「少女は蒸気駆動の甲冑機械を身にまとう」という惹句が印象的で、Web上の感想もそれに引っ張られたものが多かったけれど、想像していたのとはかなり違った。
舞台はゴールドラッシュ時代のアメリカ西海岸。ただし、スチームパンク的なパラレルワールド。
主人公はお針子さん。とは言っても、これは当時の隠語で、娼婦を示す。つまり、寸法を正確に測るには裸にならなければならないというわけだ。日本で言うと、お風呂屋さんですかね。
そこで出てくるのが、蒸気駆動のミシン。全身を覆うような形状で、分厚いデニムも簡単にひと縫いだ。これが“蒸気駆動の甲冑機械”なわけ。なにしろ、ミシンの語源はmachineだからな。
そんなスチーム・パンクな世界で、娼館どうしの勢力争いやら、娼婦を狙う連続殺人鬼やら、テスラ・マシンみたいな催眠装置やら、ロシア人やらフランス人やらが大騒ぎ。泣けるし笑える傑作アクションSFだった。
解説では「『ハックルベリー・フィンの冒険』の主人公を16歳の娼婦にしたよう」とのローカス誌の評が引用されているけれど、読んでいて思い出したのは、『赤毛のアン』や『あしながおじさん』といった少女文学。世界名作劇場でアニメ化されているようなやつだ。
主人公カレンの一人称は、原作の文体もそうなのだろうが、訳文もあえてそういった名作に似せた文体にしてるんじゃないだろうか。このミスマッチがなかなか面白かった。
そして、著者にとっては、甲冑機械よりもこっちの方が本題のようだ。
主人公のカレンは父親が事故死したせいで娼館で働くことになった娼婦だが、お金を貯めて牧場を開くという夢に向かって前向きに生きている。ほかにも、娼館には様々な理由で割を食わされたわけありの少女たち(ゲイのおっさんまで)が集まっている。しかし、彼女たちも明るく、前向きに運命を切り開き、これ以上女性が虐げられないように世の中を変えていこうとする。いわば女性の解放を描いた作品でもあるわけだ。
過酷な境遇にありながらも、ユーモアを忘れず、自ら運命を切り開いていく少女の姿は、たとえ甲冑機械をまとった娼婦であっても、世界名作劇場の主人公たちに負けない尊さがあるのである。
そして、女性であろうと男性であろうと、読者は彼女たちに共感し、応援し、その冒険を見守るしかないのである。
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