『さようなら、ロビンソン・クルーソー』 ジョン・ヴァーリイ (創元SF文庫)
ジョン・ヴァーリイの実力が遺憾無く発揮された短編集。〈八世界〉全短編の2巻目。
〈八世界シリーズ〉の短編を発表年順に収録とのことで、第1巻の『汝、コンピューターの夢』に比べると比較的新しい作品が多く、その分、古臭さを感じることが少なかった。
デビュー作である「ピクニック・オン・ニアサイド」では設定のひとつに過ぎなかった性別変更、若返り技術の社会的問題に徐々にフォーカスが当てられていくように見えるところがおもしろい。著者はそこに内包された問題に、最初から気付いていたのだろうか。
〈八世界シリーズ〉は、突然に異星人によって侵略された地球の外で、その異星人から奪った新たな科学技術によって生き延びていく人類を描いたシリーズであり、中でも、性別の変更、若返り、人工生命体との共生といった人体改変がヒトの生き方や社会を変えていく様子を描いている。
それによって、ヒトがヒトの身体であることによって生まれている心の問題や社会の問題を明らかにしていくというところがいつの間にか主眼になっている。この視点は、現在においてもまったく古びていないし、かえって議論の先取りをしているように見えるほどだ。
ヴァーリイ個人にとっても、最初は単にSF的アイディアとしての着眼だった人体改変技術が、時代を経てライフワーク的なテーマとなり、それが普遍的なテーマへと変わっていったのだろう。
「びっくりハウス効果」(大野万紀訳、新訳)
タイトルがネタバレなのはいかがなものか。
「さようなら、ロビンソン・クルーソー」(浅倉久志訳)
人工的に作られた楽園の終焉は、少年期の終わり。
「ブラックホールとロリポップ」(大野万紀訳、改訳)
親の心子知らず。その逆もまた。
「イークイノックスはいずこに」(浅倉久志訳)
親子の絆。共生の絆。
「選択の自由」(浅倉久志訳)
性が選択可能だとしたら、ジェンダーとはいったい何か。
「ビートニク・バイユー」(大野万紀訳、改訳)
性別に加え、外見の年齢も変えられる社会においての教育とはどのようになるのか。
どの短編も、ストーリーで直接描かれる以上に、様々な視点に気付かせてくれる、非常に刺激的な作品だった。