『マイルズの旅路』 ロイス・マクマスター・ビジョルド (創元SF文庫)
なんとびっくり。帯には「ついに完結」の文字が!
ヴォルコシガン・サーガが、まさか完結篇を迎えるとは思ってもみなかった。これって、ビジョルドのライフワークで、いつの間にか出なくなったら著者が亡くなってた、なんてパターンになるものだと。
完結篇でこのタイトルというと、遂にマイルズが……とも思ったけれど、そんなことは無く。読んでみると、完結なのは納得感もあり、そうでもなくもあり、なんとなく微妙。ネタバレなのでアレですが……。
マイルズ最後の事件ともなれば宇宙を揺るがす大事件かと思いきや、敵は割と小物。しかも、マイルズの捜査も行き当たりばったりに近くて、なんとも間抜けな感じ。運が味方してくれなければ、この事件は片付いていなかったのじゃないだろうか。
まぁ、マイルズはもともと緻密な捜査よりも体当たり派だからしょうがないのか。それにしても今回は当たって砕けろで砕けまくって失敗が多かったような気がするんだけど。
やっぱり、無敵の聴聞卿もそろそろ引き際なのかも。
さて、原題は日本語タイトルと大きく違って“Cryoburn”。意味は微妙に日本語に訳しづらく、たぶん「凍傷」であっているんだろうけれど、寒くてなるものではなくて、極低温の物体に触ると皮膚が火傷のようになるやつ。本作品の主題となる冷凍睡眠にまつわる事件を暗示するものだ。
冷凍睡眠が一般的な技術になると、確かに睡眠者の人権は問題になるかも。とはいえ、議決権に関してはどうだろうか。今だって寝過ごしたら選挙権があっても投票できないのだし、痴呆老人や寝たきり老人の代わりに選挙権を委任されたという話も聞いたことが無い。少なくとも、日本じゃ無理なんじゃないかな。
あと気になるのは休眠口座とか。冷凍睡眠から起きたら休眠口座が没収されてたとか、シャレにならん。今のところ、商法や民法の時効を越えても、運用上は払い戻しに応じてくれるようだけれども、今後どうなるかわからないしな。
そもそも、こんなに簡単に冷凍睡眠に入ったり、起きたりできたら、医療目的だけじゃなくて、もっといろいろなことに使われそうだ。それこそ、投資をAIに任せて、十分に稼いだら起こしてもらうとか。美人の定義が変わるのを待って、自分が美人な時代になったら起こして、とか。
19歳と17歳が恋に落ちたけど、19歳が成人すると途端に淫行になってしまうので、17歳も成人になるまで睡眠する、とか……。