2009年11月15日(日)
超過密スケジュールで日本を訪問し、実質滞在丸一日でシンガポールに飛び立ったオバマ大統領が、11月14日に日本国民に向けて行った講演のニュースと要旨は以下の通り。
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日米基軸に指導的役割=アジア外交で関与強化
-日本人拉致解決促す・オバマ大統領 時事通信 2009年11月14日(土)12:03
訪日中のオバマ米大統領は14日午前、都内のサントリーホールで、アジア外交に関する初の主要演説を行った。大統領はこの中で、「日本との緊密な友好関係を通して、アジア太平洋地域の繁栄と安全を向上させる措置をとる」と述べ、日米同盟を基軸に、米国がアジア地域における関与を強化し、指導的役割を果たす考えを表明した。
オバマ大統領は、この日招待された各界の代表者ら約1500人を前に演説。ハワイで生まれインドネシアで育った自らの生い立ちを紹介した上で、「太平洋地域出身の初の米大統領として、この極めて重要な地域において、指導力を強化する」と述べた。
大統領は演説で、日米同盟の重要性を強調。さらに、「日本が核兵器を拒絶し、核の平和利用により利益を享受し、安全を強化してきた」と評価した。
その上で、日本とともに「核なき世界」を目指すと表明。北朝鮮に対し、6カ国協議への復帰と核兵器開発の完全放棄を改めて要求するとともに、日朝国交正常化は拉致問題の解決が前提であることを強調した。最近、対話を始めたミャンマーには、民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんらの無条件解放を呼び掛けた。
<オバマ米大統領>演説
オバマ大統領のアジア政策演説の全文は次の通り。
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讀賣新聞による日本語訳 2009年11月14日(土)23:00
日本語訳(1)
◆訪日の意義
ありがとう。(日本語で)アリガトウ。ありがとう(拍手)。おはよう。合衆国大統領として初めてのアジア訪問の最初の訪問地として東京に滞在出来ることを大変光栄に思う(拍手)。ありがとう。これほど大勢の方々に囲まれるのはすばらしいことだ。日本人と、何人か米国人の姿も見えるが(拍手)、両国間の 絆 ( きずな ) を強めるために日々努めている方々だ。その中には、私の古くからの友人で新しい駐日大使のジョン・ルース氏もいる(拍手)。
日本に戻って来ることが出来たのはすばらしい。ご存じの方もいるだろうが、幼い頃、母が私を鎌倉に連れてきたことがある。何世紀にもわたり平和と静寂の象徴だった巨大な青銅の大仏を見上げたものだ。ただ、子どもだった私は、抹茶アイスの方に夢中だったのだが(笑い)。昨晩の夕食会でまたアイスクリームを食べながら、鳩山首相に思い出話を聞いてもらったことを感謝したい(笑い。拍手)。ありがとう。しかし私は、日本の人々が、わが家を遠く離れた幼い米国人少年に示してくれた温かさやもてなしの心は忘れたことがない。
この訪問でも、同じ精神を感じている。鳩山首相には丁寧な歓迎を受けた。在位20周年を迎えた天皇、皇后両陛下にお会いする大変な名誉にも恵まれた。日本の人々はもてなしを見せてくれた。そしてもちろん、ここへ来たからには、(福井県)小浜(おばま)市民への表敬と感謝の念を表明しないわけにはいかない(拍手)。
今回の歴訪をここから始めた理由は単純だ。就任以来、私は米国の指導力を刷新して、相互利益と互いの尊敬に基づいて世界に関与してゆく、新しい時代を追求してきた。アジア太平洋地域における我々の努力は、かなりの部分、試練に耐え、新たな活力を与えられた米国と日本の同盟を通じて根付いてゆくのだ。
私の就任当初から、我々は両国を結び付ける絆の強化に努めてきた。ホワイトハウスに最初に招いた外国指導者は日本の首相だったし、過去50年近くで初めてのこととして、米国務長官ヒラリー・クリントン氏の初外遊先は、日本を起点とするアジアとなった(拍手)。
今から2か月後、同盟は50周年を迎える。ドワイト・アイゼンハワー大統領が日本の首相の隣に立ち、両国が「対等と相互理解」を下地とする「不朽のパートナー関係」を築きつつある、と述べた日のことだ。
