新古今和歌集の部屋

校正七部集 猿蓑 巻之四 3 蔵書

陽炎や 取つき かぬる 雪 の 上  荷兮

かけろうや土もこなさあぬあらおこし  百歳

かけろうや ほろ/\落る岸 の 砂  土芳
                   伊賀
いとゆふの いとあそふ也虚 木 立  氷固

野 馬に 子 共 あそはす 狐 哉  凡兆

かけろうふや 柴胡の 糸の 薄曇り  芭蕉
                   同
いとゆふに 皃引のはせ 作り 独活  配力

狗脊 のちりに えらるゝ わらひ哉  嵐雪

彼岸まへ さ むさも 一夜 二夜哉  路通

みのむしや 常 のなりにて 涅槃像  野水

蔵 並ふ 裏は燕 の か よひ 道  凡兆
                   同
立さわく 今や 紀 の 厂いせの鴈  沢雉

春雨や 屋根の 小草に 花 咲 ぬ  嵐虎

   高山に臥て

春雨 や 山より 出る 雲 の 門  猿雖

不性 さや かき 起されし 春の雨  芭蕉

春 雨や 田 蓑の しまの 鯲 売  史邦

はる雨の あかるや 軒に なく 雀  羽紅

泥 亀や 苗代 水 の 畦 つたひ  史邦

蜂とまる 木舞の 竹や 虫 の 糞  昌房

振舞や 下 座に 直る 去年の 雛  去来
                   伊賀
はる風に こかすな 雛の 駕籠の衆  萩子

桃 柳 くはりありくや をんなの子  羽紅
                   三河
もゝの花 堺 しまらぬ 垣 根 哉  島巢

里 人 の臍 落したる 田 螺かな  嵐推

蝶の 来て 一夜寝にけり 葱のきほ  半残
                  加州山中
紙 鳶きれて 白根か嶽 を行方 哉  桃妖
                   伊賀
いかのほり こゝにも すむや  潦  園風

日の影や こもく の上 の親すゝめ  珎碩

荷鞍 ふむ 春のすゝめや 縁 の先  土芳

闇の夜や 巣を まとはし て 鳴鵆  芭蕉

  越より飛弾へ行とて籠のわたりのあや

  うきところ/\道もなき山路にさまよひて

鷲の巣の樟 の 枯枝に日は 入りぬ  凡兆
                   伊賀
かすみより 見えくる雲のかしら 哉  石口

子や待ん 餘り 雲雀の 高 あかり  杉風

 


かげろふやとりつきかねるゆきのうへ  荷兮(陽炎:春)
かげろふやつちもこなさぬあらおこし  百歳(陽炎:春)
かげろふやほろほろおちるきしのすな  土芳(陽炎:春)
いとゆふのいとあそぶなりからきだて  氷固(糸遊:春)
かげろふにこどもあそばすきつねかな  凡兆(野馬:春)
かげろふやさいこのいとのうすぐもり  芭蕉(陽炎:春)
 ※柴湖 翁草。漢名、赤熊柴湖
いとゆふにかほひきのばせつくりうど  配力(糸遊:春)
ぜんまいのちりにえらるるわらびかな  嵐雪(蕨:春)
ひがんまへさむさもひとよふたよかな  路通(彼岸前:春)
みのむしやつねのなりにてねはんざう  野水(涅槃会:春)
くらならぶうらはつばめのかよひみち  凡兆(燕:春)
たちさわぐいまやきのかりいせのかり  沢雉(雁立つ:春)
はるさめややねのをぐさにはなさきぬ  嵐虎(春雨:春)
はるさめややまよりいづるくものもん  猿雖(春雨:春)
ぶしやうさやかきおこされしはるのあめ 芭蕉(春雨:春)
はるさめやたみののしまのどぢやううり 史邦(春雨:春)
 ※田蓑 摂津の歌枕。淀川河口にある島の一つだが、諸説あって不明。
はるさめのあがるやのきになくすずめ  羽紅(春雨:春)
どうがめやなはしろみづのあぜづたひ  史邦(苗代水:春)
 ※泥亀 すっぽん
はちとまるこまひのたけやむしのふん  昌房(蜂巣作り:春)
 ※木舞 壁の下地に組む竹骨。壁土が崩れて露出した。
ふるまひやしもざになをるこぞのひな  去来(雛:春)
 ※振舞や 去来抄で取り上げ、芭蕉は、「五文字に心をこめて置かば信徳が人の世やなるべし。十分ならずとも振舞にて堪忍あるべし」と評している。
はるかぜにこかすなひなのかごのしう  萩子(春風:春)
 ※雛の駕籠の衆 三月の節句に親類に甘酒等を贈るのに、雛人形を乗り物に乗せ、使者に見立てた。
ももやなぎくばりありくやをんなのこ  羽紅(桃柳:春)
 ※桃柳 三月の節句の雛飾りの桃の花と柳。
もものはなさかひしまらぬかきねかな  鳥巣(桃の花:春)
 ※堺しまらぬ 隣家と堺に咲く桃は、どちらからも眺め、散って行くという意味。
さとびとのへそおとしたるたにしかな  嵐推(田螺:春)
てふのきてひとよねにけりねぎのぎぼ  半残(蝶:春)
 ※一夜寝にけり 万葉集 山部赤人(古今集仮名序)春の野にすみれつみにとこし我ぞ野をなつかしみひと夜寝にける
 ※葱のぎぼ  葱の擬宝。葱坊主。
いかきれてしらねがたけをゆくゑかな  桃妖(紙鳶:春)
 ※紙鳶 いか。凧。
 ※白根が嶽 白山。知らねの掛詞。
いかのぼりここにもすむやにはたづみ  園風(紙鳶幟:春)
 ※潦  にわたずみ。水溜り。
ひのかげやごもくのうえのおやすずめ  珎碩(親雀:春)
 ※ごもく 芥、水屑
にぐらふむはるのすずめやえんのさき  土芳(春雀:春)
やみのよやすをまどはしてなくちどり  芭蕉(鳥の巣:春)
 ※まどはして 冬されば佐保の河原の川霧に友まどはせる千鳥なくなり(拾遺集 冬歌 紀友則)を踏まえる。
 ※鳥の巣 千鳥は冬、水鳥の巣は夏とするが、鳥の巣として春部に収載。他の所収の陸奥鵆は冬、泊船集は夏と解釈が分かれる。
わしのすのくすのかれえにひはいりぬ  凡兆(鳥の巣:春)
かすみよりみえくるくものかしらかな  石口(霞:春)
こやまたんあまりひばりのたかあがり  杉風(雲雀:春)

コメント一覧

jikan314
@s1504 窪庭様
コメントありがとうございます。
文字を読む勉強、江戸時代のことばの勉強、俳句の勉強を兼ねてアップしているので、なかなか先に進みません。長い目でご覧下さい。
今もビルの谷間を、ツバメが往き来しておりますが、大量のフンを嫌って、巣を作らせない者もいるとか。
蔵の前は、人や荷の往き来で喧騒な場所ですが、裏には燕の巣で、せっせと親鳥がヒナにエサを運んでいるのどかな春の風景を吟じ、その様子が見える俳句ですね。
又御來室いただけば幸いです。
拙句
飛び立つや子の去る家につばめの巣
s1504
こんばんは。
俳句はいいですね。

蔵 並ふ 裏は燕 の か よひ 道  凡兆

何気ない表現に惹かれます。
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