
■タイ高齢者の健康政策と温泉利用■
内閣府大臣官房審議官 館 逸志
「進行するタイの少子高齢化」
●日本では介護保険の改正で、高齢者の健康政策が大きな関心 を集めています。
日本から見ると東南アジアの国々では、高齢化 などまだ先の問題と思えるかも
しれません。
しかし、タイにおいても将来の高齢化は大きな経済社会問題と捉え られています。
●2001年に私がタイ国家経済社会開発庁に勤務している時に、同地域の合計特殊
出生率が 1.1まで下がっているということを聞いて驚 いた記憶があります。
タイ全体でも 日本 NIEsに続いて 矢張り少子高齢社会が到来する ことが予想さ
ています。
「高齢者健康増進に温泉利用」
● こうした中で、タイにおいても高齢者健康増進に目が向くことは、自然な流れと
言えます。
ただ、タイの保健省からまさか温泉を利用した高齢者健康増進策に ついて、問い合わせが
来ようとは想像していませんでした。
あにはからんや、タイ保健省では真面目に温泉を利用した高齢者健康増進政策を考えて
いるようです。
「東南アジア健康リゾートのハブを目指して」
● こうした政策の大本は、前タクシン政権が進めたニッチ産業の振興に よる経済
成長戦略から来ているようです。
タイは、従来のように規格大量生産型工業製品の輸出を核とする経済成長を図る
だけでは、中国などの追い上げでいずれ行き詰まるとの認識です。
●そこで、タイの古式マッサージ、ハーブ、各種マリンスポーツなどの多 様な健康関連
サービスと質の高いリゾート環境、それに売り出し中の 外国人向け医療サービスを
利用してタイを東南アジアの健康リゾートのハブにしていこうという訳です。
日本でも、コンテンツ産業の育成など同様の文脈で語られていますが、
タイの方が一歩先を行っていると言えるかもしれません。
「未活用資源としての温泉」
● そして、国際的な健康リゾートの整備と高齢者健康増進という課題に 対して、
温泉利用の開発が共通の手段となりうるというのが、今回お 会いしたタイ保健省
のタニン博士の主張でした。
●これは、予てより、日本人のタイでのロングステイ環境の整備に温泉 利用を
考えていた私自身の考えとも合いそうなので、
今回のタイ訪問 先に加えさせていただきました。
タイの温泉というと余りピンと来ない方も多いことでしょう。
温泉は確かに熱帯雨林の中より山中雪渓の下の方が似合います。
しかし、温泉の有無は、地表温度は関係ありませんから、熱帯のタイ にも存在していて
不思議ではありません。
●温泉好きの私が,タイの各地で訪問した場所だけ数えても少なくとも数 十箇所の源泉が
湧出しています。
特に、チェンマイ近くのサンカンペン温泉、タイ南部クラ地峡近くのラノ ンは湧出量
も豊富で、それなりに浴場も整備されています。
ただ、そうは言っても、全般的にはほとんど活用されていないに等しい と言えましょ
う。
「温泉の健康利用と縦割り行政」
● 今回タイで意見交換した保健省、観光庁は、先の国際的な健康リゾー ト開発など
の国家開発戦略に従って、それなりにソフトな政策を展開しているようです。
● 両省庁では、多くのパンフレット、CDなどの英文資料をいただきました。
しかし、本格的な温泉の健康利用は、ほとんど全く進んでいません。
保健省の説明では、ラノン県の県立病院で唯一温泉を利用した理学 療法が多少
取り入れられているという話でした。
●一方、観光庁の説明では、ランパーン県に日本流の温泉施設が設置 されている
との話でした。
実は、タイで温泉の源泉のありそうな土地を所有しているのは、多くが 王室林野局となって
います。
●観光庁は健康リゾートの整備促進、保健省は医療・保健サービスの質 的向上を図る
面から、未活用資源である温泉利用を促進しようとします。
しかし、基本的には源泉地周辺で事業を行う主体は、官では王室林野局しかないの
です。
「タイにも広がるか温泉文化」
● 保健省との意見交換は、畢竟、温泉利用に際する基準、資格と いった 話となる
しかありません。
タイには、国際スタンダードの温泉施設・関連サービスの基準がない。
したがって、日本の協力を得てそうした基準を作り、人材育成を行いた いという話です。
しかし、どう見ても、実体が伴わないところで、立派な基準や人材育成 プログラムばかり
作っても役に立ちそうにありません。
●まずは、日本のロングステーヤーのニーズに応えられるような商業ベー スの施設
がサンカンペン辺りにできて、そこから温泉文化が広まること が必要でしょう。
丁度、2,3年前に、サンカンペン温泉周辺に温泉公園が整備され、それ が結構地元の人々
の行楽地として賑わっているようです。
その周辺に、少し本格的な温泉リゾートでもできて、チェンマイの日本人 ロングステーヤーの
人気スポットにでもなれば、うまく回転していくかもし れません。
■著者のプロフィール
・1991~94年・在タイ日本大使館一等書記官を経て
・1998年・タイ国政府・国家経済社会開発庁政策顧問
・現在 内閣府大臣官房審議官
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