醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより  318号  白井一道

2017-02-18 10:42:35 | 随筆・小説

 古池や蛙飛び込む水の音  芭蕉

句郎 芭蕉の句で最も広く知られている句というと何かな。
華女 そうね。「閑さや岩にしみ入蟬の聲」かしらね。
句郎 いやぁー、「古池や蛙飛びこむ水の音」じゃないかな。
華女 そうかもしれないわ。小学生でも知っている句かもしれないわね。
句郎 こんなに広く知られている句は他にないかもしれないよ。
華女 どうして、こんなににも広く知られるようになったのかしら。
句郎 すでに江戸時代に広くしられていたようだからね。
華女 でも現代俳句の祖と言われている正岡子規はこの芭蕉の句を認めていないというような話を聞いたことがあるわ。
句郎 『芭蕉雑談』かな。確かに子規は芭蕉の句の大半は悪句駄句だと言っている。
華女 「古池や」の句もその中の一つじゃないの。
句郎 そうなのかもしれないけど、事情は複雑だよ。この句は「俳諧の歴史上必要なる者に相違なけれども、文学上にはそれ程の必要を見ざるなり」。このように述べている。
華女 この「古池や」の句は、文学になっていないと言っているのじゃないのかしらね。
句郎 そうなんだろうね。「善悪巧拙を離れたる句他にこれありや」と言っているから。
華女 「俳諧の歴史上必要なるもの」とは、どういうことなのかしら。
句郎 蕉風俳諧成立を宣言した句だということのようだ。
華女 蕉風俳諧とは、何?
句郎 芭蕉の前に流行していた俳諧に松永貞徳という人を中心に行われていた俳諧があった。この俳諧を貞門俳諧と言っていた。その俳諧は言葉遊びの俳諧だった。その次に出てきたのが西山宗因が始めた談林派の俳諧だ。この俳諧は諧謔・滑稽を詠んだ俳諧だった。言葉遊びと笑いの俳諧を和歌に匹敵する情緒を詠んだ俳諧が蕉風なのかな。
華女 大衆文学を純文学にしたということ。
句郎 そう、俳諧は蕉風に至って純文学になったということなのかな。
華女 「古池や」の句が大衆文学だった俳諧を純文学にしたエポックを意味する句だということなの。
句郎 そう、「古池や」の句が蕉風を宣言したと。
華女 そうよね。この句には言葉遊びもなければ、諧謔・滑稽もないわね。でも、この句は文学になっていないと子規は言ってるんじゃないの。
句郎 そうだ。文学になっていないと子規は言っている。一人、芭蕉庵に居る時に感じたことをただ述べただけだから文学になっていないと子規は言っている。
華女 「古池や」は何でもない句よね。ただ古池に蛙が飛び込んだ音を聞いたと言うだけの句ですものね。
句郎 問題はこのなんでもない句が文学か、それとも文学ではないのか、ということだよね。子規はこの句に文学を見なかったというなんじゃないかと思う。
華女 句郎君はこの句に文学があると思うの。それとも文学はないと感じているの。
句郎 僕は「古池や」の句には文学があると考えているんだけどね。子規は西洋文学を読み、日本の詩歌に文学を発見できなかった。

