先ず、ことばの性格化ですが、うまく運用するのがたいへん難しい。私は筆が速い方ですが、事前に多くのことを、時間をかけて考えます。人物がどのような容貌をしていて、話の口ぶりはどうか、それからその人物の思想、感情、環境はどうか、それらを概ね考えた上で、はじめて筆を動かすと、書き始めると筆が速く進みます。劇中の人物の対話は、その人物自身が話すことばでなければならず、これがつまり性格化です。てきぱきと早口でものを言う人なら、その人はどのようにして早口になるのか知らなければなりません。そうすると人物の思想、感情や劇の状況などいくつかの面まで考慮しなければならず、そうしてからまた対話を書き始めます。特定の時間、場所、状況の下で、ある人物の話が早口で、頭の回転も速いなら、これは甲という人物の性格になります。もし話し方が早口なだけで、頭の回転が速くないなら、これは甲ではなく、乙という人物で、別の人物です。何人かの人は、てきぱきとしていますが、話ぶりは早口ではありません。何人かの人は、早口ですが、てきぱきとはしていません。これらははっきりと区別しなければなりません。《水滸伝》の中の李逵、武松、魯智深といった人物は、皆農民出身の英雄で、性格は似たところもありますが、またそれぞれ異なっていて、このことが彼らの話の中でもはっきり区別されています。現代劇を書く時、《水滸伝》を読んでみるのも、私にとっては得るところがあります。とりわけ内部に矛盾をはらんだ劇を書く時、登場人物はあまり悪く書いてはならず、仇にしてしまうことはできません。そうであるなら、ことばの性格化は、その違いがあまり大きくないけれども、その違いに確かに注意が払われていなければなりません。これは容易でなく、事前に人物をよく考え、甲は甲の話をし、乙は乙の話をするようにしなければなりません。
■ 脾気古怪,好説怪話的人物,個性容易突出。這種人物作為次要角色,在一個戯里有一個両個,会使戯顕得生動。不過,古怪人物是比較容易写的。要写出正常人物的思想、感情等等是不容易的,但作者的注意力却是応該放在這里。
・次要 ci4yao4 ⇔主要 二次的な、副次的な。主要ではないこと。
・角色 jue2se4(劇や映画の登場人物の)役、役柄。/“角”は多音字で、ここではjue2と発音します。
性格が変わっていて、変なことを言うのが好きな人物は、個性が際立ちます。こうした人物は主要な人物には成り得ませんが、一つの劇の中に一人か二人配置してやると、劇は明らかに生き生きとしてきます。けれども、奇妙な人物はわりと書き易いのですが、正常な人物の思想や感情などを描くのは容易ではありません。しかし作者の注意力はここにこそ置かれなければなりません。
■ 写人物要“留有余地”,不要一下筆就全傾倒出来。要使人物有発展。我們的建設発展得極快,人人応有発展,否則跟不上去。這点是我写戯的一個大毛病。我総把力気都放在第一幕,痛快淋漓,而后難以為継。因此,第一幕戯很好,値五毛銭,后面几幕就一銭不値了。這有時候也証明我的人物確是従各方面都想好了的,故能一下筆就有声有色。可是,后面却声嘶力竭了。曹禺同志的戯却是一幕比一幕精彩,好戯在后面,最后一幕是高峰,這才是引人入勝的好戯。
・留(有)余地 liu2(you3)yu2di4 (話や事をする時に)余地を残す。ゆとりをもたせる
・淋漓 lin2li2 さっぱりしている。すっきりしている/痛快淋漓:痛快極まる
・有声有色 you3sheng1you3se4 [成語]生き生きとしている。精彩を放つ
・声嘶力竭 sheng1si1li4jie2 [成語]声をからし力を出し尽くす。声が枯れへとへとに疲れる
・引人入勝 yin3ren2ru4sheng4 [成語]人を惹きつけて夢中にさせる
人物を書くには「ゆとりをもたさ」なければならず、筆を走らすやいなや全力を傾けてはなりません。人物は発展させなければなりませんが、話の展開が早すぎて、登場人物もそれにつれて発展させなければならず、そうでないと追いついていきません。これが、私が書く芝居の大きな問題点です。私はいつも力点を第一幕に置いて、痛快極まりないのですが、後が続きません。だから、第一幕は芝居がたいへん良くて、50銭の値打ちはあるのですが、その後の何幕かは一銭の値打ちもありません。このことは、時には私の書く人物がいろいろな面からよく考えてあるので、筆を走らすや生き生きと精彩を放つことができることの証明でもありますが、その後は声が枯れてへとへとになってしまいます。曹禺の芝居は一幕ごとに精彩を増し、良い芝居が後ろに控え、最後の一幕で最高潮に達します。これこそ人を惹きつけ夢中にさせる良い芝居と言えましょう。
■ 再談談語言的地方化。先譲我引《紅楼梦》第三十九回劉老老進大観園和賈母的一段話:
次にことばの地方化についてお話しましょう。先ず、《紅楼梦》第三十九回の、劉ばあさんが大観園に入り、賈のご隠居と絡む場面を引用させてください。
■ 賈母道:“老親家,你今年多大年紀了?”
