>英国株が英国内で独自進化を遂げたように、日本でも同じようにウイルスが進化しているとも考えられる
3/10/2021
新型コロナウイルスの変異株が目に見えて猛威をふるい始めた。感染力が強い英国株や、ワクチンの効果を弱めるとされる南アフリカ株とブラジル株の市中感染が各地で広がった。出所不明の「第4の変異株」も関東で拡大しているほか、国内独自の変異まで指摘されている。日本の現状は変異株が拡大しやすい環境にあると警告する専門家もいる。
国立感染症研究所は9日、国内で主に報告されている英国、南アフリカ、ブラジル由来の3種類とは別のタイプが、関東を中心に3日までに394件、検疫で2件見つかったと明らかにした。南アフリカ株やブラジル株と一部共通する変異があり、再感染のリスクが高まったり、ワクチンの効果が減ったりする恐れが指摘されている。
同研究所の斎藤智也・感染症危機管理研究センター長は「このタイプが主流になっているわけではないとみているが、引き続き実態把握に努める」と話している。海外から入ってきたらしいが詳しい経緯は分かっていない。
広島市では1月17日以降の陽性者から変異株13件が確認され、うち少なくとも7件が英国株と判明している。英国株は、感染力が強いだけでなく、2次感染率も25~40%高いとされるほか、1・3倍の死亡リスクとの関連も指摘されている。
埼玉県では8日、変異株への20人の感染例が報告され、うち10歳未満の子供を含む18人がブラジル株とみられる。
南ア株とブラジル株は「E484K」と呼ばれる変異も備える。このウイルスに対する人間の免疫を弱める性質を持つとされ、ワクチンが効きにくいとの見方もある。
また、変異株は子供への感染例も多いとされ、今後主流になってきた場合、飲食店中心のウイルス防止策や、高齢者優先のワクチン接種の方向性についても抜本的な見直しを迫られる恐れもある。
さらには国内でウイルスが変異した可能性を指摘する研究も出ている。 東北大災害科学国際研究所の児玉栄一教授(災害感染症学)は、「海外から独自に持ち込まれた可能性もあるが、英国株が英国内で独自進化を遂げたように、日本でも同じようにウイルスが進化しているとも考えられる」とみる。 現在、ワクチンの先行接種を徐々に進めている日本だが、皮肉にもこうした環境が、変異株が拡大するうえで好都合との見方もある。
長崎大熱帯医学研究所所長の森田公一教授(ウイルス学)は、「ウイルスは常に突然変異を起こすが、なかには免疫をすりぬける変異体が出現する可能性がある。たとえば免疫を持った人が社会全体の2~3割くらいの状態になり、行動変容などの対策をしないまま流行が継続した場合、免疫をすり抜ける変異体が拡大する素地ができる」と解説する。
今後は流行の主役が従来株から変異株に転じることが考えられる。感染研によれば、昨年9月に変異株が確認された英国では、すでに9割以上を占めるようになった。米国でも検出割合が3月中にすべて英国株に置き換わるとの試算もある。
1人の感染者が何人にうつすかを示す実効再生産数について、東洋経済オンラインの8日時点のデータでは東京都が0・94と拡大を示す1に近い水準だ。全国では1・02と増加モードに転じている。こうしたなか、変異株対策として、何をすればいいのか。
森田氏は、「ワクチンが7~8割に普及するまで1~2年以上かかる。実効再生産数が1前後の現状で、感染力が1・7倍程度強い英国型が増えれば、ほどなく第3波並みの再拡大が避けられず、その前に0・5程度まで下げなければならない。接触を極力減らす行動変容の努力が引き続き必要だ」と指摘する。
前出の児玉氏は、「変異株の確認から半年を経ても、病原性が高くなっている証拠はないが、ワクチンの効果が下がる可能性がある点は問題だ。当面は自治体をまたぐ移動を自粛したほうがよいのではないか」との見解を示した。