醸楽庵だより  317号  白井一道

2017-02-17 11:32:46 | 随筆・小説

  「謂(いひ)応せて何か有」る句とは

句郎 巴風の「下臥(したぶし)につかみ分ばやいとざくら」の発句を其角が『いつを昔』アンソロジーに入れたのはいかなる考えなのかね。このような問いを芭蕉は去来に道を歩きながら問うたことがあった。
華女 「下臥(したぶし)につかみ分ばやいとざくら」。この句の意味は?
句郎 いとざくらの下に臥せっていると枝が垂れ下がってきて手でつかんで分けなければならなくなってしままうというような意味だ。
華女 去来は何と答えたの?
句郎 いい句だとは言えませんねと、答えた。
華女 芭蕉は去来に何と?
句郎 「謂(いひ)応せて何か有」る句がいい。このように答えた。俳諧の発句になる句は「謂(いひ)応せて何か有」る句でなければいけない。「謂(いひ)応せて何」もない句は発句にはならないということを去来は学んだと述べている。
華女 「謂(いひ)応せて何か有」る句とは、どのような句を言うのかしら。
句郎 例えば「あかあかと日はつれなくも秋の風」
華女 「おくのほそ道」金沢から小松に向かう途中で詠まれた句だと言われている句ね。
句郎 残暑を詠んだ句かな。
華女 『古今集』にある藤原敏行の歌「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」を踏まえた句ね。
句郎 残暑というのは人間の社会にもあるんじゃないのかな。盛りの過ぎた人がいつまでも盛りであるかのように振る舞っている残暑のような人がいるんじゃないのかな。
華女 もう世間には冷たい風が吹いているというのにね。それに気づかない人はいるわね。
句郎 「謂(いひ)応せて何か有」るとは、自然を詠んだものが人間社会の比喩になっているということなのかな。
華女 正岡子規はそんなことを言ってはいないみたいよ。『芭蕉雑談』の中で「あかあかと日はつれなくも秋の風」や「物いへば唇寒し秋の風」、「古池や蛙飛びこむ水の音」などの句をただ「単に古人の所説にすがり、この句は門弟某、宗匠某の推奨したるなり」と聞くことによって有難がっているに過ぎないというようなことを述べているわ。
句郎 まだ26歳に過ぎなかった子規には芭蕉の句の良さが分からなかったんじゃないのかな。それとも「謂(いひ)応せて何か有」るのが邪魔になったのかもしれないな。
華女 写生を唱えた子規には芭蕉の句の良さが分からなったということなの。
句郎 写生が近代芸術の基本だということを唱えた結果、芭蕉の句の中に「夜ル竊(ひそか)ニ虫は月下の栗を穿(うが)ツ」のようなリアルな写生に基づく句があることに気が付かなかったんじゃないのかな。
華女 芭蕉の句も写生に基づいているんでしょ。
句郎 写生ということとリアルということは違うからね。芭蕉の句はリアリズムだと僕は思っているんだ。
華女 写生とリアリズムとは何が違うの?
句郎 見えたものを写すのが写生だとしたらリアリズムは見えたものを自分の主観の中に落とし込み、見えたものの中の真実を具体的表現したものがリアリズムかな。

醸楽庵だより  316号  白井一道

2017-02-16 11:05:36 | 随筆・小説

 辛崎の松は花より朧にて  芭蕉

句郎 「辛崎の松は花より朧にて」。この芭蕉の句、良い句だと思えないんだけれどね。
華女 「野ざらし紀行」にある句ね。
句郎 四十二歳の芭蕉が大津尚白亭に招かれ詠んだ発句がこの句のようだけれどもね。
華女 そうね。この句、独立した俳句としては、私もどうかと思うわ。でも俳諧の発句として読むとこのような発句もありなのかなと思うわ。
句郎 俳諧の発句。なるほどね。この句の脇句がどのような句だったのか知らないけれども、何となく分かるような気がしてきたかな。
華女 そうでしょう。名所の句なのよ。
句郎 唐崎の松は当時すでに有名だったんだろうね。近江八景「唐崎の夜雨」で知られる名勝唐崎神社の松としてね。
華女 唐崎の松は桜の花より朧に見えて綺麗だといっただけの句じゃないのかしら。
句郎 なんでもない句なんだ。桜の花より松の枝ぶりの方が綺麗だな、唐崎の松は。
華女 きっと、そうよ。だから脇句は付けやすかったのよ。
句郎 そうかもしれないな。
華女 見えたまんまを詠んだのよ。そんなことが『去来抄』にあると聞いたことがあるわ。
句郎 そうそう、「にて」止めについての議論が其角や去来、呂丸によってあれこれあった。それはそうだが、それは理屈だと芭蕉は述べ、「深い意味は無い。ただ花より松の方が朧で面白かっただけだ」と述べたと『去来抄』にあるね。
華女 俳諧の発句というのはそういうものなんじないのかしら。
句郎 俳諧を詠む。歌仙を巻く。見えたもの。見たものをそのまま詠む。そこに作者の意図を盛り込まない。芭蕉は自分が意図しない文学の地平を歩き始めた。自分がしていることの意義を自覚することなく新しい文学の道に進んで行った。
華女 新しい文学とは何なの。
句郎 ものを見えたようにそのままを表現する。これがリアリズムの始まりだからね。
華女 あぁー、ルネサンスの精神ね。
句郎 美しいものは神、真実は神にある。このような考えに対してこの世の地上にあるものに美を発見したのがルネサンスだからね。彼岸のものから此岸のものに人間の関心を引き向けたのがルネサンスのようだから、芭蕉は唐崎の松を見て、感じたこと、そのままを文字にした。これは和歌の世界で美しいとされてきたものではなく、自分の目で見て綺麗だなと思ったものをそのまま表現した。
華女 「辛崎の松は花より朧にて」。この句にはリアリズムの芽生えのようなものがあると言いたいのね。
句郎 そう、リアリズムだよ。山本健吉はこれを「即興性」という言葉で述べているが、残念ながら「即興性」という言葉では芭蕉の発句にあるリアリズム性にまでは気づていないように思うんだ。
華女 山本健吉まで批判しちゃうの。
句郎 批判じゃないよ。不十分かなと言ったまでだよ。
華女 長谷川櫂氏は芭蕉をシェイクスピアになぞらえているものね。

