三十四 言へばえに言はねば胸に騒がれて心一つに歎く比かな 在原業平
いえばえにいわねばむねにさわがれてこころひとつになげくころかな
新勅撰恋一 業平集
三十五 玉の緒を沫緒に縒りて結べれば絶えての後も逢はむとぞ思ふ 紀女郎
たまのおをあわをによりてむすべれはたえてののちもあわむとぞおもふ
万葉集四、新勅撰恋五 古今六帖
三十六 谷狭み峰まで這へる玉鬘絶えむと人に我が思はなくに 男
たにせばみみねまではえるたまかづらたえむとひとにわがおもはなくに
万葉集十四
三十七 我ならで下紐解くな朝顔の夕影待たぬ花には有りとも 男
われならでしたひもとくなあさがおのゆふかげまたぬはなにはありとも
三十七 二人して結びし紐を一人して逢ひ見るまでは解かじとぞ思ふ 色好女
ふたりしてむすびしひもをひとりしてあいみるまではとかじとぞおもう
万葉集十二異伝
三十八 君により思ひ習ひぬ世の中の人は是をや恋といふらむ 男
きみによりおもひならひぬよのなかのひとはこれをやこいというらむ
三十八 習はねば世の人ごとに何をかも恋とは言ふと問ひし我しも 紀有常
ならはねばよのひとことになにをかもこいとはいうとといしわれしも
三十九 出でて去なば限りなるべみ灯し消ち年経ぬるかと鳴く声を聞け 在原業平
いでていなばかぎりなるべみともしけちとしへぬるかとなくこゑをきけ
在中将集、業平集 古今六帖
三十九 いとあはれなくぞ聞こゆる灯し消ち消ゆるものとも我は知らずな 源至
いとあわれなくぞきこゆるともしけちきゆるものともわれはしらすな
在中将集
四十 出でて去なば誰か別れの難からむ有りしに勝る今日は悲しも 在原業平
いてでいなばだれかわかれのかたからむありしにまさるきょうはかなしも
続後撰集恋三 在中将集、業平集 古今六帖
四十一 紫の色濃き時はめもはるに野なる草木ぞ別れざりける 在原業平
むらさきのいろこきときはめもはるにのなるくさきぞわかれざりける
古今集雑上 在中将集、業平集
四十二 出でて来し跡だに未だ変わらじを誰が通ひ路と今はなるらむ 在原業平
いでてこしあとだにいまだかわらじをたがかよいぢといまはなるらむ
新古今集恋五 在中将集、業平集
四十三 郭公汝が鳴く里の数多あれば猶疎まれぬ思ふものから 在原業平
ほとときすながなくさとのあまたあればなおうとまれぬおもうものから
古今集夏 在中将集、業平集、猿丸集
四十三 名のみ立つ死出の田長は今朝ぞ鳴く庵数多と疎まれぬれば 女
なのみたつしでのたおさはきょうぞなくいおりあまたとうとまれぬれば
四十三 庵多き死出の田長は猶頼む我が住む里に声し絶えずは 在原業平
いおりおおきしでのたおさはなおたのむわがすむさとにこゑしたえずは
在中将集、業平集