前大納言公任
藤原公任(ふじわらのきんとう966~1041)関白実頼の孫。正二位権大納言通称四条大納言。四納言の一人。三十六歌仙を撰んだ。和漢朗詠集などの撰者。
六首
秋歌下
紅葉見にまかりてよみ侍りける
うち群れて散るもみぢ葉を尋ぬれば山路よりこそ秋はゆきけれ
よみ:うちむれてちるもみじばをたずぬればやまじよりこそあきはゆきけれ
冬歌
題しらず
白山にとしふる雪やつもるらむ夜半にかたしく袂さゆなり
よみ:しらやまにとしふるゆきやつもるらむよわにかたしくたもとさゆなり
哀傷歌
世中はかなく人々多くなくなり侍りける頃、中將
宣方朝臣身まかりて十月ばかり白河の家にまかれ
りけるに紅葉の一葉殘れるを見侍りて
今日來ずは見でややみなむ山里の紅葉も人も常ならぬよに
よみ:きょうこずはみでややみなむやまざとのもみじもひともつねならぬよに
戀歌一
左大將朝光五節舞姫奉りけるかしづきを見て遣は
しける
天つ空豐のあかりに見し人のなほおもかげのしひて戀しき
よみ:あまつそらとよのあかりにみしひとのなおおもかげのしいてこいしき
五月五日馬内侍に遣はしける
時鳥いつかと待ちし菖蒲草今日はいかなるねにか鳴くべき
よみ:ほととぎすいつかとまちしあやめぐさきょうはいかなるねにかなくべき
雜歌上
花山院おりゐたるたまひて又の年御佛名にけずり花につ
けて申し侍りける
程もなく覺めぬる夢のうちなれどそのよに似たる花の色かな
よみ:ほどもなくさめぬるゆめのうちなれどそのよににたるはなのいろかな