醸楽庵だより  315号  白井一道

2017-02-15 11:17:02 | 随筆・小説

 女であること

句郎 「女であること」。川端康成は1961年にこのような題名の小説を書いた。現在では小説にこのような題名はつけられるかな。
華女 ちょっと無理かもしれないような気がするわ。
句郎 当時にあっても、現代でも「男であること」というような題名を小説にはつけられないよね。
華女 そうね。「男はつらいよ」だったら今でも映画の題名になると思うわ。
句郎 今から六〇年近く前だったら、「女であること」というような題名の小説がありえたのかな。
華女 それは「女であること」が社会から求められている時代だったからじゃないかしらね。
句郎 そうなんだろうね。だから「男であること」が社会から特に求められていなかったから「男であること」という題名の小説は成り立たなかったんじゃないかと思うよ。
華女 今は昔ほど「女であること」が社会から求められていないということを感じるわ。
句郎 社会が女性に「女であること」を求めなくなったということは、良いことだよね。
華女 男女平等が進んだ結果、今度は逆に「男はつらいよ」ということが映画の題名になったのね。
句郎 そうなんだ。1960年代の男の子は「男になること」が求められていた。だから弱い男は「男になること」が辛かった。女はいいと思う男がいたよ。何といっても男は戦争になったら行かなくちゃならないというような脅迫観念とか、いい大学に行かなくちゃ、将来家族が養えないぞと言うような脅しのようなものを感じさせられていたからね。女はいいなと思う男がいたのは確かだね。だから「男はつらいよ」と言う言葉が映画の題名になり得たのじゃないかと思うな。
華女 ボォーボアールだったかしら、「女は人間として生まれ女になる」と言ったのは。
句郎 そうかもしれない。また「ハイヒールは現代に生きる纏足だ」というようなことを述べていた。
華女 そうよ。ハイヒールを履いてごらんなさい。若い頃じゃなくちゃ、ハイヒールなんて履けないわよ。足のつま先が痛くなってしまうのよ。
句郎 時代とともに男女平等が進むにしたがって「女であること」を社会が求めなくなったことはいいことだよね。
華女 そりゃ、そうね。
句郎 いつだったか、仲代達矢さんが言っていた。昔の女優さんは決して大きな口を開けて物を食べたりする姿を見せることはなかったが、今の女優さんは大口を開けてたこ焼きを食べる姿を撮らせているとね。
華女 女が女の色気を持つことと女が男と平等にものに接することとは別の問題だと思うわ。
句郎 「~である」ことが強制される社会は封建的な身分制の残存物だと思うけれども「~である」ことが生んだ文化、例えば「女であること」が培った文化も一緒にゴミ箱に入れてしまうのはどうかなと思うんだけどね。
華女 難しい問題だわ。でも新しい女の文化、美しい女の文化が生まれてきていると思うわ。男もそうなんじゃないかしら。「男であること」の男の文化は否定され、新しく美しい男の文化が誕生してきていると思うわ。