劉老老忙起身答道:“我今年七十五了。”
賈母向衆人道:“這麼大年紀了,還這麼硬朗!比我大好几歳呢!我要到這個年紀,
還不知怎麼動不得呢!”
劉老老笑道:“我們生来是受苦的人,老太太生来是享福的。我們要也這麼着,
那些庄稼活也没人做了。”
賈母道:“眼睛牙歯還好?”
劉老老道:“還都好,就是今年左辺的槽牙活動了。”
賈母道:“我老了,都不中用了,眼也花,耳也聾,記性也没了。你們這些老親戚,
我都記不得了。親戚們来了,我怕人笑話,我都不会。不過嚼得動的吃両口,睡一覚,
悶了時,和這些孫子孫女儿玩笑会子就完了。”
劉老老笑道:“這正是老太太的福了。我們想這麼着不能。”
賈母道:“什麼福?不過是老廃物罷咧!”説的大家都笑了。
賈母又笑道:“我才聴見鳳哥儿説,你帯了好些瓜菜来,我叫他快收拾去了。
我正想個地里現結的瓜儿菜儿吃,外頭買的不像你們地里的好吃。”
刘老老笑道:“這是野意儿,不過吃個新鮮;依我們倒想魚肉吃,只是吃不起。”……
・硬朗 ying4lang [口語](老人が)体が丈夫である。足腰がしゃんとしている
・-不得 (動詞の後に用いて)なんらかの差しさわりがあってその動作ができない
・庄稼活(儿)zhuang1jiahuo2(r) 野良仕事
・槽牙 cao2ya2 奥歯。臼歯。(“臼歯”jiu4chi3の通称)
・活動 huo2dong4 ぐらつく
・不中用 bu4zhong1yong4 役に立たない
・聾 long2 耳が遠い
・嚼 jiao2 噛む。咀嚼する
・-得動 (動詞の後について)思うように動かしたりさばいたりすることができる
・玩笑 wan2xiao4 冗談を言う
賈のご隠居様が言われた。「おばあさん、今年でお幾つになられました?」
劉ばあさんは急いで姿勢を整えると答えて言った。「今年で七十五になります。」
ご隠居様は周りの者達に言われた。「こんなお年なのに、まだ足腰のしっかりされていること!私よりずっと年上でおられるのに!私がその年になったら、もう体が動かないかもしれませんわ!」
劉ばあさんは笑って言った。「私たちは生まれつき苦労してきた人間ですが、奥様は生まれつきお幸せであられますから。私たちはどうしたってこのように暮らしていかないといけません。あんな野良仕事も誰もやってくれませんから。」
ご隠居様は言われた。「眼や歯はまだ大丈夫ですか?」
劉ばあさんは言った。「まだ大丈夫です。ただ、今年になって左の奥歯がぐらぐらするようになりましたが。」
ご隠居様は言われた。「私はもうだめで、皆役に立たなくなりました。眼もかすみますし、耳も遠くなりました。もの憶えも悪くなりました。あなた方親戚のことも、憶えられなくなりました。親戚が来られたら、人に笑われるのが厭なので、お会いしないようにしています。でも噛めるものを一口二口食べて、寝て、気晴らしに、あの孫たちと冗談を言ったら、それで十分です。」
劉ばあさんは笑って言った。「それなら奥様はお幸せというものですわ。私たちはそうしようと思ってもできませんから。」
ご隠居様は言われた。「何が幸せというものですか。逝きそこないのがらくたに過ぎませんわ。」そう言われると、皆はどっと笑った。
ご隠居様は又笑って言われた。「さっき鳳ちゃんから聞いたのですが、良い瓜や野菜を持って来ていただいたとか。あの子に言って収めさせました。ちょうど採れたての瓜や野菜を食べたいと思っていましたので。外で買うのはあなた方の畑のもののように美味しくありませんから。」
劉ばあさんは笑って言った。「不作法ですが、せめて新鮮なものを食べていただこうと思って。私たちは魚や肉が食べたいと思っても、お金が無くて食べられませんから。」
