“―きみはいま、自分の小説が誰に読まれると思ってるんだろう?新進作家となってからある年齢まで、きわめて大きい読者というのではないが、まあ、純文学としては例外的な部数の作家がきみだった。いまも、こうして生活できるだけの本の売れ行きは維持している。そうきみはいいたいだろう?むしろそれがあるために、きみには、自分がいまどういう読者に読まれているか、先行きはどうか、という配慮と、どのようにして新しい読者を獲得するか、という企業努力が欠落しているよ。
映画だと、そういう悠長なことは誰もやってはいられないぜ。おれの場合、映画会社に所属しているわけじゃないし_といっても、そういう所も軒並赤字だがな_興行不振が二度続けば、もう次の作品を撮る見込みはない。それを千樫が話すと、いや吾良ならそうじゃないだろう、ときみはいったそうだが、こういう点でもきみの時代認識はズレているんだ。こちらの作るものは「寅さん」じゃないから、観客は変わり続けるしね、いかに新しい観客を開拓するかが、緊急の課題なんだ。だからといって、自分に面白い主題を、自分の作り方で撮る、その大枠を外すわけではないんだぜ……”
『取り替え子 チェンジリング』 大江健三郎
「まわり道」も、「寅さん」まで戻ってきた。
映画だと、そういう悠長なことは誰もやってはいられないぜ。おれの場合、映画会社に所属しているわけじゃないし_といっても、そういう所も軒並赤字だがな_興行不振が二度続けば、もう次の作品を撮る見込みはない。それを千樫が話すと、いや吾良ならそうじゃないだろう、ときみはいったそうだが、こういう点でもきみの時代認識はズレているんだ。こちらの作るものは「寅さん」じゃないから、観客は変わり続けるしね、いかに新しい観客を開拓するかが、緊急の課題なんだ。だからといって、自分に面白い主題を、自分の作り方で撮る、その大枠を外すわけではないんだぜ……”
『取り替え子 チェンジリング』 大江健三郎
「まわり道」も、「寅さん」まで戻ってきた。