今回は、北京伝統の“小吃”を取り上げます。“扒糕”、発音はpa2gao1です。“扒”pa2とは、手や熊手で引っかくという意味。蕎麦粉に熱湯をかけてかき混ぜて固めたものなので、日本の蕎麦掻きの親戚になるでしょうか。もう一つ、“灌腸”guan4changは、蕎麦粉をソーセージのように豚の腸に詰め込み、小口に切ってこんがり焼いたもの。或いは腸を使わず、扒糕を薄く切って焼いたものも灌腸と言います。
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■ 説起蕎麦面食品,除去面条、圧合絡he2le而外,還可以做両種有特殊風味的食品:扒糕pa2gao1和灌腸。這是両種地道的北京民間小吃,説糕gao1不是糕,称腸不是腸,究竟是什麼,且聴我慢慢道来。
・合絡 he2le 蕎麦粉や高粱粉を捏ねて、ところてん突きのようなもので突き出して筋状とし、そのまま鍋に落として煮て食べる。正しくは“河漏”he2lou4と書くが、訛ってhe2leとなった。“合”は正しくは“食”偏に合。“絡”は正しくは“食”偏に“各”。“圧”は、本当は“軋”ya4で、ところてん突き状の道具で突き出すこと。
・糕 gao1 小麦粉を捏ねて焼いたケーキや餅(ビン)などの食べ物の総称
蕎麦粉を使った食品について言えば、ソバや合絡 he2le以外に、二種類の特別な風味の食品を作ることができる。扒糕(パアガオ)と灌腸である。これは二種類の生粋の北京の民間のスナック(小吃)であり、“糕”gao1と言っているが“糕”(小麦粉や米粉を蒸したり焼いたりした食品)ではなく、“腸”と呼んでいるが“腸”(腸詰)ではない。それではつまるところ何であるかは、私がこれからゆっくり説明するのを聞いてほしい。
■ 焼一鍋開水,最好是風箱柴火,不停地拉風箱,水噗噗pu1pu1地滚gun3開着,把蕎麦面一辺洒入水中,一辺不停地攪動,就像打漿糊一様,等到攪稠之后,便須很快撤火,不然就焦了。在鍋中冷却一会儿,趁熱一団団地拿起,按成碗口大小的厚餅,顔色是藕荷色,一個個放在容器中,待完全冷却,就可以切成薄片吃了。
・風箱 feng1xiang1 ふいご
・柴火 chai2huo 柴や薪で燃やした火
・噗噗pu1pu1 お湯が沸騰して水蒸気が噴き出る様。ぽっぽっ。しゅっしゅっ。
・滚開 gun3kai1 ぐらぐら煮えたぎる
・攪動 jiao3dong4 棒などで液体をかき回す
・漿糊 jiang4hu のり。“打漿糊”でのりを作る。
・稠 chou2 濃い。稠密である。
・撤火 che4huo3 火から下ろす
・碗口 wan3kou3 茶碗の口。15センチくらいの物の太さを言う時にこう言う。
・藕荷 ou3he2 赤みがかった薄紫色。
鍋に湯を沸かす。できれば薪の火をふいごで吹いてやるのがよい。絶えずふいごを吹き、湯がふつふつと煮えたぎってきたら、蕎麦粉を湯の中に撒き入れながら、絶えずかき回してやると、のりを作る時のように、ねばねばと固くなってくるので、そうなったら素早く火から下ろす。そうしないと焦げてしまう。鍋の中が少し冷えてきたら、熱いうちにひと塊りずつ取り出し、茶碗の口くらいの大きさのだんごにする。色はうす紫色で、一個一個を容器の中に入れ、完全に冷めたら、薄切りにして食べる。
■ 一種是冷食法,同用淀粉制成的涼粉一起在夏天売。吃時,小販従瓦盆中取一塊餅,用小刀切成片放在碗中,撩一点塩水、醋,加一勺調稀的芝麻醤,滴両滴辣油,再加一点腌紅蘿蔔絲,用筷kuai4子拌一拌就可以吃了。味道咸咸的,酸酸的,有点像江南水磨年糕片一様,吃起来很滑,很韌ren4,有蕎麦香,這就叫扒糕,昔年在北京做過中小学生的人,大概都吃過吧?
