角 田 川
四番目物・狂女物 観世雅作
隅田川の渡しにわが子を人買いに取られた女の物狂が京都から遥々やって来る。対岸の柳に人だかりがあり、それは去年の春無情な人買いが病気の少年を置き去りにして、落命した。名を吉田某の子梅若丸という。「都が恋しい」との遺言から路傍に葬られて、今日の三月十五日が命日で大念仏供養の為に人が集まっていると教える。その子こそわが子と知った狂女は、絶望のあまり泣き崩れる。念仏を唱えると少年の声が聞こえ塚から姿が現れ、母が近付こうとすると消えた。夜が明けると墓標のみがあるだけだった。吉田少将と班女を踏まえるかもしれない。
女 實や人の親の、心は闇にあらねども、子を思ふ道に迷ふとは、今こそ思ひ白雪の、道行人に言傳て、行ゑを何と尋ぬらん。
シテ 聞くやいかに、うはの空なる風だにも
地 松に音する慣ひあり
女 眞葛が原の露の世に
地 身を恨みてや、明暮れむ。
女 是は都北白河に、年經て住める女なるが、思はざる外にひとり子を、人商人に誘はれて、行ゑを聞けば相坂の、關の東の國遠き、東とかやに下りぬと、聞より心亂れつつ、そなたとばかり思ひ子の、跡を尋て迷ふなり。
同 千里を行も親心、子を忘れぬと聞物を。
同 本よりも、契り假なる一つ世の、契り假なる一つ世の、其うちをだに添ひもせで、爰やかしこに親と子の、四鳥の別れ是なれや、尋ぬる心の果てやらむ、武藏の國と、下綜の中にある、角田河にも着にけり、角田河にも着にけり。
聞くやいかに、うはの空なる風だにも松に音する慣ひ
第十三 戀歌三 1199 宮内卿
水無瀬にて戀十五首歌合に寄風戀
聞くやいかにうはの空なる風だにもまつに音する習ありとは
眞葛が原の
第十一 戀歌一 1030 前大僧正慈圓
百首歌奉りし時よめる
わが戀は松を時雨の染めかねて眞葛が原に風さわぐなり