百人一首聞書 中院本 京都大学蔵
イエト可読事ナルヲ
ヤカモチトヨム也 中納言家持 大伴宿禰
大納言旅人男也。◯説云々。
口伝
鵲の渡せる橋にをく霜のしろきを見れば夜ぞ深にける
七夕にいへるは又格別の事也。准南子ニ烏鵲為橋ト云事は是は七月七日鵲と云鳥ノ来て為橋て織女を渡スト云事なり。此歌の鵲ノ橋と云は冬深ク成テ月もなく一天ノ雲晴たる夜霜は天に満ゝとして暁ノ寒タル夜の事也。夜嵐ノ吹尽してならでは霜は置ぬ者也。√月落烏啼霜天満天の心也。橋に置霜といはん為也。只空を鵲と云なり。霜置タル空の雲ノ梯也。此時分ニ置出て見ば余情可在之。此等が歌ノ寿命といはんと也。道具なき歌也。空に打向て読タル歌也。大和物語云泉大将右ノおほい殿に夜更て酒なとノ酔ノ余にまうで給てあれば此夜更たるに何とて御出るもあるぞと御隔子などを上さはぎたれば壬生ノ忠岑御共に有て御階ノ本に松ともしながらひざまつきて御せうそこ申たると也。その歌に √鵲の渡せる橋の霜の上を夜はにふみ分ことさらにこそ との給と申たればあるじノ大臣哀に思召て其夜一夜大御酒などまいりてあそび給とあり。此歌も家持が鵲ノと同前云々。
頭注
※1 三説。維南子ニ烏鵲橋ト成トいへり。七月七日ノ事也。
※2 聞書。祇注。同之。
※3 三亜説。八雲にも鵲の雲ノ梯トよめり。此鵲は銀河をよめる也。闇ノ夜ノ明方ニみれは空ノ一筋白キは銀河也。霜ノ天ニ満タルヲ思ひやりて夜もやかて可明ト思やりたる心也。
※4 √暁西山堅又横。これ銀河ノ事也。
※5 建保歟。歌合ニ家隆卿 鵲の渡すやいづこ をく霜しろき雲ノ梯
※6 雪月花ニ対しては読るゝを暁の空まて心を付る事奇妙也云々。
※霜置タル空の雲ノ ※5 建保歟。〜家隆卿
新勅撰和歌集
建保五年内裏歌合 冬山霜 正三位家隆
かささぎのわたすやいづこゆふしものくもゐにしろきみねのかけはし