神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] さようなら、ロビンソン・クルーソー

2016-08-01 15:24:45 | SF

『さようなら、ロビンソン・クルーソー』 ジョン・ヴァーリイ (創元SF文庫)

 

ジョン・ヴァーリイの実力が遺憾無く発揮された短編集。〈八世界〉全短編の2巻目。

〈八世界シリーズ〉の短編を発表年順に収録とのことで、第1巻の『汝、コンピューターの夢』に比べると比較的新しい作品が多く、その分、古臭さを感じることが少なかった。

デビュー作である「ピクニック・オン・ニアサイド」では設定のひとつに過ぎなかった性別変更、若返り技術の社会的問題に徐々にフォーカスが当てられていくように見えるところがおもしろい。著者はそこに内包された問題に、最初から気付いていたのだろうか。

〈八世界シリーズ〉は、突然に異星人によって侵略された地球の外で、その異星人から奪った新たな科学技術によって生き延びていく人類を描いたシリーズであり、中でも、性別の変更、若返り、人工生命体との共生といった人体改変がヒトの生き方や社会を変えていく様子を描いている。

それによって、ヒトがヒトの身体であることによって生まれている心の問題や社会の問題を明らかにしていくというところがいつの間にか主眼になっている。この視点は、現在においてもまったく古びていないし、かえって議論の先取りをしているように見えるほどだ。

ヴァーリイ個人にとっても、最初は単にSF的アイディアとしての着眼だった人体改変技術が、時代を経てライフワーク的なテーマとなり、それが普遍的なテーマへと変わっていったのだろう。


「びっくりハウス効果」(大野万紀訳、新訳)
タイトルがネタバレなのはいかがなものか。

「さようなら、ロビンソン・クルーソー」(浅倉久志訳)
人工的に作られた楽園の終焉は、少年期の終わり。

「ブラックホールとロリポップ」(大野万紀訳、改訳)
親の心子知らず。その逆もまた。

「イークイノックスはいずこに」(浅倉久志訳)
親子の絆。共生の絆。

「選択の自由」(浅倉久志訳)
性が選択可能だとしたら、ジェンダーとはいったい何か。

「ビートニク・バイユー」(大野万紀訳、改訳)
性別に加え、外見の年齢も変えられる社会においての教育とはどのようになるのか。

どの短編も、ストーリーで直接描かれる以上に、様々な視点に気付かせてくれる、非常に刺激的な作品だった。

 


[SF] 汝、コンピューターの夢

2016-08-01 15:11:36 | SF

『汝、コンピューターの夢』 ジョン・ヴァーリイ (創元SF文庫)

 

ジョン・ヴァーリイの〈八世界〉シリーズ全短編集の1巻目。SFが読みたい! BEST SF 2015の海外篇第11位。

収録全作品が、新訳、もしくは改訳。いくつか以前に読んでいるものがあるはずなのだが、記憶に引っかかるものはなかったのは訳のせいか、記憶力のせいか。

今さらヴァーリイかよという感じではあり、実際にいくつかの短編の設定や雰囲気は古臭く、懐かしさを感じるものもある。しかし、小説として今でも面白く読めるのは、結局のところヴァーリイが描いているのが人間だからということなのかもしれない。

70年代に彼が登場した当時は、新しいハードSFとか、スタイリッシュな未来描写なんて評判が立ち、人体改造や仮想現実をネタとした多彩なSFガジェットの扱いが注目されていたが、それだけの作家だったのであれば、この時代には既に古びたレトロ・フューチャーの仲間入りだったかもしれない。

しかし、ガジェットそのものではなく、それに翻弄される人間を描くことによって、2010年代にも通用する作品として再評価されることになった。

特に、性別をころころと変えることが常識化した社会は、世界的にジェンダーフリーの思想が盛り上がっている昨今から見れば、実に先験的なシリーズであったと言えるだろう。


「ピクニック・オン・ニアサイド」
これがなんとデビュー作。いきなりの性転換で驚くものの、実は郷愁と孤独がテーマという二段構え。収録は発表順なのだが、シリーズの背景を説明するのにもってこい。

「逆行の夏」
身体改造が生み出す新たな家族の形。親子の葛藤なんて、どんな社会になろうとも普遍的なものだが、こういう親子にとってはどうなんだろう。

「ブラックホール通過」
skypeでいつでもつながっている恋人同士というのも珍しくなくなったが、その状態における鬱陶しさと孤独感がブランコのように揺れ動く様子が良い。あと、恋人に救われるダメ男というパターンが多いのだけれど、ヴァーリイの願望なのか?