・涼粉 liang2fen3 リャンフェン。本来は緑豆の粉で作った、ところてんのような食べ物。ここでは、でんぷんから作ると書いてあるので、おそらく葛粉から作ったくずもちのようなものだと思う。
・撩 liao1 水や液体を手ですくってふりかける。
・調稀 diao4xi1 薄める・腌 yan1 塩漬けにする。みそや醤油に漬ける。
・韌 ren4 強くてしなやかである。腰がある。
一つは冷たくして食べる食べ方で、でんぷんで作った涼粉(リャンフェン)といっしょに夏に売る。食べる時、もの売りは素焼の鉢の中からだんごを一塊り取り出し、小刀で小口に切ると碗の中に入れ、塩水、酢をふりかけ、さじ一杯の薄めたゴマ味噌を加え、ラー油を垂らし、更に塩漬けのニンジンの細切りを加え、箸で和えれば食べられる。味は塩辛く、酸っぱく、江南の水研ぎの粉で作ったもちのように、食べてみるとつるつるして、腰があって、蕎麦の香りがする。これを扒糕(パアガオ)と言い、昔北京で小中学生時代を過ごしたことがある人なら、おそらく食べたことがあるのではないだろうか。
■ 把這様的東西切成薄片,放在平底鍋上用熟猪油半炸半煎,煎成焦黄色盛入盤中,淋上一点塩水蒜汁,吃起来別有風味,這就叫灌腸。其実并不是腸子,只不過有時加一点色料,做成粉紅色的。記得后門外橋頭上有一家舗子叫合義斎,専門売灌腸而出名,対門還有一家舗子是以“大葫芦”為商標出名的。這是老北京愛吃的一種小吃,同爆肚等類的食品一様,既非菜,又非点心,只能説是一種很好吃的閑食罷了。
・淋 lin2 水や液体をかける。花などに水をかけて濡らしてやること。
・灌腸 guan4chang 本来は腸詰め(ソーセージ)の意味だが、文にあるようにここでは蕎麦粉を使ったスナックである。だから“不是腸子”(ソーセージではない)と言ったのである。
・橋頭 qiao2tou2 橋のたもと
・爆肚 bao4du3 牛や羊の胃袋を刻み、熱湯にさっと通して調味料をつけて食べる料理。
これを薄切りにし、平底鍋の上で熱したラードで半ば揚げるように煎りつけ、焼けて焦げ茶色になったのを皿に盛り、塩水やニンニクの擦り下ろし汁をかければ、食べると格別の風味がある。これを灌腸と言う。実はソーセージではなく、時に着色料を加え、ピンク色に色をつけることがあるだけである。確か后門外の橋のたもとに合義斎という名の店があり、灌腸を専門に売っていて有名だった。その向いのもう一軒の店は、「大きな瓢箪」を商標にして有名だった。これは年配の北京の人が好きなスナックで、豚の胃袋の類と同様、おかずでもなく、軽食でもなく、美味しい、手持無沙汰な時に口に入れるものと言うしかない。
■ 扒糕与灌腸,在近人雪印軒主的《燕都小食品雑咏》中都有詩和注,其注扒糕条云:
熱天的扒糕,用蕎麦面蒸成餅式,浸凉水中,食者以刀割成小条,拌醋蒜醤油等而食之。
扒糕と灌腸は、近世の人、雪印軒主の《燕都小食品雑咏》の中に詩と注釈があり、その注の扒糕の項に言う: 夏の暑い日の扒糕は、蕎麦粉を蒸して餅状にし、冷たい水に浸し、食べる時に包丁で細い棒状に切って、酢、ニンニク、醤油などと和えて食べる。
■ 其注煎灌腸条云:
以染紅色之蕎麦粉灌入猪腸内,煮熟后,刀切成塊,猪油煎之,使焦,蘸塩水爛蒜而食之。
・蘸 zhan4 液体、粉末、或いは糊状のものをちょっとつける
その灌腸の炒めものの項に言う:
赤色に染めた蕎麦粉を豚の腸に詰め込み、よく煮てから、包丁で小口に切り、ラードでこれを炒め、塩水とおろしニンニクをちょっとつけて食べる。
■ 大概這位雪印軒主不大欣賞這両様純北京味的食品,詩中説的很不好,什麼色悪、蝋味等等,所以他的詩就不引了。
