鴨着く島

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『パラサイト―半地下の家族―』を観る

2020-03-16 10:01:42 | 日記
カンヌ映画祭とアカデミー賞の最高賞を獲得した韓国映画『パラサイト―半地下の家族―』を観た。

鹿屋市のリナシティで、1月の半ばくらいからか、トイレに用足しに入ると男子トイレの真ん前の壁にポスターが貼ってあったので興味はあったのだが、いずれと思っているうちに今度はアメリカのアカデミー賞の何部門かを独占したというので、早目に観ることにした。

リナシティの3階にあるリナシアターに足を運ぶと、一日4回上演するという中で13時開演という真昼間のせいか、観客は自分以外に6名ほどが満席で70あるという観覧席の思い思いの場所にパラパラと腰を下ろしているだけだった。

若い頃、映画を観る方ではなかったので、往年の全盛期の混雑ぶりとは比べられないが、それでもヒットした映画があった時に繁華街の映画館の前に長蛇の列ができたりしていたのは知っている。

映画上映での興行料支払いがどのくらいなのかは知る由もないが、リナシアターは半官半民なので観客動員数一日二十名でも何とかやって行けるのだろう。過疎が進んで映画館が一軒もなくなった町に住む身にはありがたいシステムだ。

10名に満たない観客なら映画館という密閉された場所でも「濃厚接触」の可能性は極めて低く、したがって新型コロナウイルス感染の危険性も著しく低いはずだ――などと思っているうちに映画が始まった。

パラサイトが「寄生・寄生虫」だとは知っていたが、「半地下」というのは見当がつかなかった。最初の画面から飛び込んできたのは確かに窓の半分の高さに道路が見える住まいに暮らすキム一家だった。

全員が職を持たず(主人公は浪人男子学生。父母と妹の4人家族)、内職の宅配ピザのケース組み立てをしている。そこへ主人公の友人で一流大学に入っているのが訪ねてきて、友人が今やっているセレブの家の女子高校生の家庭教師の代役を依頼する。友人はアメリカへ2年ほど留学するという。

一流大学の在学証明書を偽造して持参し、そのセレブの家「パク家」に主人公がうまく雇われたところから「パラサイト」が始まる。

パク家の主人は社長で、世界的な建築家が建てたという二階建ての豪邸を購入してまさにセレブな生活をしている。素直この上ない奥さんと高校生の娘そして小学校の問題児だが絵の上手な息子の4人家族。さらに世界的建築家が住んでいた時からの家政婦が一人。

突飛な絵を描く息子を心配しつつも絵の才能を伸ばすため絵の家庭教師を探していると知った主人公は、妹を「絵画療法指導士」に仕立ててパク家に連れてくる。素直な奥さんはすぐに受け入れる。

次は社長のお抱え運転手を色仕掛けで問題を起こして社長の怒りを買わせ、まんまと解雇させ、その後任に運転歴20年のベテラン運転手と吹聴して父親を滑り込ませる。

最後の仕上げのパラサイトが母で、前の建築家の代からいるという住み込みの家政婦が「桃のアレルギー」だと知ったうえで、わざと桃の皮についているうぶ毛を削って集め、家政婦の首筋に背後からそっとまき散らすことで激しい咳を誘発させ、彼女が口を押えてゴミ箱に捨てたナプキンに赤インクをにじませる。

「家政婦は結核ではないか」とその「血の色に滲んだナプキン」を奥さんに示して信用させ、ついに家政婦を解雇させることに成功する。そしてその家政婦に代わって主人公の母が新たな家政婦になる。

ここまでの展開は非常に面白い。四人が四人ともそれぞれの騙し方で雇用されていくという筋書きには予測がつかない面白さがあった。

このまま「高級な手当」で4人がパク一家を騙しつつ何食わぬ顔で暮らして(パラサイトして)いけばよかったのだが、パク一家がキャンプに行くと言って家を空けた時から話はある意味お決まりのコースをたどる。

パク家の高級ワインやブランデーを勝手に飲みながらのキム一家の宴会の最中に、辞めたはずの家政婦が「忘れ物をした」とやって来る。何とこの家には地下室があり、そこに事業に失敗した夫が借金取りから逃れるため住んでいるという。(※豪邸には必ず北朝鮮の核攻撃に備えて地下室があるのと、家政婦に言わせている。)

当然二つのパラサイトチームが並び立つわけがなく、いさかいが始まるが、キャンプ地が豪雨のため早めに切り上げて帰って来たという奥さんの連絡で、一応は休戦となる。

翌日は上天気で、知人たちを中庭に呼び、キャンプ地でできなかった息子の誕生パーティが開始された。その賑わいの中、地下室にいた家政婦の夫が乱入し手にしていた出刃包丁で主人公の妹を刺殺し、今度は主人公の母親がその夫をバーベキューの串で刺し殺す。最後に主人公の父親が、パク家の主パク社長をナイフで殺害する。

パラサイト同士の殺害事件は相殺されたが、パク社長の下手人である主人公の父親は行方知れずとなった。しかし主人公は父親があの家政婦の夫が潜んでいた地下室にもぐり込んだことを外灯を利用したモールス信号で知った。

殺されたパク社長一家が出て行った後の住人に気付かれないよう、地下室からそっと出ては食物をあさっている姿を想像しつつ、主人公は最後にこうつぶやく。

「俺が金持ちになって豪邸を買うから、それまで・・・」

最後はブラックユーモアの類だろう。半地下の住人が今度は本当の地下室の住人になったわけなのだから。

パラサイトしていく前半もユーモラスな場面が多く、見どころはむしろそっちではないだろうか。

また、パーティ会場に男が乱入してから次々に起こる殺傷の場面は実にリアルで、ここがよく日本の「映倫」をパスしたなと思ったが・・・。


ー閑話休題―
パラサイトと言えば、今全世界で流行の新型コロナウイルスも人へのパラサイトには違いない。ウイルスの中間寄生宿主はコウモリにせよ何にせよある意味共存共栄的な関係にあるのだろうが、人の方はパラサイトされても抗体ができていないのでウイルスが増殖して死に至る。

高齢者が多く亡くなっているが、抗体を作る力いわゆる「免疫力」が低下しているためだろう。人間の「パラサイトシングル」は父母に寄生するらしいが、父母も高齢化したら困り果てるに違いない。