醸楽庵だより  314号  白井一道

2017-02-14 11:06:16 | 随筆・小説

  颯(はやて)を楽しむ

侘輔 今日のお酒は夫婦二人で醸したお酒を楽しみたい。
呑助 そんな酒蔵があるんですか。
侘助 小さな小さな酒蔵なんだ。年間生産石数200石だと蔵元は言っていた。
呑助 良い酒を醸す小さな酒蔵があるんですね。どこにある酒蔵なんですか。
侘助 三重県桑名にある酒蔵のようだよ。
呑助 近くに揖斐川が流れているところですね。
侘助 今日楽しむ酒、「颯(はやて)」を醸す後藤酒造さんのところは鈴鹿山脈から流れ出す員弁川(いなべがわ)のほとりにあるようだ。水は中軟水とのことだった。
呑助 米は何なんですか。
侘助 「神の穂」という三重県だけで栽培されている酒造米で醸している。
呑助 米は自家精米ですか。
侘助 夫婦二人で醸しているんだからきっと自家精米なんじゃないかな。
呑助 精米は酒造りの重要な工程なんでしたよね。
侘助 そのようだ。精米歩合が酒質を決める訳だものね。縦型精米機が発明されて初めて米の六〇%を糠にすることができるようになって精米歩合四〇%の大吟醸の酒が醸せるようになっただものね。
呑助 今日楽しむ「颯」の精米歩合はどの位なんですか。
侘助 五五%のようだ。醸造用アルコールの添加がないので純米吟醸酒かな。
呑助 火入れはどうなんですか。
侘助 一回も火入れをしていないようだ。だから少し炭酸の香りが残っていると坂長さんは話していたよ。
呑助 炭はかけているですか。
侘助 無濾過の酒だと言っていた。
呑助 じゃ、絞りたての新酒なんですね。
侘助 そう、絞りたての新酒だよ。絞りたての生、無濾過でしょ。だから季節商品のようだ。今だけ限定の酒だよ。
呑助 まさに春を味わう酒ですね。
侘助 そうなんだ。蔵ではこの絞りたて、生の原酒、水で薄めていない酒、三重県産酒造米「神の穂」で醸した酒を味わってほしいと思って出荷したお酒のようなんだ。夫婦二人で醸したお酒をね。
呑助 なんか涙が出てきそうになってしまいますね。
侘助 昔は杜氏さんが蔵人を連れ、やってきて酒造りをしたようだけれども時代の流れだね。小さな酒蔵は杜氏を雇うにも杜氏がいない。蔵人もいない。社長自ら杜氏となり、奥さんが蔵人になり、賄い、アルバイトを雇い、醸した酒のようだ。
呑助 酒造米「神の穂」はどんな特徴を持った米なんですか。
侘助 酒造米というのは飯米に比べて大粒で柔らかく、でんぷん質が多いという特徴を持っている。有名な兵庫の山田錦や岡山の雄町に比べると「神の穂」の粒はやや小さく、硬いそうだ。だから吸水には時間がかかると話していた。
呑助 硬く、小さな「日本晴」に比べれば柔らかく大きいんでしよう。
侘助 「山田錦」と「五百万石」の中間ぐらいだと言っていた。この米で醸した酒は熟成がいいらしい。熟成した通年酒と季節のお酒とを飲み比べてこの三重県産の酒造米の酒を堪能してもらいたいというのが蔵元の思いのようだよ。

