百人一首聞書 天理図書館蔵
中納言家持 従二位鎮守将軍大伴宿禰。従二位大納言大伴宿禰旅人男。
鵲のわたせる橋に置霜の白を見れは夜そ更にける
是は新古今ニ入。鵲の橋と云古事礼記の月令烏鵲双翼作橋ト渡牽牛織女二星ヲ云云。此遊子伯陽七夕となれば古事彼コニ注る事あり。略之。哥の心はかさゝきは橋の枕詞におけり。其故は橋をかれは渡し初たれはなり。只此哥は渡せる橋に霜のしろきを見てさては今夜はいたく更ぬらんと云心也。霜は橋なんとより顕そむる物也。鶏声茆店月入跡板橋霜ト云云。又霜は暁方降物也。月落鳥(烏)鳴霜満天云云。此哥七夕の事を詞にひきたる也。冬の哥なれは只はしに霜のふりたる事也。又此哥並に 鵲の雲の梯秋暮て夜はにや霜のさへわたるらん 是も同心なるへし。又一説暁かたの天に物の引はへて橋のことくなる儀夜深てしろく見ゆれは鵲の橋に霜のふりたるかと見ゆる心也。彼案よゐには下界の山河草木万物のいき天にのほりて空に引はへてあるか夜更ては又下地にくたる是は天地隠(陰)陽也。此くたるにて天の河と云にや。然は暁を川たれ時とよめり。天河とたれさかる時也。此天河躰真実橋のことく也。。只冬の夜の深たる空に向て此哥の心無師独悟すへしと云云。
※鶏声茆店月入跡板橋霜
商山早行 温庭筠(801?~866)
晨起動征鐸 晨起征鐸を動かし
客行悲故郷 客行故郷を悲しむ
雞聲茅店月 鶏声茅店の月
人迹板橋霜 人跡板橋の霜
槲葉落山路 槲葉山路に落ち
枳花明驛牆 枳花駅牆に明らかなり
因思杜陵夢 因りて思う杜陵の夢
鳧雁滿廻塘 鳧雁廻塘に満つ
楓橋夜泊 張継
月落烏啼霜滿天 月落ち烏啼きて霜天に満つ
江楓漁火對愁眠 江楓の漁火愁眠に対す
姑蘇城外寒山寺 姑蘇城外の寒山寺
夜半鐘聲到客船 夜半の鐘声客船に到る
※鵲の雲の梯
新古今和歌集巻第五 秋歌下
攝政太政大臣大將に侍りける時百首
歌よませ侍りけるに
寂蓮法師
鵲の雲のかけはし秋暮れて夜半には霜や冴えわたるらむ
よみ:かささぎのくものかけはしあきくれてよわにはしもやさえわたるらむ 定隆 隠
意味:鵲の雲のような天の河に掛かる梯に秋が暮れて、夜半には霜が冴え渡るのだろう。
備考:建久六百番歌合。