新しい研究により、太陽光の届かない深海の奥底で魚類が特有の耳を発達させていたことが判明した。深さ2500メートルの深海で捕獲した数種の魚を調査したところ、研究チームは他の魚種では確認されたことがない耳の構造を発見した。その不思議な構造は聴力の強化に役立っているのではないかと推測されている。
地球の海の約90%は、太陽光の届かない漆黒の闇に覆われている。このため研究チームは、魚類は聴覚が鋭敏になるように耳を進化させてきたのではないかと考えていた。聴力が強化されれば、暗闇の中でも獲物の捕獲や繁殖相手の確保、捕食動物からの逃避が容易になるからだ。
しかし、その仮説を立証するのは容易ではない。深海魚を地表近くまで引き上げると水圧が大幅に低下してたちまち死んでしまうこともあり、現在の技術では深海魚の聴力テストは実現不可能だからである。
その代わりとして研究チームは、深海魚と浅瀬に生息する魚の耳の構造を比較するという手段を取った。これにより深海魚には独特の適応変化がみられることが確認された。
中央アメリカの太平洋沖、水深1000メートルの深海で多くのカブトウオ科の魚を捕獲して耳を調べたところ、内耳にある耳石から長くて堅い炭酸カルシウム質の茎状器官が伸びていることが判明したのである。「この茎状器官の役割は、まだすべてが解明されたわけではない」と、アメリカにあるメリーランド大学の海洋生物学者であり、今回の研究にも参加しているシャオホン・デン氏は話す。
しかし同氏は、この茎状器官の発達により、聞き取りづらい微弱な音を耳石で感知できるようになったのではないかと推測し、次のように述べる。「ヨゴレマツカサやクラウンナイフフィッシュなど、優れた聴力を持つことが知られている浅瀬の魚の耳には非常に長い毛束が生えているが、カブトウオの耳にも同様の特徴が確認された。この毛束が、外部の音や自身の頭部の動きに対する感度を向上させているのかもしれない。特に後者の感覚が鋭敏になれば、魚の平衡感覚が向上する可能性がある」。
アイルランドの近海、深さ2500メートルの深海で捕獲されたタラの1種、トガリカナダダラは堅い内耳を持っていることが研究チームによって確認された。堅い内耳は、魚類の中では比較的浅い層に生息するクロマグロの耳にしか確認されていないものである。そのような内耳によってトガリカナダダラの耳は、すぐ側にある鰾(ひょう)という浮き袋のような器官からの震動を鋭敏に感じ取っているのかもしれない。魚の鰾はガスが充満しており、浮力を調節する機能を持っているが、音の増幅器という役割も担っている。
耳の適応変化が予想以上に進んでいるため、これらの魚種はもしかしたら驚くべき聴力を備えているのかもしれないが、深海で聴力テストを実施できない限りそれを確認することはできない。「カメラと音響装置を搭載した深海探査機を沈めれば、魚の音に対する反応を調査することができる。その実現がいまの私の夢だ」と、前出のデン氏は語った。
今回の研究成果は、アメリカのオレゴン州ポートランドで5月18日に開催されるアメリカ音響学会の会合で発表される予定だ。
地球の海の約90%は、太陽光の届かない漆黒の闇に覆われている。このため研究チームは、魚類は聴覚が鋭敏になるように耳を進化させてきたのではないかと考えていた。聴力が強化されれば、暗闇の中でも獲物の捕獲や繁殖相手の確保、捕食動物からの逃避が容易になるからだ。
しかし、その仮説を立証するのは容易ではない。深海魚を地表近くまで引き上げると水圧が大幅に低下してたちまち死んでしまうこともあり、現在の技術では深海魚の聴力テストは実現不可能だからである。
その代わりとして研究チームは、深海魚と浅瀬に生息する魚の耳の構造を比較するという手段を取った。これにより深海魚には独特の適応変化がみられることが確認された。
中央アメリカの太平洋沖、水深1000メートルの深海で多くのカブトウオ科の魚を捕獲して耳を調べたところ、内耳にある耳石から長くて堅い炭酸カルシウム質の茎状器官が伸びていることが判明したのである。「この茎状器官の役割は、まだすべてが解明されたわけではない」と、アメリカにあるメリーランド大学の海洋生物学者であり、今回の研究にも参加しているシャオホン・デン氏は話す。
しかし同氏は、この茎状器官の発達により、聞き取りづらい微弱な音を耳石で感知できるようになったのではないかと推測し、次のように述べる。「ヨゴレマツカサやクラウンナイフフィッシュなど、優れた聴力を持つことが知られている浅瀬の魚の耳には非常に長い毛束が生えているが、カブトウオの耳にも同様の特徴が確認された。この毛束が、外部の音や自身の頭部の動きに対する感度を向上させているのかもしれない。特に後者の感覚が鋭敏になれば、魚の平衡感覚が向上する可能性がある」。
アイルランドの近海、深さ2500メートルの深海で捕獲されたタラの1種、トガリカナダダラは堅い内耳を持っていることが研究チームによって確認された。堅い内耳は、魚類の中では比較的浅い層に生息するクロマグロの耳にしか確認されていないものである。そのような内耳によってトガリカナダダラの耳は、すぐ側にある鰾(ひょう)という浮き袋のような器官からの震動を鋭敏に感じ取っているのかもしれない。魚の鰾はガスが充満しており、浮力を調節する機能を持っているが、音の増幅器という役割も担っている。
耳の適応変化が予想以上に進んでいるため、これらの魚種はもしかしたら驚くべき聴力を備えているのかもしれないが、深海で聴力テストを実施できない限りそれを確認することはできない。「カメラと音響装置を搭載した深海探査機を沈めれば、魚の音に対する反応を調査することができる。その実現がいまの私の夢だ」と、前出のデン氏は語った。
今回の研究成果は、アメリカのオレゴン州ポートランドで5月18日に開催されるアメリカ音響学会の会合で発表される予定だ。