「鉢の底」
凄腕技術者の幼女が登場するという、現代日本に最適な作品。しかも、やっぱり幼女に救われるダメ男。

「カンザスの幽霊」
なんと、冒頭作品と同じ主人公だが、話はほとんど無関係。記憶の保存とクローンによる復活が可能となった社会での殺人の意味と、重大犯罪の結末。価値観の違いが衝撃的。気象操作を利用した芸術というのもおもしろい。

「汝、コンピューターの夢」
格好のいいタイトルにくらべて、いささかおまぬけな話。よく考えると、いろいろと必然性がなくておかしいのだが、仮想世界へのジャックインが引き起こす問題と、それに直面した時の混乱は普遍的なネタかもしれない。

「歌えや踊れ」
植物と共生する改造人間が生み出す音楽。ここまで来ると、もはや人間なのかとも思えるが、やはり人間の心や感情は変わらない。だから美しいし苦しい。

 


[SF] S-Fマガジン2016年8月号

2016-08-01 14:46:45 | SF

『S-Fマガジン2016年8月号』

 

「特集 ハヤカワ・SF・シリーズ総解説」

ハヤカワ文庫SFの次は、ハヤカワ・SF・シリーズかよ。いわゆる銀背。こんなの総解説やったところで、興味があったら古本屋で探せってか。と思ったら、総選挙企画ってことで、ハヤカワ文庫SFで復刊、もしくは、新訳でもやってくれるんですかね。

解説を読んでみると、タイトルは聞いたことがあるけれども読んだことの無い小説がわさわさと。番号の抜けているものはハヤカワ文庫SF総解説と重複しているということは、ここにあるやつは(少なくともハヤカワでは)銀背でしか出てないやつなんだ。

なにしろ、リストの先頭が『ドノヴァンの脳髄』である。この本、タイトルを知っている人の中で、実際に読んだことある人はどのくらいいるのだろう。

リストを眺めてみると、我々がSFとはこういうものだと思う小説が中心のラインナップ。そりゃそうで、いわば、このラインナップこそが本場米国とは多少異なる日本のSF観を形作って来たのだろう。

後半には小松左京をはじめとする日本人作家の作品も混じり、彼らが海外作家と肩を並べられるような作品を生み出し始めた頃のラインナップと比較するのもおもしろい。

小松左京、光瀬龍の第一作品集の1か月前に出たのが『トリフィドの日』だったり、『破壊された男(分解された男)』はその後の出版だったりと、へーと思うことが盛りだくさんだ。

個人的に気になったのはレスター・デル・リイの『神経線維』。原発事故をテーマにした災害SFだが、あまりにリアルな描写のためにFBIから調査を受けたという逸話が目を惹く。原発事故を経験した日本人にとって、60年前に描かれた作品を読み直すことは価値があると思う。


「青い海の宇宙港」 川端祐人
今回で最終回。種子島多根島の宇宙遊学生である小学生たちがやり遂げた快挙。「ガッカチチウ」という奇妙なスローガンも心に残る。ロケットへのこだわりも、ガオウへのこだわりも、SFじゃないけどSF魂に溢れている。これ、ハヤカワ文庫ハヤカワから単行本で出るんだけど、小学生が読める形にできないものか。

「新・航空宇宙軍史 イカロス軌道」 谷甲州
読み切りじゃない(何回目?)。もう、不定期連載ってことで。

「裏世界ピクニック くねくねハンティング」 宮澤伊織
都市伝説的怪談のSF的解釈というか。なかなかおもしろいテイストだと思う。

「あるいは呼吸する墓標」 伏見完
サイボーグ化され、死しても歩き続ける死体というイメージが物悲しい。

「ウルフェント・バンデローズの指南鼻〈前篇〉」 ダン・シモンズ/酒井昭伸訳
ジャック・ヴァンス風ダン・シモンズ。というか、トリビュート企画。この雰囲気はさすが。

「マグナス・リドルフのおみやげ」 石黒正数
うん、まぁ、正しいおまけ。

 