■ 這里是両個老太太的対話。以語言的地方性而言,両人説的都是地道北京話。她們的話没有雕琢,没有棱角,但在表面平易之中,却語語,両人的思想、性格都鮮明地表現出来了。賈母的話是假謙虚,倚老売老;劉老老的話則是表面奉承,内藏風刺。“依我們倒想魚肉吃,只是吃不起”,這句話是多麼害!作者没有把賈母和劉老老的話写得一雅一俗,説的是同様的語言,却表現了尖鋭的対立。這是高度的語言技巧。所謂語言的地方性,我以為就是対語言熟悉,要熟悉地方上的一切事物,熟悉各階層人物的語言,才能得心応手,用語精当。同時,也只有熟悉人物性格,才能通過対話准確地表現不同身份、地位的人物性格特征。
・雕琢 diao1zhuo2 過度に文章を飾ること(元々の意味は、玉を彫り刻むこと)
・棱角 leng2jiao3 [比喩]才能。鋭気(元々の意味は、器物の角のこと)
・針鋒相対 zhen1feng1xiang1dui4 [成語]針の先が向かい合う。真っ向から対決する。鋭く対決する。
・倚老売老 yi3lao3mai4lao3 [成語]年寄り風を吹かせる。ベテランであることを鼻にかける。
・奉承 feng4cheng お世辞を言う。へつらう。おべっかをつかう。
・得心応手 de2xin1ying4shou3 [成語]思いどおりの結果が現れる。事がすらすらと運ぶ。
・精当 jing1dang4 (言論や文章が)詳しくて正しい。適切で申し分ない
これは二人の老婦人の対話です。ことばの地方性から言うと、二人の言っているのは生粋の北京語です。彼女たちの話は飾りがなく、鋭い議論もありません。しかし表面的には平易ですが、一つ一つのことばには、二人の考え、性格が鮮明に表現されています。賈のご隠居の話は謙虚さを装っていますが、年寄り風を吹かしています。劉ばあさんの話は、表面はこびへつらっていますが、内には風刺を含んでいます。「私たちは魚や肉を食べたくても、お金がなくて食べられません」ということばはなんともきつい。作者は賈のご隠居と劉ばあさんを一方は優雅に一方は低俗にと区別しては書いておらず、話しているのは同じようなことばですが、鋭い対立を表しています。これは高度なことばのテクニックです。いわゆることばの地方性というのは、私は、ことばを熟知していて、地方の一切の事物を熟知していて、各階層のことばを熟知していてはじめて、思い通りに表現することができ、使うことばも的を得られるのだと思います。同時に、人物の性格を熟知してはじめて、対話を通じて正確に異なる身分、地位の人物の性格、特徴を表現できるのだと思います。
【出典】老舎《出口成章》上海・復旦大学出版社 2004年7月
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■ 要我来談談創作経験,我没有什麼可談的。説几句関于戯劇語言的話吧。
文学の創作の経験を話さなければなりませんが、何も話すべきことがありません。芝居のことばについて、いくらかお話したいと思います。
■ 写劇本,語言是一個要緊的部分。首先,語言性格化,很難掌握。我写的很快,但事先想得很多、很久。人物什麼模様,説話語気,以及他的思想、感情、環境,我都想得差不多了才動筆,写起来就快了。劇中人的対話応該是人物自己応該説的語言,這就是性格化。対一個快人快語的人,要知道他是怎様快法,這就要考慮到人物的思想、感情和劇情等几個方面,然后再写対話。在特定時間、地点、情節下,人物説話快,思想也快,這是甲的性格。假如只是口歯快,而思想并不快,這不是甲,而是乙,另一個人了。有些人是快人而不快語,有些人是快語而不是快人,這要区別開。《水滸》中的李逵、武松、魯智深等人物,都是農民英雄,性格有相近之処,却又各不相同,這在他們的説話中也可区別開。写現代戯,読読《水滸》,対我有好処。尤其是写内部矛盾的戯,人物不能太壊,不能写成敵人。那麼,語言性格化就要在相差不多而確有差度上注意了。這很不容易,必須事先把人物都先想好,以便甲説甲的話,乙説乙的話。
・快人 kuai4ren2 はきはきした人
・口歯 kou3chi3 話し方/[用例]口歯清楚:ことばがはっきりしている。口歯伶俐:口が達者である