以来半世紀、同盟は我々の安全と繁栄の基盤として続き、両国が世界1位と2位の経済大国となる一助となってきた。日本は、米国にとって北米以外で第2の貿易相手となった。日米同盟は、イラク復興からアフリカの角(ソマリア)沖での海賊対策、アフガニスタンとパキスタンの民生支援などまで、日本が世界の舞台でより大きな役割を演じ、全世界の安定に重要な貢献を果たす中で発展してきた。最も最近の例では、アフガン、パキスタン両国の開発に向けた国際的な取り組みの増進に当たり、日本は顕著な指導力を発揮している。
それにも増して、同盟は我々の共通の価値観を反映しているからこそ持続してきた。国民が自由に、自らの手で指導者を選び、自らの夢を実現するという民主的権利を信じているということだ。この信念があったから、変化を約束した鳩山首相と私とが指導者に選出されることが可能だった。我々は共に、新しい世代の指導力を、我々の国民と同盟とに、もたらすつもりだ。
だからこそ、歴史上重要な今この時、我々2人は、同盟を再確認するだけでなく、深化させることで合意した。沖縄の米軍再編に関する2国間合意の履行のため、合同作業部会を通じて迅速に動くことに合意した。同盟が発展し、将来の状況に適応していく中で、我々は常に、平等と相互理解のパートナー関係という、アイゼンハワー大統領の精神を守ることを目指していくのだ(拍手)。
◆太平洋国家
米国のこの地域への関与は日本に始まるものだが、そこで終わりではない。米国は、大西洋沿いの港や都市の連なりとして始まったのかもしれないが、何世代にもわたる太平洋国家でもあった。アジアと米国は、この大海によって隔てられているのではない。結び付いているのだ。
我々は歴史により結び付いている。アジアからの移民は米国の建設を助け、幾世代もの米国人が軍務に就き、犠牲を払っては、この地域の安全と自由を守って来た。我々は、繁栄を共有することで結び付いている。(両地域の)貿易と通商には、何百万もの雇用と家族とが依存しているのだ。我々はまた、人々によっても結び付いている。アジア系米国人は、米国民の暮らしのあらゆる面を豊かなものにしており、国家と同様、すべての人々の生活もまた、相互に織り合わされているものなのだ。
日本語訳(2) 私自身の人生も、その物語の一部だ。私はハワイで生まれ、少年時代をインドネシアで過ごした米国大統領だ。妹のマヤはジャカルタ生まれで、後に中国系カナダ人と結婚した。私の母は、東南アジアの村で10年近く働き、女性たちがミシンを買ったり、教育を受けて世界経済への足掛かりを得られる手助けをしていた。だから、環太平洋地域が私の世界観を形成したのだ。
その時以来、これほど速く劇的に変化した地域は恐らくないだろう。統制経済は開放された市場に取って代わられた。独裁は民主主義に変わった。生活水準は向上し、貧困は急減した。こうした変化を通じて、米国とアジア太平洋地域の運命は、かつてないほど密接につながれている。
すべての人、すべての米国人に知ってもらいたいのは、この地域で起こることが我々の国内での生活に直結し、この地域の将来が我々の利害にもかかわるということだ。我々はこの地域で盛んに商売し多くの商品を買っている。この地域で我々は、自国商品の輸出を増やし、それによって自国の雇用も創出することが出来る。この地域での核軍拡競争の危険が世界の安全を脅かしている。そして、過激派が偉大な宗教を汚し、アジアと米大陸双方への攻撃を計画している。アジア太平洋の新興国と途上国抜きでは、エネルギー安全保障や気候変動の課題も解決できない。
これら共通の課題に対処するため、米国は従来の同盟関係を強化し、地域各国と新たな協力関係作りを検討している。実現に向け、日本や韓国、オーストラリア、タイ、フィリピンとの条約を通じた同盟に期待している。同盟とは過去の歴史文献ではなく、我々が共有する安全保障の土台となる永続的な約束だ。
こうした同盟は安全と安定の基盤であり続け、この地域の国家や国民が、私の少年時代の初訪日当時には思いもつかなかった好機と繁栄を追求するのを可能にしている。米軍が世界で二つの戦争に携わっている間も、米国の日本やアジアの安全保障への責任は揺るがない(拍手)。それは何より、私が誇りとする若い男女米兵を我々がこの地域に展開させていることで明らかだろう。
今我々は、アジア太平洋地域や、さらに広い世界で、一層大きな役割を果たそうとしている新興国に期待している。民主主義を導入し、経済を発展させることで自国民の偉大な可能性を引き出した、インドネシアやマレーシアのような国々だ。
◆中国