[SF] S-Fマガジン2016年6月号

2016-08-01 14:17:11 | SF

『S-Fマガジン2016年6月号』

 

なんとびっくり。4月号のデビッド・ボウイ追悼特集に続き、今回も音楽が主役。しかも、「特集 やくしまるえつこのSF世界」。

やくしまるえつこはS-Fマガジンに「あしたの記憶装置」を連載しているくらいにSFではあるのだけれど、いったいS-Fマガジン編集部はどうなってしまったのか(笑)

“相対性理論”という奇妙な名前のバンドの存在を知ったのはいつだったかは忘れたけれど、名前を知って興味を持ったときに2、3曲聞いたくらいで、あまりよく知らない。というか、好きなタイプの音楽じゃなかったという印象。

やくしまるえつこ本人にいたっては、薬師丸ひろ子としばらく区別がついていなかったというのが正直なところ。

しかし、ティカ・α名義でのSMAPへの作詞提供や、ももクロの『Z女戦争』なんかもこの人だったと知ると、たしかに最近盛り上がっているんだなと再認識した。

やくしまるえつこは確かにSFファンが好きそうな独特な世界を持った人ではあるのだろうが、SF小説読者からすると、ちょっとズルいんじゃないかと、実は思っている。

「あしたの記憶装置」なんかが典型的なのだけれど、SF的なモチーフ(未知の科学、失われた記憶、こことは違う世界……)のイメージを喚起する単語や文(あえて文章とは言わず)の羅列でできている。それは、風呂敷を広げるだけ広げて、たたまない。

この風呂敷が広げられている期間というのは、実に楽しい。謎が謎を呼び、新たな可能性に心が震える。

しかし、小説や映画ならば、物語に結末をつけなければならない。わざとオープンエンドにする場合もあるが、それでもそれなりのオチはつく。

このとき、広げすぎた風呂敷をたためずに陳腐な結末になってしまったり、誰も期待しない斜め上のオチがついたりすることも多々ある。あるいは、それを避けるために、いつまでも終われなかったり。ほら、あの○ヴァンゲリ○ンとか……。

詩とか歌詞とか、イラスト+短文とか、イメージを喚起するだけ喚起するだけのものは、結末をつけなくてもよいという意味で、やっぱりズルいと思うのだ。

 

ところで、話は変わるが、香山リカは科学にもSFにも関係の無いことばかり書いているならば、そろそろ退場してもらってもいいのではないか。今回の内容に関しても、アンチ・ヘイトはヘイトと同じ穴の貉にしか見られていないし、「アイヌだというだけで殺されるかも」に至っては、知里幸恵の同窓生として違和感しか無い。


「ウルトラマンF〈最終回〉」 小林泰三
これで連載最終回。TSUBURAYA×HAYAKAWA UNIVERSE 企画の一環なのだけれど、ウルトラマンネタであれば、以前の『ΑΩ』の方が破天荒で面白かった。Fの意味がわかったところが一番の頂点。企画の都合でリミッターが働いているのかどうかはわからないけど、もっとむちゃくちゃにやっていただきたい。
(※加筆された単行本版はもっとすごいらしいので期待)

「月の合わせ鏡」 早瀬耕
Removeが不要でメモリリークしないデータ構造というのはちょっと惹かれるけれど、ヒトの記憶のように曖昧なのじゃちょっとね。AI系に使うには最適なのだろうけれど。って、そいういうのが主題じゃないか。

「双極人間は同情を嫌う」 上遠野浩平
おじさんはもう疲れちゃって、こういうの、もう読めないよ。

「牡蠣の惑星」 松永天馬
現代的というか現在的。SFの皮すらかぶらなくなった現在小説。最貧困女子とか、高学歴底辺女子とか、一部で話題になっているその辺の話題とつなげるのも面白そうだ。

「天地がひっくり返った日」 トマス・オルディ・フーヴェルト/鈴木 潤訳
これ、ヒューゴー賞なのか。フラれた心象が文字通り実現した結果っていうこと?

「失踪した旭涯(しゅうや)人花嫁の謎」 アリエット・ドボダール/小川 隆訳
大メヒカ帝国は燃えるな。この世界で日本は一体どうなってるんだと気になる。