絵入自讚歌註 宗祇
を思ひ入はつらきあらし心えらるゝにや。
ある註にまつともきたる事なし。しかあれども
待ならひたるとてこのあらしにもまつとの
心なり。もみてせんかたなき哥なり。
きえわびぬうつろふ人の秋の色に
身をこがらしのもりの下つゆ
身をこがらしとは身をこがす事またもりのした
露とは人の心ははげしきを猶おもひのつゆの
きえわびぬるよしにや。なを此うた心もことばも
世にしらぬすがたにこそ。なをうつろふ人の秋の色
に思ひきえぬ思ひの露なを折角の事にや。
ある註に恋わびたるちからの残りたるたゞこが
らしのもりのした露なり。たとへよめる也。
玉ゆらの露もなみだもとゞまらず
玉ゆらの露もなみだもとゞまらず
なき人こふるやどのあきかぜ
母の思ひにてよめるとなん。こゝろはあきらか也。
いづくにかこよひはやどをかりころも
ひもゆふぐれのみねのあらしに
こゝろあらはなり。たゞ旅行の夕のあはれおも
ひさとるべし。わがおもふ人をたびにやりて日も
くるればいづくにかやどをまどふといふこゝろ也。
ある註にかけり。たづぬべし。
袖にふけさぞなたびねの夢はみし
おもふかたよりかよふうらかぜ
此さそなとは我上の事をはかりていふなり。たび
ねには夢をもさぞなみざらんといふこゝろなり。
夢をみんたのみあらば風をもいとひ侍るべきに
ゆめにたのみなければ思ふかたのかぜそでにも
ふけといふよしにや。かの物語に 恋わびてな
くねにまがふうらなみは思ふかたより風やふく
らん。といへるうたをとりてよめるにやとぞおぼえ
侍る。惣じていづれの哥人のうたをもあさはか
にいひとゝむべきにはあらねどことにいひいてん
事みやうがのほどおそろしく侍れどもしゐて
承候まゝしるし侍るあひかまへて/\両神おそれ
をかけ給ふべくなん。返/\あなかしこ/\
又ある註にたびねとは夢などもさらにみぬこと
はりなればさだめて此方をのみぞおもひをこ
すらん。わがまくらを吹かぜたびなる人の袖にいひ
かけたる也。津みなとなどにとゞまるらんとふるさ
とにておもひやるこゝろあはれなりとかけり。か
くあらしのことはりながら書くわゆるもの也。