・開[方向補語]動詞+開:事物が開いたり、分かれたり、離れたりすることを表す。心理的、観念的な状態にも比喩的に用いられる。→ここでは、違いがはっきりすること。
芝居の脚本を書く時、ことばは重要な部分です。先ず、ことばの性格化ですが、うまく運用するのがたいへん難しい。私は筆が速い方ですが、事前に多くのことを、時間をかけて考えます。人物がどのような容貌をしていて、話の口ぶりはどうか、それからその人物の思想、感情、環境はどうか、それらを概ね考えた上で、はじめて筆を動かすと、書き始めると筆が速く進みます。劇中の人物の対話は、その人物自身が話すことばでなければならず、これがつまり性格化です。てきぱきと早口でものを言う人なら、その人はどのようにして早口になるのか知らなければなりません。そうすると人物の思想、感情や劇の状況などいくつかの面まで考慮しなければならず、そうしてからまた対話を書き始めます。特定の時間、場所、状況の下で、ある人物の話が早口で、頭の回転も速いなら、これは甲という人物の性格になります。もし話し方が早口なだけで、頭の回転が速くないなら、これは甲ではなく、乙という人物で、別の人物です。何人かの人は、てきぱきとしていますが、話ぶりは早口ではありません。何人かの人は、早口ですが、てきぱきとはしていません。これらははっきりと区別しなければなりません。《水滸伝》の中の李逵、武松、魯智深といった人物は、皆農民出身の英雄で、性格は似たところもありますが、またそれぞれ異なっていて、このことが彼らの話の中でもはっきり区別されています。現代劇を書く時、《水滸伝》を読んでみるのも、私にとっては得るところがあります。とりわけ内部に矛盾をはらんだ劇を書く時、登場人物はあまり悪く書いてはならず、仇にしてしまうことはできません。そうであるなら、ことばの性格化は、その違いがあまり大きくないけれども、その違いに確かに注意が払われていなければなりません。これは容易でなく、事前に人物をよく考え、甲は甲の話をし、乙は乙の話をするようにしなければなりません。
■ 脾気古怪,好説怪話的人物,個性容易突出。這種人物作為次要角色,在一個戯里有一個両個,会使戯顕得生動。不過,古怪人物是比較容易写的。要写出正常人物的思想、感情等等是不容易的,但作者的注意力却是応該放在這里。
・次要 ci4yao4 ⇔主要 二次的な、副次的な。主要ではないこと。
・角色 jue2se4(劇や映画の登場人物の)役、役柄。/“角”は多音字で、ここではjue2と発音します。
性格が変わっていて、変なことを言うのが好きな人物は、個性が際立ちます。こうした人物は主要な人物には成り得ませんが、一つの劇の中に一人か二人配置してやると、劇は明らかに生き生きとしてきます。けれども、奇妙な人物はわりと書き易いのですが、正常な人物の思想や感情などを描くのは容易ではありません。しかし作者の注意力はここにこそ置かれなければなりません。
■ 写人物要“留有余地”,不要一下筆就全傾倒出来。要使人物有発展。我們的建設発展得極快,人人応有発展,否則跟不上去。這点是我写戯的一個大毛病。我総把力気都放在第一幕,痛快淋漓,而后難以為継。因此,第一幕戯很好,値五毛銭,后面几幕就一銭不値了。這有時候也証明我的人物確是従各方面都想好了的,故能一下筆就有声有色。可是,后面却声嘶力竭了。曹禺同志的戯却是一幕比一幕精彩,好戯在后面,最后一幕是高峰,這才是引人入勝的好戯。
・留(有)余地 liu2(you3)yu2di4 (話や事をする時に)余地を残す。ゆとりをもたせる
・淋漓 lin2li2 さっぱりしている。すっきりしている/痛快淋漓:痛快極まる
・有声有色 you3sheng1you3se4 [成語]生き生きとしている。精彩を放つ
・声嘶力竭 sheng1si1li4jie2 [成語]声をからし力を出し尽くす。声が枯れへとへとに疲れる
