SF映画『スタートレック』に登場するロミュラン人(ヒューマノイド異星人)は独自技術の遮蔽(しゃへい)装置を使って戦艦戦隊の姿を覆い隠す。先週発表された研究によると、どうやら地球人もこの技術の実現に一歩近づいたようだ。
2つの研究チームがそれぞれ独立に、顕微鏡サイズの物体を隠すことのできるシリコンベースの素材を開発した。可視光に非常に近い波長の近赤外線で物体の透明化に成功したのは初めてのことだ。
通常、平らな面に置いてある物体を布切れで覆って隠そうとしても、不自然な“でっぱり”ができるためすぐに見つかる。しかし、新素材を使えば、そのような“でっぱり”さえ視界から消えてしまうという。
2つの研究チームのうち1つは、アメリカにあるカリフォルニア大学バークレー校のシャン・チャン氏が率いるチームで、遮蔽素材に無数の小さなナノホール(極小の穴)を開けることにより、“透明化”効果を実現した。ナノホールにより遮蔽素材の光学特性が変わり、覆い隠された物体の周囲の光が屈折する。バークレーチームの今回の研究は「Nature Materials」誌の4月29日号に掲載されている。
もう1つの研究チームはアメリカにあるコーネル大学のミハル・リプソン氏が率いるチームで、遮蔽素材の表面を小さな柱で覆うことにより、やはり光を屈折させて、同様の“透明化”効果を実現している。コーネルチームの研究は、現在「Nature Photonics」誌のレビューを受けているところである。
バークレーチームのジェイソン・バレンタイン氏は、自分たちが開発した素材を「カーペット・マント」と呼んでいる。どちらのチームの素材も、物体を“消す”プロセスはカーペットの下に物を隠す方法と似ている。「地面にある物ならうまく覆い隠すことができる」とバレンタイン氏は話す。
しかし、2つの新素材が軍事的な隠密行動に利用できるようになるまでには、まだまだ長い道のりがある。まず、現時点では2つの新素材は赤外線でしか効果を発揮しない。次のステップとして、可視波長域で動作するものを開発する必要がある。
また、今回の遮蔽素材は、顕微鏡サイズの物体しか覆い隠すことができない。「ただし、それでも潜在的な利用価値は十分にある」とバレンタイン氏は話す。例えば、将来の光コンピューターでは、今回のような遮蔽素材を利用して、光線の道筋の邪魔になるコンピューターチップの一部を隠し、光を効率的に移動させるといったことが可能になるかもしれないという。
また、電子機器用のプリント回路製造に使用する特殊な鏡のダイクロイックミラー(誘電体鏡)は非常に高価であるが、表面にごく小さな傷ができるだけで全体が使い物にならなくなる。「傷を覆い隠せれば、再び完全な状態の鏡に見せることができる」とバレンタイン氏は話す。
同氏によると、今回の遮蔽素材は大きさを拡張すれば、エアソフトガンで使われるBB弾くらいの物体なら覆い隠すことは可能かもしれないが、それ以上の大きさは難しいという。「例えば、バークレーチームの素材の場合、表面のナノホールは光の波長よりも小さいものでなければならない。まだまだ多くの課題がある」。
スコットランドにあるセント・アンドリューズ大学の理論物理学者ウルフ・レオンハルト氏は、今回の研究を受けて次のように話す。「“透明マント”として実際に機能する素材の開発が進み非常にうれしく思う。しかし、理論的にはそれほど画期的な成果ではない。今回の素材のアイデアは、既に2006年の『Science』誌で私が初めて遮蔽技術に関して発表した研究の中で言及しているものだ」。
コーネルチームのカール・ポイトラス氏もこの点には同意している。「多くの場合、理論は時代を先取りして予言するものだ。ただし、そのための技術が存在しなければ実現できない」。
そしていま、遮蔽装置の理論モデルがついに現実のものとなり始めたようだ。
この研究って、各国の軍隊や研究機関で昔からやってるけど…
成功したって事例がまったくないもんね。
簡易カモフラージュ的な使い方なら、人間の視覚に訴えて出来てるみたいだけども。
軽量化と耐久性…そしてコスト。
熱光学迷彩…早くできないかなぁ~。
攻殻機動隊の世界はまだまだ先ですな。。。