醸楽庵だより  313号  白井一道

2017-02-13 11:04:48 | 随筆・小説

 芭蕉の近代性

句郎 芭蕉は身分制社会に生きた俳諧師だった。にもかかわらず芭蕉には近代人の心が芽生えていた。だから「山路きて何やらゆかしすみれ草」のような句を詠むことができたんじゃないかと思っているんだ。
華女 どうしてそんなことが言えるのかしら。
句郎 芭蕉は旅をする人だったからね。
華女 旅をする人には近代人の心が宿るとでもいうのかしら?
句郎 芭蕉は旅の宿で俳諧の連歌の催しをした。この俳諧が芭蕉の心に近代人の心をつくったんだ。
華女 なぜ、俳諧は近代人の心を生んだの? おかしいわ。
句郎 俳諧は遊びだったからね。遊びだったから芭蕉の心に近代人の心が宿り始めんじゃないかと考えているんだ。
華女 遊びに封建制とか、身分制とか、近代性とかが関係しているの。
句郎 関係していると思っている。遊びを楽しむにはルールが必要でしょ。将棋という遊びを楽しむにはルールを守らなければ楽しめないでしょ。武士と町人が将棋をする。武士は二歩をしてもいい。町人はダメ、このようなことをしたらゲームが成り立たないし、面白くない。遊びに参加する人は武士も町人も農民も皆同じ規則を守る。規則の下では武士も町人も農民も皆平等なんだ。
華女 俳諧にもルールがあったのよね。
句郎 そう、ルールがあった。発句を詠む人がいた。
華女 俳諧の発句が俳句になっていくのよね。
句郎 屋敷に招かれた客が亭主に季節の言葉を入れ挨拶する句を詠んだものが発句だ。
華女 五七五で詠むのよね。
句郎 そう、亭主は客の句に応えて同じ季節の句を詠む。その句が脇句かな。
華女 その時、俳諧に参加する人たちは皆同じ座敷に集っているのね。
句郎 そうなんだよね。だから武士の人も町人の人も農民も皆同じ座敷に身近に座って俳諧を詠む。これは遊びだから許されることだったんじゃないかと思うんだ。
華女 確かに武士と町人が同じ平面の座敷に座るということは公の席ではありえなかったことでしょうね。
句郎 遊びの場は一種のアジールだった。身分差別から解放された空間だった。俳諧の場にあっては、身分差別がなかった。追従もなければ阿りもなかった。
華女 アジールって、駆け込み寺のことかしら。
句郎 権力の支配が及ばなかった所かな。教会とか、神社、寺院のような処かな。
華女 遊郭にもあったんじゃないの。
句郎 そうかもしれない。遊びの場には身分の違いを持ち込まなかった。遊びを楽しむためだったと思う。
華女 俳諧の世界はアジールだったのね。
句郎 俳諧の遊びはアジールだった。だからそこには身分差別がなかった。元禄時代になると戦国期と違って身分差別が強化されていった時代だったが俳諧の世界には身分差別が持ち込まれることがなかった。武士の言葉から解放された平民の言葉が通用する世界だった。だから三百年後の中学生が読んでも理解できる日本語で俳句を詠んだ。「山路きて何やらゆかしすみれ草」のような句をね。