・引人入勝 yin3ren2ru4sheng4 [成語]人を惹きつけて夢中にさせる
人物を書くには「ゆとりをもたさ」なければならず、筆を走らすやいなや全力を傾けてはなりません。人物は発展させなければなりませんが、話の展開が早すぎて、登場人物もそれにつれて発展させなければならず、そうでないと追いついていきません。これが、私が書く芝居の大きな問題点です。私はいつも力点を第一幕に置いて、痛快極まりないのですが、後が続きません。だから、第一幕は芝居がたいへん良くて、50銭の値打ちはあるのですが、その後の何幕かは一銭の値打ちもありません。このことは、時には私の書く人物がいろいろな面からよく考えてあるので、筆を走らすや生き生きと精彩を放つことができることの証明でもありますが、その後は声が枯れてへとへとになってしまいます。曹禺の芝居は一幕ごとに精彩を増し、良い芝居が後ろに控え、最後の一幕で最高潮に達します。これこそ人を惹きつけ夢中にさせる良い芝居と言えましょう。
■ 再談談語言的地方化。先譲我引《紅楼梦》第三十九回劉老老進大観園和賈母的一段話:
次にことばの地方化についてお話しましょう。先ず、《紅楼梦》第三十九回の、劉ばあさんが大観園に入り、賈のご隠居と絡む場面を引用させてください。
■ 賈母道:“老親家,你今年多大年紀了?”
劉老老忙起身答道:“我今年七十五了。”
賈母向衆人道:“這麼大年紀了,還這麼硬朗!比我大好几歳呢!我要到這個年紀,
還不知怎麼動不得呢!”
劉老老笑道:“我們生来是受苦的人,老太太生来是享福的。我們要也這麼着,
那些庄稼活也没人做了。”
賈母道:“眼睛牙歯還好?”
劉老老道:“還都好,就是今年左辺的槽牙活動了。”
賈母道:“我老了,都不中用了,眼也花,耳也聾,記性也没了。你們這些老親戚,
我都記不得了。親戚們来了,我怕人笑話,我都不会。不過嚼得動的吃両口,睡一覚,
悶了時,和這些孫子孫女儿玩笑会子就完了。”
劉老老笑道:“這正是老太太的福了。我們想這麼着不能。”
賈母道:“什麼福?不過是老廃物罷咧!”説的大家都笑了。
賈母又笑道:“我才聴見鳳哥儿説,你帯了好些瓜菜来,我叫他快收拾去了。
我正想個地里現結的瓜儿菜儿吃,外頭買的不像你們地里的好吃。”
刘老老笑道:“這是野意儿,不過吃個新鮮;依我們倒想魚肉吃,只是吃不起。”……
・硬朗 ying4lang [口語](老人が)体が丈夫である。足腰がしゃんとしている
・-不得 (動詞の後に用いて)なんらかの差しさわりがあってその動作ができない
・庄稼活(儿)zhuang1jiahuo2(r) 野良仕事
・槽牙 cao2ya2 奥歯。臼歯。(“臼歯”jiu4chi3の通称)
・活動 huo2dong4 ぐらつく
・不中用 bu4zhong1yong4 役に立たない
・聾 long2 耳が遠い
・嚼 jiao2 噛む。咀嚼する
・-得動 (動詞の後について)思うように動かしたりさばいたりすることができる
・玩笑 wan2xiao4 冗談を言う
賈のご隠居様が言われた。「おばあさん、今年でお幾つになられました?」
劉ばあさんは急いで姿勢を整えると答えて言った。「今年で七十五になります。」
ご隠居様は周りの者達に言われた。「こんなお年なのに、まだ足腰のしっかりされていること!私よりずっと年上でおられるのに!私がその年になったら、もう体が動かないかもしれませんわ!」
劉ばあさんは笑って言った。「私たちは生まれつき苦労してきた人間ですが、奥様は生まれつきお幸せであられますから。私たちはどうしたってこのように暮らしていかないといけません。あんな野良仕事も誰もやってくれませんから。」
ご隠居様は言われた。「眼や歯はまだ大丈夫ですか?」
劉ばあさんは言った。「まだ大丈夫です。ただ、今年になって左の奥歯がぐらぐらするようになりましたが。」
