『旋舞の千年都市(上下)』 イアン・マクドナルド (創元海外SF叢書)
ヨーロッパとアジアのまさに交点であるイスタンブールの数十年後を舞台とした近未来小説。複数主人公のエピソードがそこここで絡み合って、科学と信仰が生み出す新たなテロ事件が描かれる。
とりあえず、やたらと読みずらかった。『サイバラバード・デイズ』は面白かったんだけれど、そういえば『火星夜想曲』もやたらと読みづらかった記憶があるな。
各エピソードの冒頭にそのエピソードの主人公が出てこないので、いったい何の話かよくわからないまま進んでしまう。この見通しの悪さが読んでいて不安になるし、読みづらさの原因だと思われる。
各エピソードもそうなのだけれど、作品全体についても、見通しの悪さが目立ち、上巻を読み終えた時点でも、いったい何についての物語なのかさっぱりわからない。
それが迷宮都市としてのイスタンブールの街と相まって、この小説の最大の魅力だと言えばそうなのだろう。でも、やっぱりひたすらに読みずらい。
さらに、登場人物が多いうえに、名前が覚えにくい。
イスタンブール、トルコはヨーロッパとアジアの架け橋であるという地理的条件や歴史的経緯もあり、欧州側とアジア側、ギリシャ人にクルド人にアラブ人になにやらかにやら。そんなわけで、付属の人名表は必須。あと、校正ミスなのか意図的なのか、ギリシャ語読みと英語読みで出てくる人がいたような。
この多様な人物たちも、大きな魅力の源でありながら、読みづらさの原因でもある。
SFネタとしては、テロが誘発しようとしている事態の目的と、その理由はトルコならではなものであり、それは考えたことが無かったという驚きもあり、そのあたりが読みどころになるし、SF的に広げられる部分かも。科学と魔法はここに融合の可能性を見るのだとかなんとか。
あとは、小ネタがちょぼちょぼ。もしかしたら、でかい話を見逃しているのかもしれ無いけれど。
文化も人種も社会も混沌としてごちゃまぜな、まさにカオスの物語。たぶん、好きな人はすごく好きだろうけれど、俺にとっては読みずらさがまさった感じで終わってしまった。