醸楽庵だより  312号  白井一道

2017-02-12 14:28:51 | 随筆・小説

 夫婦二人で醸す酒

 日足が伸びてきた。夕暮れの五時になってもまだ明るい。仕事なき男たちにとっても夕暮れ時の赤ちょうちんが懐かしい。
寒いね。今日、ホーちゃんは都合が悪いらしい。欠席だ。
そうなんだ。
キーちゃんは耳カバーをし、襟巻、冬帽子を被り、自転車の乗って、憩いの館にやって来た。
今日の酒はどこの酒なの。
それは後のお愉しみだ。
私は自転車の駕籠から酒販店の坂長さんから仕入れた酒を二本を取り出し、暖簾を分けて飲み屋に入った。会場にはすでに三人の仲間が待っていた。
今日の酒はどこの酒なの。
今日は、夫婦二人で醸した名酒を楽しもうと思って仕入れて来ましたよ。
今日は何人なの。
キーちゃんが聞いてきた。
今日は七人だ。誰が欠席なの。
うん、今話したホーちゃんが都合が悪く欠席、それから前回から参加してくれるようになったセーちゃんはどうしたのかな。
セーちゃんはインフルエンザにかかっちゃったらしい。奥さんは重くて同じインフルエンザでも入院しちゃったらしいよ。
それじゃー、今日は六人か。オーちゃんが言った。今日から参加したいと言っている人をあーちゃんが連れて来るという話だから七人になるかな。まだ全員揃わないけれど時間になったから始めようかと、言っているとアーちゃんがやって来た。「すいません。後れちゃって」と、言いながら今日から参加してくれるというカーちゃんと一緒に入ってきた。
それじゃー、始めようか。今日のお酒は夫婦二人で醸している名酒、三重県桑名の酒「颯(はやて)」と愛媛の酒「石鎚」だ。「颯」からいこうか。
フルーティーで飲みやすいね。ちょっと女性向なんじゃないの。とっても飲みやすいよ。昔の酒のように顔を背けたくなるようなものが何もないね。
一口飲むとオノちゃんが口を開いた。手酌して次々に一升瓶を回していく。キンちゃんは思いつめたような声で発言した。
旨いねー。いくらでも飲めちゃうね。帰り大丈夫かな。ちょっと心配になってきたよ。オーちゃんはラベルをじっと眼鏡をかけて読んでいる。おもむろに言った。精米歩合が五五%、純米吟醸、無濾過生原酒。一口含むと言った。香りがいいね。
順々に一升瓶が回り、キーちゃんの番になった。
この酒は飲み過ぎちゃいそうだよ。アルコール度数が17°もあるのにこんなにのど越しが良いなんて不思議だよ。
シーちゃん。この酒の米は何なんです。
この酒の米は三重県だけで栽培されている「神の穂」という酒米だ。酒米というと大粒で柔らかく、でんぷん質の部分が大きいという特徴があるでしょ。その代表的な米がと言うとオノちゃんが言った。「山田錦」。そう「山田錦」や岡山の「雄町」に比べるとやや小さく、硬い。だから吸水にも時間がかかるし、溶けるにも時間がかかる。だから造りの難しさがあるんだと蔵元は話していたよ。
それぞれ酒米の特徴によって造りが微妙に変わっていくんですね。
それぞれの酒米の特徴というか、性質を知るには時間がかかるみたいだよ。
ラベルを見ると日本酒度が+2度もあるのに甘く感じるね。初めて仲間になったカガちゃんが言った。
 幾分の炭酸の香りが味のメリハリを付けているように感じたな。アサちゃんが言った。焼いた銀杏を肴に一通り一升瓶が回るとそれぞれ青野菜のソティーをつまみ、次の酒、「石鎚」をいただいた。うーん。違うね。こんなに違うもんかね。軽くて味がないような酒だね。独り言のような感想が続き、名酒を楽しむ会は続いた。