米国は、21世紀には、ある国の安全保障と経済成長が他国の犠牲の上に成り立つ必要はない、という観点から、台頭する諸国に目を向けている。私は、米国が中国の台頭をどう見るか、という問いかけを多くの人が行っていることを承知している。すでに述べた通り、相互に結びついている世界では、一方の力が増せば他方の力が減るというゼロサム・ゲームに陥る必然性はない。国々は、他国の成功を恐れる必要もない。勢力範囲を競い合うのではなく、協力出来る範囲を開拓することが、アジア太平洋の発展につながる(拍手)。
あらゆる国に対してと同様、米国は中国に対し、自国の利益に焦点をあてながら接していく。まさにこのため、相互の関心事で中国との実務協力を求めることは重要だ。21世紀の課題に単独で対処できる国はなく、米国と中国も、課題に共同で対処することで、より良い結果を得られるからだ。だから、我々は中国が世界の舞台でより大きな、成長する経済と応分の責任を果たせる役割を担おうとしていることを歓迎する。中国の協力が、我々の経済回復の取り組みに重要なことは明らかになっている。中国はアフガニスタンとパキスタンにおける安全と安定を増進させた。そして、地球規模の不拡散体制に関与し、朝鮮半島の非核化の追求を支持している。
だから、米国は中国の封じ込めは目指さない。また、中国との関係強化が、米国と他の国との同盟の弱体化につながることはない。逆に、強力で豊かな中国の興隆は、国際社会の強さの源となりうる。
従って、北京でもどこでも、我々は米中間の戦略・経済対話を深め、軍同士の意思疎通を改善していく。もちろん、米中両国はすべての問題で合意することはないだろう。米国は、すべての人々の宗教と文化の尊重を含んだ、我々がいとおしむ基本的価値観を訴えることをためらいはしない。人権や人間の尊厳への支持が、米国に根付いているからだ。だが、我々は憎悪でなく、協力の精神で議論を進めていくことができるだろう。
我々の2国間関係に加えて、多国間組織の発展で、この地域の安全保障と繁栄を前進させられると信じる。私は、米国が近年、こうした組織の多くと距離を置いてきたことを承知している。だから私ははっきり申し上げたい。そうした時代は過ぎた。アジア太平洋国家として、米国は、この地域の将来を形作る議論に加わり、適切な組織が発足・発展した際には全面的に参加できることを期待している(拍手)。
それが、今回の旅で私が着手する作業だ。アジア太平洋経済協力会議(APEC)は、地域の通商や繁栄を推進していくもので、私は今夜からの会議参加を待望している。東南アジア諸国連合(ASEAN)は東南アジアでの対話や協力、安全保障を促進する触媒であり続けるし、私は10人のASEAN指導者すべてと会談する最初の米大統領となるのを楽しみにしている(拍手)。米国は、東アジアサミットが時代の課題に取り組む役割を担う中で、より正式に関与して行きたいと望んでいる。
我々がこうした関与の深化や拡大化を追求するのは、我々すべての将来がここにかかっているためだ。ここで少し、我々の将来がどのようなものになり、我々が繁栄や安全保障、普遍的な価値観や希望を促進するために何を行うべきかを話したい。
日本語訳(3) ◆経済
まず最初に、我々は経済の回復を確かなものにし、バランスがとれて持続可能な成長を追求しなければならない。
アジア太平洋諸国やその他各国が講じた、迅速で前例のない、調和のとれた行動によって、経済の破滅が回避され、過去数世代で最悪の経済危機からの脱却が可能となった。そして我々は、国際的な経済構造改革への歴史的一歩を踏み出しており、世界20か国・地域(G20)は、経済協力の最も重要な議論の場となっている。
G20への移行と、国際的な金融機関でのアジア各国の発言力の高まりこそ、米国が21世紀に目指す、より幅広く包括的な参加の枠組みを実地に示すものだ。日本は、主要8か国(G8)の主要メンバーとして、国際的な金融の枠組みを形成していく中で、これまでと同様これからも重要な役割を担うことになるだろう(拍手)。
今、我々は、経済回復の入り口に差しかかっており、その回復を持続可能なものにしなければならない。今回の世界的景気後退を招いた、急激な上昇と下降を繰り返す経済サイクルにただ戻るというわけにはいかないのだ。こうした不均衡な成長をもたらした政策を繰り返すことはできない。今回の景気後退の重要な教訓のひとつは、もっぱら米国の消費者とアジアの輸出に成長を依存することの限界だ。米国人が自分たちが大きすぎる負債と失業を抱えていると気付いた時、アジアからの産品への需要は急速に下がった。需要が激しく下降すれば、この地域からの輸出も一気に下がる。この地域の経済はあまりに輸出依存のため、成長が止まってしまった。そして世界的な景気後退は深まるばかりだった。
