新古今和歌集の部屋

謡曲 通小町

通小町                       四番目物 観阿弥

山城の八瀬で修業している僧に毎日薪や木の実を届ける女がいたが、名を聞くと、市原野辺に住む姥だと告げる。小町の説話を思い出し、市原野に来て弔うと小町の霊が現れ喜ぶが、四位の少将の霊が現れ成仏を妨げようとする。
僧は地獄に苦しんでいる少将に、懺悔することを勧め、少将は百夜通いの有様を見せ、共に成仏する。

シテ:四位少将霊 前ヅレ:里姥 後ヅレ:小野小町霊 ワキ:八瀬僧

 


ツレ いかに申候、又こそ參りて候へ
ワキ いつも來り給ふ人か、今日の木の實の數々御物語候へ。
ツレ女 拾ふ木の實は何々ぞ
地 拾ふ木の實は何々ぞ
女 いにしへ見馴れし、車に似たるは、嵐に脆き落椎
地 歌人の家の木の實には
女 人丸の垣穂の柿山邊の笹栗
地 窓の梅
女 園の桃
同 花の名にある櫻麻の、生浦梨なをもあり、櫟香椎まてば椎、大小柑子金柑、あはれ昔の戀しきは、花橘の一枝、花橘の一枝。

 

※桜麻の、生浦梨

第十六 雜歌上 1472 

題しらず          源俊頼

さくらあさのをふの浦波立ちかへり見れどもあかず山梨の花


女 嬉しの御僧のとぶらひやな、同じくは戒授け給へ御僧
シテ いや叶ふまじ、戒授け給はば、恨み申べし、はや歸り給へ御僧
女 こはいかに適かかる法にあへば、猶其苦患を見せむとや
シテ ふたり見るだに悲しきに、御身一人佛道ならば我思ひ、重きが上の小夜衣、重ねて憂き目を三瀬河に、沈み果てなば御僧の、授け給へるかひもあるまじ、早歸り給へや、御僧たち。
同 猶もその身は迷ふとも、猶もその身は迷ふとも、戒力にひかれば、などか佛道ならざらむ、唯ともに戒を受け給へ
女 人の心は白雲の、われは雲らじ心の月、出て御僧に弔はれむと、薄押し分け出ければ
シテ 包めど我も穂に出て、包めど我も穂に出て、尾花招かば止まれかし
地 思ひは山の鹿にて、招くとさらに止まるまじ
シテ さらば煩悩の犬となつて、討るると離れじ
地 恐ろしの姿や
シテ 袂を取つて引き止むる
地 引かるる袖も
シテ 控ふる
同 我袂も、共に涙の露、深草の少將。


※重きが上の小夜衣、重ねて

第二十 釋歌 1964 

十戒の歌よみ侍りけるに不邪淫戒     寂然法師

さらぬだに重きが上のさよ衣わがつまならぬつまな重ねそ

女 本より我は白雲の、かゝる迷ひのありけるとは

シテ 思ひもよらぬ車の榻に、百夜通へと偽りしを、誠と思ひ、暁ごとに忍び車のしぢにゆけば

女 車の物みもつゝましや。姿をかへよといひしかば

シテ こし車は云に及ばず

シテ いつか思ひは

地 山城の木幡の里に馬はあれ共

シテ 君を思へばかちはだし

女 扨其すがたは

シテ 笠にみの

女 身の浮世とや丈の杖

シテ 月には行も暗からず

女 さてゆきには

シテ 袖をうちはらひ

女 さて雨の夜は

シテ 目に見えぬ、鬼のひと口もおそろしや

女 たま/\くもらぬ時だにも

シテ 身獨にふるなみだの雨か。


※ゆきには 袖をうちはらひ

第六 冬歌 百首歌奉りし時 藤原定家朝臣

駒とめて袖うち拂ふかげもなし佐野のわたりの雪のゆふぐれ

※ 鬼のひと口

伊勢物語六段

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