醸楽庵だより  311号  白井一道

2017-02-11 11:37:20 | 随筆・小説

 歴史発展の不均等性

侘助 トランプ大統領の出現はアメリカ衰退の象徴的出来事なんじゃないかな。
呑助 アメリカファーストを唱え、アメリカを盛り返していこうということを唱えているんじゃないですか。
侘助 アメリカファーストと言うこと自体が衰退を自ら認めていることなんじゃないかな。
呑助 経済大国アメリカは世界一位なんじゃないですか。
侘助 いや、平価で比較すると2014年にアメリカは中国に追い抜かれているみたいだよ。
呑助 へぇー、そうなんですか。
侘助 歴史発展の不均等性という法則があるんだ。
呑助 そりゃなんですか。
侘助 今から2千年前、地中海周辺地域にはローマ帝国という大国が君臨していたんだ。しかしローマ帝国は永遠に反映し続けることはなかった。
呑助 どうしてローマ帝国は滅びてしまったんですかね。
侘助 それはローマ帝国周辺地域に新しい国が誕生し、その国の経済力が大きくなったからなんだ。
呑助 その国は何という国だったんですか。
侘助 初めはフランク王国と言っていたんだが、後の神聖ローマ帝国という国だったんだ。
呑助 その国はどこにあったんですか。
侘助 今のドイツ・オランダ・フランスにまたがるアルプス山脈の北側にできた国だったんだ。
呑助 なぜローマ帝国の経済力は弱体化し、フランク王国や神聖ローマ帝国の経済力が強大化していったんですかね。
侘助 ローマ帝国の経済力はエジプト・パレスチナ・メソポタミアに至る肥沃な三日月地帯と呼ばれる地域における奴隷制大農園経営にあったんだ。その地域がイスラム勢力の台頭によって奪われてしまった。
呑助 あぁーそれでローマ帝国は衰退してしまったわけですか。
侘助 経済力が亡くなると軍隊を支えることができなくなるからローマ帝国はゲルマン民族のローマ帝国内への侵入が相次ぎ、滅んでいった。
呑助 アフガニスタン・中東・シリア難民のEUへの流入とケルマン民族のローマ侵入は似ているような現象ですかね。
侘助 言われてみると似ているような現象かもしれないな。生活を破壊された難民が豊かなローマに侵入していったように、生活を破壊された中東の人々が豊かなヨーロッパ目がけて侵入しようとしている。
呑助 アメリカを中心にしたヨーロッパ諸国が衰退して新しい国々が台頭し始めている。これが現代の世界なのかもしれませんね。
侘助 正にそうなのかもしれない。
呑助 どこの国が世界に羽ばたき始めているんですかね。
侘助 それは中国・ロシア・インド・ブラジル・南アフリカらのブリックスと言われる国々なんじゃないかな。
呑助 中国・インド・ロシアですか。
侘助 アメリカは金融資本が実験を握ってしまったので、その結果、アメリカの産業が衰退してしまった。あまりにも自分たちの利益を優先してしまったため、アメリカ全体が衰退したようだ。

醸楽庵だより  310号  白井一道

2017-02-09 11:19:40 | 随筆・小説

 集団的自衛権は平和を壊す

侘助 集団的自衛権は戦争への道だと孫崎享さんは主張している。
呑助 集団的自衛権は日本の安全を保障してくれるんじゃないんですか。
侘助 集団的自衛権は平和を壊すと言っている。
呑助 どうしてなんですか。
侘助 集団的自衛権は自衛権じゃないと言っている。
呑助 軍事同盟を結び、自国の安全を保障するんじゃないんですか。
侘助 集団的自衛とは他国を防衛することを意味するようだ。
呑助 集団的自衛とは、自国を防衛することではなく、他国を防衛することなんですか。
侘助 そのようだ。集団的自衛権というから自国を自衛することなんだと思っていたけれども他国を防衛することのようだ。
呑助 へぇー、驚きました。
侘助 考えてみると当然のことのようだ。自国は攻撃されていないにもかかわらず、同盟を結んだ相手国が攻撃されたなら、これに反撃する権利を持つことを集団的自衛権というんだから、他国を防衛する権利を言うんだから、集団的自衛権とは他国を防衛する権利を言う。
呑助 集団的自衛権とは他衛権なんですか。
侘助 だから戦争がより大きくなる。世界の平和をぶち壊す。集団的自衛権の行使は世界平和の秩序を壊してしまう。
呑助 そりゃ、困ったことですね。なぜ安倍政権は集団的自衛権を容認するような法律を強硬制定したんでしようかね。
侘助 今、アメリカはテロとの戦争を世界規模で行っているからね。
呑助 日本はアメリカとの同盟を大事にしているからか。
侘助 2001年9月11日、同時多発事件が起きてから、はや17年目になるなぁー。中国の奥地内モンゴル地区にあっても一日中、テレビ実況中継されていたらしいからね。世界的な大事件だった。この事件を起因としてテロとの永久戦争がはじまった。
呑助 まるで映画のような出来事だったですね。
侘助 ツインタワーに突っ込んだ飛行機はまるで200メートル先のマッチ棒に追突するように目測飛行して突っ込んだんだから、凄い出来事だった。
呑助 この事件の黒幕がウーサマ・ビン・ラデンでしたね。
侘助 ブッシュアメリカ大統領はテロとの戦争を宣言した。
呑助 アメリカは冷戦を終えるとテロとの永久戦争に突入したんですね。アメリカは戦争が好きな国なんですかね。
侘助 アメリカは金儲けにこすからい国だから、戦争すると金が儲かる人の意向を受けた政治家が戦争をしたがるんじゃないのかな。
呑助 戦争で金が儲かる人なんているんですかね。
侘助 昔から「死の商人」なんて言われる人々がいるからね。
呑助 具体的には武器や戦闘機、潜水艦などを製造している会社ですかね。
侘助 その他に最近は傭兵隊のような会社もあるらしいよ。
呑助 西洋中世のスイス人傭兵なんていうのを高校生の勉強したこと、覚えていますよ。
侘助 スイス人傭兵のことを知っているんだ。アメリカには「ブラックウォーター社」と言われるよう民間戦争請負会社があるみたいだからね。