我々は今、異なる道を取ることが出来るという、歴史的にも数少ない転換点にさしかかっているのだ。それは、我々が米ピッツバーグでのG20首脳会議で誓った、均衡のとれた経済成長のための新戦略を追求することから始めなければならない。
シンガポール(APEC会議)でもっと詳しく話すが、米国では、この新戦略の意味は、貯蓄を増やし、支出を減らし、金融システムを改革し、長期的財政赤字や負債を削減することになる。そしてそれは、我々が建造、製造した物を世界中で売る、輸出がより重視されることも意味する。これは米国にとっては雇用戦略ともなる。輸出は、給与のいい数多くの雇用を米国民にもたらす。輸出を少し増やすだけでも、数百万の雇用をもたらす効果がある。こうした雇用で、風力タービンや太陽光パネルから、日常生活で使う技術製品までが製造されている。
アジアにとっては、より良い均衡を達成することで、特筆すべき生産性向上により可能となっていた質の高い生活水準を労働者や消費者が満喫する機会が生まれる。住宅や社会基盤、サービス分野への投資も増加出来るようになる。均衡のとれた世界経済によって、繁栄はより遠くまで届き、より深みを増していく。
過去数十年、米国は、世界で最も開かれた市場の一つを提供してきた。前世紀を通じて、開かれた市場は、この地域の多くの国々や他の国々の成功に寄与してきた。新しい時代に入り、世界中の他の市場を開放することが、米国だけでなく世界の繁栄にとっても重要となる。
新戦略の重要な一部が、世界貿易機関(WTO)新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)で、野心的で均衡の取れた合意を達成することだ。これは単なる合意ではなく、世界中の市場を開放して輸出を増やすものだ。その目標をタイミング良く達成するため、我々はアジアの関係国と協力していく準備があり、地域の貿易相手国を交渉のテーブルに招く所存だ。
我々はまた、アジア地域での継続した経済統合が、すべての国の労働者、消費者、事業者の利益となることを確信している。我々は韓国の友人と共に、同国との貿易協定に必要な作業を続ける。米国はまた、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に参加する国々と共に、幅広い参加国の顔ぶれと21世紀の貿易協定にふさわしい高い水準を持つ地域協定を目指した取り組みを続ける。
連携して取り組むことこそ、我々が経済回復を維持し、共通の繁栄を進める方法だ。だが、均衡のとれた成長を追求するだけでは十分ではない。我々には、我々の惑星と、そこで暮らす未来の世代にとっても持続可能な成長が必要だ。
◆気候変動対策
米国は(私の就任以来)、気候変動に関して、これまでにない多くの対策を講じてきた(拍手)。最新の科学を取り入れ、新エネルギーに投資し、効率を上げ、新しい連携を作りだし、気候変動を巡る国際交渉にも関与してきた。米国は、この分野でもっとなすべきことがあるのを理解している。だが、責任を果たしており、今後もそうして行く。
責任には、コペンハーゲン(12月の気候変動枠組み条約第15回締約国会議=COP15)での成功に向けた努力も含まれる。それが容易であるといった幻想は抱いていないが、進むべき道は明らかだ。すべての国々はその責任を受け入れなければならない。我が国も含め、主要排出国は、明確な削減目標を持たなければならない。発展途上国も、資金や技術面での支援を受けながら、排出削減に効果的な対策を講じることが必要になる。そして国内対策では、透明性や説明責任が必要とされる。
我々一人一人が、我々の惑星の環境を破壊せずに経済を成長させるために出来ることをしなければならず、それを一緒に行わなければならない。良い知らせは、適正なルールを設け、動機付けを行うことができれば、最高の科学者や、技術者、起業家の創造力を発揮させられるということだ。それは、新たな雇用や事業、全く新しい産業へとつながっていく。そして日本はこの分野では先端にいる。この重要な地球規模の目標達成に向け、あなたたちの重要なパートナーとなることを楽しみにしている(拍手)。