ご隠居様は言われた。「私はもうだめで、皆役に立たなくなりました。眼もかすみますし、耳も遠くなりました。もの憶えも悪くなりました。あなた方親戚のことも、憶えられなくなりました。親戚が来られたら、人に笑われるのが厭なので、お会いしないようにしています。でも噛めるものを一口二口食べて、寝て、気晴らしに、あの孫たちと冗談を言ったら、それで十分です。」
劉ばあさんは笑って言った。「それなら奥様はお幸せというものですわ。私たちはそうしようと思ってもできませんから。」
ご隠居様は言われた。「何が幸せというものですか。逝きそこないのがらくたに過ぎませんわ。」そう言われると、皆はどっと笑った。
ご隠居様は又笑って言われた。「さっき鳳ちゃんから聞いたのですが、良い瓜や野菜を持って来ていただいたとか。あの子に言って収めさせました。ちょうど採れたての瓜や野菜を食べたいと思っていましたので。外で買うのはあなた方の畑のもののように美味しくありませんから。」
劉ばあさんは笑って言った。「不作法ですが、せめて新鮮なものを食べていただこうと思って。私たちは魚や肉が食べたいと思っても、お金が無くて食べられませんから。」
■ 這里是両個老太太的対話。以語言的地方性而言,両人説的都是地道北京話。她們的話没有雕琢,没有棱角,但在表面平易之中,却語語,両人的思想、性格都鮮明地表現出来了。賈母的話是假謙虚,倚老売老;劉老老的話則是表面奉承,内藏風刺。“依我們倒想魚肉吃,只是吃不起”,這句話是多麼害!作者没有把賈母和劉老老的話写得一雅一俗,説的是同様的語言,却表現了尖鋭的対立。這是高度的語言技巧。所謂語言的地方性,我以為就是対語言熟悉,要熟悉地方上的一切事物,熟悉各階層人物的語言,才能得心応手,用語精当。同時,也只有熟悉人物性格,才能通過対話准確地表現不同身份、地位的人物性格特征。
・雕琢 diao1zhuo2 過度に文章を飾ること(元々の意味は、玉を彫り刻むこと)
・棱角 leng2jiao3 [比喩]才能。鋭気(元々の意味は、器物の角のこと)
・針鋒相対 zhen1feng1xiang1dui4 [成語]針の先が向かい合う。真っ向から対決する。鋭く対決する。
・倚老売老 yi3lao3mai4lao3 [成語]年寄り風を吹かせる。ベテランであることを鼻にかける。
・奉承 feng4cheng お世辞を言う。へつらう。おべっかをつかう。
・得心応手 de2xin1ying4shou3 [成語]思いどおりの結果が現れる。事がすらすらと運ぶ。
・精当 jing1dang4 (言論や文章が)詳しくて正しい。適切で申し分ない
これは二人の老婦人の対話です。ことばの地方性から言うと、二人の言っているのは生粋の北京語です。彼女たちの話は飾りがなく、鋭い議論もありません。しかし表面的には平易ですが、一つ一つのことばには、二人の考え、性格が鮮明に表現されています。賈のご隠居の話は謙虚さを装っていますが、年寄り風を吹かしています。劉ばあさんの話は、表面はこびへつらっていますが、内には風刺を含んでいます。「私たちは魚や肉を食べたくても、お金がなくて食べられません」ということばはなんともきつい。作者は賈のご隠居と劉ばあさんを一方は優雅に一方は低俗にと区別しては書いておらず、話しているのは同じようなことばですが、鋭い対立を表しています。これは高度なことばのテクニックです。いわゆることばの地方性というのは、私は、ことばを熟知していて、地方の一切の事物を熟知していて、各階層のことばを熟知していてはじめて、思い通りに表現することができ、使うことばも的を得られるのだと思います。同時に、人物の性格を熟知してはじめて、対話を通じて正確に異なる身分、地位の人物の性格、特徴を表現できるのだと思います。
【出典】老舎《出口成章》上海・復旦大学出版社 2004年7月
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