醸楽庵だより  318号  白井一道

2017-02-09 11:14:18 | 随筆・小説

 軍事費の増額は防衛力を強化しない

侘助 マッド・ドッグ・マテイスアメリカ国防長官が来日したね。
華女 稲田防衛大臣はマテイス米国防長官の意を受けて二月四日、わが国は防衛力を質も量も強化し、自らが果たし得る役割の拡大を図ると、発言したみたいよ。
句郎 孫崎享さんは『二一世紀の戦争と平和』と言う本の中で「軍事費の増額は私たちの生活を悪化させる」と述べている。
華女 どうしてなのかしら。
句郎 オスプレイという先日、結縄で墜落した軍事ヘリコプター兼飛行機が墜落した。このオスプレイを日本は購入しようとしているが、買わなければ、国公立大学すべての授業料を無料にすることができるそうだよ。
華女 でもオスプレイを買うことが日本の防衛力を強化できるんじゃないの。
句郎 そのように稲田大臣は考えているんじゃないかと思う。「子ども手当よりも軍事費を増やすべき」と発言しているからね。問題は軍事費を増やしても防衛力を強化することにはならない。
華女 なぜなの。
句郎 日本が脅威とみなす国というとどこかな。
華女 中国とか、北朝鮮、ロシアじゃないのかしら。
句郎 そうでしょ。だからそれらの国は日本が防衛力を強化すれば、それ以上に防衛力を強化してしまう。だからどんなに防衛力を強化するべく、軍事費にお金を使っても少しも国の安全保障にはならない。
華女 軍拡競争になってしまうのね。
句郎 どうもそのようだ。だから本当の国の安全保障は仲良くなることなんだ。文化交流や経済活動の交流、相互依存関係の構築ということが本当の安全保障みたいだよ。
華女 そうよね。北朝鮮の人々だって、国が核開発するお金を国民の生活状況を良くしてくれる方が好ましいでしようからね。
句郎 そうなんだ。沖縄に米軍基地を日本人の税金で作るくらいなら、日本人のために保育所を充実したり、年金を充実させたり、教育予算を増額し、教員の給料を上げたりすることの方がはるかに意味あることだと思うんだ。
華女 確かにそうよね。今癌の高額な治療薬が問題になっているから、そのような高額な医療費にそなえるためにお金を使う方が豊かな社会になると思うわ。
句郎 なぜ、今の政府は、軍事費の増額を主張するようになっているんだと思う?
華女 分からないわ。
句郎 アメリカ政府の外交政策に追従しているからなんじゃないのかな。
華女 日本は独立した国じゃないの?
句郎 アメリカの属国のような状態になってしまっているようだ。
華女 どうしてそんなことが言えるの?
句郎 東京の空は日本の空になっていないみたいだ。
華女 じぁー、どこの国の空なの。
句郎 米軍の空になっている。横田空域というのかな。横田米軍空軍基地が東京の空の八割以上を管理している。羽田空港や成田空港は横田空域の脇をかすめるように飛んでいるみたいだよ。だから東京の空港管制官の仕事は大変な緊張を強いられる仕事のようだ。さらに米軍のオスプレイが日本中の空を自由に飛び回るなんて独立国じゃない。