鴨着く島

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引きこもり

2019-11-18 09:32:31 | 母性
今朝のNHK「あさいち」では中高年の引きこもりについて特集していた。

中高年の範囲を40歳から64歳までとした場合、その数は61万人だそうである。引きこもりの定義は基本的には我が家から外には出ず、我が家の中でも自室に閉じこもり、その期間が6か月を超えていることーーであり、その多くは両親と暮らしているということであった。

番組の中で実際にはもっといるという意見もあったが、この数で計算すると同い年に2万5千人ほどいるということになる。同い年の平均は150万人ほどだから、同い年当たり1.66人、つまり60人に1人が引きこもっている状態である。

年齢別の引きこもり割合は提示されていなかったが、40歳代はバブル崩壊後の俗に言われる「失われた10年」の頃に就職期を迎えたが、正規の希望の職に就けなかったのでやむなく引きこもってしまったケースが多いと思う。

このように多少は社会的要因に帰せられる引きこもりもあるが、そのほかの多くの場合は社会(家の外)に自分の居場所を持てなかったことが引きこもりの最大の要因だろう。

家の外に自分の居場所を持てなかった時、人はどうするだろうか?

当然居られる場所(居ていい場所)に行くだろう。そこは家である。両親或いはそのどちらかが「お前など帰ってこなくてもいい」というのなら話は別だが、外に居場所を持てなかった(作れなかった)人間は家に戻る。

その時家族との関係が普通に密で温かい関係であるならば、家族のもとで癒され、しばらく滞在してリフレッシュしたのちに再び社会(家の外)に出るか、出ようとするだろう。

問題は家族との関係が冷たい場合である。外に居場所がなかった彼(彼女)は家に帰ってきても冷たい家族関係では家自体が「外」と同じで、結局のところ自室に籠るほかない。自室で「心の寒さ」に耐えるしかない。

家族との冷たい関係の原因は様々だが、それが虐待であれ、過干渉であれ、ネグレクトであれ、温かさを失った家は子供にとっては「寒い家」である。

喩えだが、暖房の無い冬の朝、起きてからガタガタ震えながら朝食を掻き込み、少しも温もらない身体でもっと冷え込んだ外に出ていくことはできないし、出て行ったとしても寒さに震えてすぐに家に逆戻りするだろう。

逆に言うと、家族関係の普通に密で温かい家で育った子供はその温かさを身に纏って外に出、たとえ外で「冷たい目」に遭っても我が家でのぬくもりを思い出して耐えることができるだろう。どうしても耐えられない時はまた我が家へ戻ってリフレッシュすればよい。


私の弟(末子)が引きこもりになったのは中学校2年の時だった。今からもう54年も前のこと。

当時は「引きこもり」という専門用語(?)はなく、長期欠席(スラングではズル休み)という一般用語が使われていた。

中学2年になって間もなくのことで、直接な原因としては成績が思わしくなかったからのようだが、そのことくらいで学校に行けなくなるとは誰しも思えない程度の落ち込みに過ぎなかった。

他に友人関係も若干あったらしいが、それも長期欠席(不登校)の原因としては弱過ぎた。

兄弟4人いて他の3人は誰も長期欠席などしたことがなく(すぐ上の兄である私は何度か腹痛を騙ってズル休みしたことはあるが)、そうなると弟自身の気の弱さ・意志の軟弱があげつらわれるようになった。

我が家は両親が教員(父は中学校。母は小学校。核家族なので住み込みの「お手伝いさん」を雇って日常を回していた)なのだが、当時の父は弟を「お前は意志薄弱だ」とよくけん責していた。

それは全く以て逆効果で、弟としては学校に行きたいのだが行けない。その「行けない自分」(意志薄弱にみられている自分)への自己嫌悪が余計に増幅されてしまう結果になった。

ついに心が折れて「自律神経失調」から「精神分裂症(統合失調症)」へと向かってしまった。(16歳ころに精神科にかかり、その後も回復することなく32歳で他界した。)

もともと幼時からの「母離れ」が兄弟4人とも早く(60年前の女性教員は産前2週間・産後4週間の6週間の産休しかなかった)、母は産んでからもずっと働いていたから、その後も、例えば朝の見送りも学校帰りの「おかえり」という姿もなく、言ってみれば母の存在感は「父、時々母」程度しかなかった。

弟が引きこもり(長期欠席)に陥った時点で母が教員を辞めて家に帰り、「温かい家庭の主」になるのが本筋だったのだ。第一、両親が義務教育担当の教員なのにその子が義務教育を欠席している姿はいかがなものか。世間から見てもおかしいし、憲法の(親の)義務の一つ「我が子に義務教育を受けさせる義務」に違反している。

母が弟の窮状を見過ごしつつ、働き通した理由が未だに分からない。教員を辞めたら収入が無くなるとはいっても父は普通に働いているのだし、もし母が収入を得たいならあの頃の東京だったらフル勤務ではないパートタイマーという仕事は探せばいくらでもあったろうに。


今朝の「あさいち」の番組「中高年の引きこもり61万人特集」を見ていて、引きこもりの最大の要因はやはり「家族間の冷たい関係」だと思った。

「家族間の関係が冷たいのにその家の中によく居られるな」と思うかもしれないが、引きこもり者にとっては単に「社会の冷たさに比べればまだまし」なのであり、「まだましなのだが、家族との関係も冷たいので、居場所は自室しかない」のである。

「冷たい家族関係」を解くやり方は結局のところ、冷え切った(と引きこもり者が感じている)原因を子育ての時代に戻り、親自身が要求を出して決めつけたり、子供の言うことをまともに聞いたことがあったかを反省し、親自身が変わっていくしかないだろう。

「親が変われば子も変わる」ということに尽きる。

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