おそらくこの雪印軒主という人はこの二種類の純粋な北京風味の食べ物をあまり賞味したことがないのだろう。詩の中で美味しくないとか、色が悪いとか、ロウソクのような味だとか言っているので、彼の詩は引用しない。
■ 灌腸在西長安街另有名店叫聚仙居,有人記以詩云:
老餐習気総難除,食品精研楽有余,油炸灌腸滋味美,長安街畔聚仙居。
・習気 xi2qi4 (よくない)癖、風習。
・精研 jing1yan2 詳しく研究する
灌腸は西長安街にもう一店、有名な聚仙居という店があり、ある人が詩に詠んで言うには:
昔からの食べ物の習慣はなかなか除くことが難しい。食品はよく研究されていて、その楽しみは余りある。油で揚げた灌腸の風味は素晴らしい。長安街のほとりの聚仙居。
■ 又咏扒糕云:
蕎麦搓団様式奇,冷食熱食各相宜,北平特産人称,醋蒜還加蘿蔔絲。
・搓 cuo1 (両手で)もむ。こする。(ひもなどを両手の掌で)よる。より合わせる。
また扒糕を詠んで言う:
蕎麦を捏ねて団子に丸めた形は奇妙だが、冷たくしても熱くして食べても美味しい。北京名物で皆が賞賛する。酢、ニンニクに大根の細切りを加えて食べる。
■ 這位是北京人,対扒糕、灌腸就大加賛賞了。
この人は北京の人で、扒糕、灌腸を大いに褒め称えた。
■ 蕎麦不同莜麦,它的種類很多,還有甜蕎、花蕎、苦蕎之分。苦蕎磨成面,做成凉粉是豆緑色,味道比甜蕎還重,略帯苦味,是涼性的東西,吃了很能解内熱,近似緑豆的作用。
・莜麦 you2mai4 カラスムギによく似た麦の一種。中国西北地方に多く、“油麦”とも書く。
・豆緑色 dou4lv4se4 淡緑色。薄緑色。
・涼性 liang2xing4 漢方で言うところの体内の熱を冷ましてくれる食品。
蕎麦は莜麦(ヨウマイ)とは異なり、その種類はたいへん多く、その他、甘蕎麦、花蕎麦、苦蕎麦に分かれる。苦蕎麦を挽いて粉にし、作った凉粉(リャンフェン=トコロテンのような食べ物)は薄緑色で、味は甘蕎麦より濃く、少し苦味があり、熱を冷ましてくれる食物で、食べると体内の熱を下げ、緑豆のような働きがある。
■ 蕎麦春天開小花,産量低,但成熟期短,北方春夏之間逢天旱,地里出不了苗時,就改種蕎麦,即使種的很晩,秋天也能有所収穫,所以是救荒的好東西。蕎麦皮是装枕頭芯子的好材料,弾性極好,几十年不砕。我有一個蕎麦皮枕芯,几十年了,跟着我南北播遷,我天天枕着它做思郷夢,真是一往情深啊!
・天旱 tian1han4 雨が降らない。旱魃。
・救荒 jiu4huang1 救荒。不作を切り抜ける。飢饉から人々を救うため、積極的な措置を講じること。
・播遷 bo1qian1 [書面語]故郷を離れ、さすらい移る。流離する。
・一往情深 yi1wang3qing2shen1 [成語]自分の感情を抑えきれないほど夢中になる。人や物にひたすらあこがれる、首ったけになる。
蕎麦は春に小さな花が咲き、生産量は少ないが、実の熟すまでの時間が短く、北方で春、夏の間に旱魃になり、新芽が出ない時、蕎麦を植えると、種蒔きが遅くなっても、秋に収穫することができるので、凶作を救うことのできる良い作物である。蕎麦殻は枕の芯に入れる好材料で、弾性がたいへん良く、数十年使ってもボロボロ崩れない。私は蕎麦殻の枕を一つ持っているが、もう数十年になる。私といっしょに南へ北へとさすらい、私は毎晩これを枕に故郷の夢を見ている。本当にこれ無しではいられない。
【出典】雲郷《雲郷話食》河北教育出版社 2004年11月
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