よいながらあけたると覚ゆる作ほどに、夜こそよひ
のまゝにて明たれ。されとも月はのこりてあらん
とおもへば、月も入にけりといふ作なり。その
ごとく、春の夜の夢のうきはしこそとだえ
してみじかけれ。夜はまだあけまじきほど
にとみわたせば、よこ雲もわかるゝとなり。
一 きさらぎまでむめの花咲侍らざりける
としよみ侍ける 中務
中務卿敦慶親王ノ女。母ハ伊勢也。きさら
ぎとは二月なり。二月のさえかへりさむくて
更に衣をかさねてきるよし也と、清輔
の説也。中務とは父の名をとりて名
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とせり。八省のうち、中務、式部、兵部は親王の
卿になり給ふ也。中務は其中きぼなると也。
一 しるらめやかすみの空をながめつゝ花も匂はぬ春をなげくと
増抄云。しるらめやとは、なげくといふ事を、花ががしる
らめやとなり。しらぬものにてあらんとなり。しり
たらば咲べきかといへる心もありとなん。此つゝと
云は、心のこもりたるつゝてにをは也。空はのどかに
かすみわたりてあるを打ながめつゝ、扨もこの天氣
にては咲べき事なるにと、いろ/\におもひたる
躰がこもりたり。花がさきたらば、いはんがた
なく十分なるべきにとなげくといふ事を、
花がしるらめや、いやしらぬ物よとかへりてみる也。