神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] 旋舞の千年都市

2014-05-27 23:53:09 | SF

『旋舞の千年都市(上下)』 イアン・マクドナルド (創元海外SF叢書)

 

ヨーロッパとアジアのまさに交点であるイスタンブールの数十年後を舞台とした近未来小説。複数主人公のエピソードがそこここで絡み合って、科学と信仰が生み出す新たなテロ事件が描かれる。

とりあえず、やたらと読みずらかった。『サイバラバード・デイズ』は面白かったんだけれど、そういえば『火星夜想曲』もやたらと読みづらかった記憶があるな。

各エピソードの冒頭にそのエピソードの主人公が出てこないので、いったい何の話かよくわからないまま進んでしまう。この見通しの悪さが読んでいて不安になるし、読みづらさの原因だと思われる。

各エピソードもそうなのだけれど、作品全体についても、見通しの悪さが目立ち、上巻を読み終えた時点でも、いったい何についての物語なのかさっぱりわからない。

それが迷宮都市としてのイスタンブールの街と相まって、この小説の最大の魅力だと言えばそうなのだろう。でも、やっぱりひたすらに読みずらい。

さらに、登場人物が多いうえに、名前が覚えにくい。

イスタンブール、トルコはヨーロッパとアジアの架け橋であるという地理的条件や歴史的経緯もあり、欧州側とアジア側、ギリシャ人にクルド人にアラブ人になにやらかにやら。そんなわけで、付属の人名表は必須。あと、校正ミスなのか意図的なのか、ギリシャ語読みと英語読みで出てくる人がいたような。

この多様な人物たちも、大きな魅力の源でありながら、読みづらさの原因でもある。

SFネタとしては、テロが誘発しようとしている事態の目的と、その理由はトルコならではなものであり、それは考えたことが無かったという驚きもあり、そのあたりが読みどころになるし、SF的に広げられる部分かも。科学と魔法はここに融合の可能性を見るのだとかなんとか。

あとは、小ネタがちょぼちょぼ。もしかしたら、でかい話を見逃しているのかもしれ無いけれど。

文化も人種も社会も混沌としてごちゃまぜな、まさにカオスの物語。たぶん、好きな人はすごく好きだろうけれど、俺にとっては読みずらさがまさった感じで終わってしまった。

 


[SF] オマル

2014-05-27 23:25:33 | SF

『オマル―導きの惑星―』 ロラン・ジュヌフォール (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

 

SFマガジンでも非英語圏SFが特集されるきっかけとなったフランスSF。

言語的に隔離されているだけに、さぞや独自に進化した不思議な物語かと思いきや、あれとかこれとか、英語圏SFの影響が容易に見て取れるオーソドックスなSFだった。帯の紹介文の妥当性も推して知るべし。

旧植民地からの移民が多く、格差問題に悩まされ続けている現代フランスの社会問題が、複数の異星人の対立問題に色濃く表れていることはフランスSFとしての特徴なのかもしれない。ひとつの言語を習得すると、元の言語を忘れるというのも、あえてフランス語しかしゃべらないフランス人っぽくて良い。

フランスっぽいのはそれくらいで、英米SFとの大きな違いは無いように思った。これなら、東欧SFや、むしろ、日本の“すこし不思議”系な小説の方に、異質な感触があるように感じた。

そこまですごくないという意味であって、まったく面白くないわけではないのですが。

ただし、いったいどういう物語なのかがわからない序盤は、ちょっと読書スピードが上がらなかった。主要登場人物がすべてそろってからはそれなりに加速。

SFとして言えば、登場人物たちを集めた理由が明らかになるまでと、その後の展開の分量がアンバランスで、後半が尻つぼみ。そのせいで、SF設定の壮大さが物語としては逆に「なんじゃそりゃ」という結末に繋がっている気がする。

ここがあきらかに人工的な世界であることは冒頭から示されているので、なぜこの世界ができたのかというところに種明かしの焦点を期待したが、それは置いてきぼり。そもそも、彼らの祖先にもわかっていないようであるところが、設定を放り出してしまったのか、それとも、今後さらに大ネタを仕込んであるのかは不明。

登場人物の役割もいまいち不明で、途中であっさり死んじゃう人もいれば、その人でなければならなかった理由がよくわからない人もいる。もしかして、これは彼らがその後のオマルの社会へ大きく影響を与えていくという発端の物語なのだろうか。

いろいろ謎が残されたままだけれど、フランスでは大人気のシリーズとのことなので、続刊を待ちたい。

 


[映画] ショーン・オブ・ザ・デッド

2014-05-27 23:03:10 | 映画

『ショーン・オブ・ザ・デッド』

 【映画】ショーン・オブ・ザ・デッド (2004) 日本版予告編

 

 『ワールズ・エンド』があまりにも面白かったので、彼らの出世作である『ショーン・オブ・ザ・デッ ド』を借りてきた。

オープニングでのスライドショーで見せる日常や、始まりは通常の現代劇でありながら、一転してホラーの世界に連れて行かれるというフォーマットはこの時代からの鉄板だったようだ。

ただし、ゾンビのモチーフは序盤の日常パートにも使われていて、最初から不穏な空気が立ち込めている。これは、現代に生きる人々の大半はゾンビ(哲学的ゾンビ的な意味やらなにやらで)だというメッセージなのかもしれない!

これを見ると、『ワールズ・エンド』で「デブキャラが格好良くてびっくりした」という感想が多かったのもよくわかる。このデブ(エド)は本当にいけ好かない奴だ。しかし、主人公(ショーン)にとっては、かけがえのない親友なわけで、恋人以上に捨てられない腐れ縁。そしてまぁ、エドは腐ってしまうんだけどねw

その親友と恋人、さらには母親とその再婚相手の間で翻弄されつつも、相手を思いやり、良かれと思ったことが惨事を引き起こし、想いは伝わらず、事態はますます悪化していくという、かなりフラストレーションがたまるコメディ。

『ワールズ・エンド』に比べれば、シーン切り替えのテンポやコメディのネタ的に洗練されていない感じを受けてしまっていまいちな感じだったが、ネットでは『ショーン・オブ・ザ・デッド』の方が面白かったという意見もよく目にする。

きっと、サイモン・ペグの作品のどれを最初に見たかで評価が決まってしまうものなんだろう。それだけフォーマットが確立されている。

日常生活のささいな出来事を現代劇で描きながらも、途中からフリーフォールで落下するごとく一気にホラーコメディの世界に叩き込まれるというフォーマット。それに対する驚きを越えた後で、本質的に何をおもしろがるのかというところが、感想の違いになってくるのかもね。

 


[映画] ワールズ・エンド

2014-05-03 05:51:27 | 映画

『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』

 

SFマガジンで紹介されていた映画。これはすごく面白かった。なんといっても、ビールとSFである。俺のためにあるような映画。

小さな田舎町の悪ガキ5人組が高校卒業の夜に挑戦したゴールデンマイル。町中のバー、12軒を1軒で1杯ずつ巡り、最初のバー「ファースト・ポスト」から、最後のバー「ワールズ・エンド」へ至る至高の旅路。しかし、酔っ払い過ぎて、暴れすぎて、あえなく失敗。

数十年後、中年になった5人は故郷へ戻り、再びゴールデンマイルへチャレンジする。それぞれにオトナになった物語を抱えて。

途中までは、あれ、騙されたかと思うような展開だったが、変わってしまった故郷の人々とチェーン店化されたバーへの失望とともにトイレに向かったとき、5人をぶっ飛びな展開が待ち受ける。

まぁ、映画のトレーラーとか見ればすぐにわかるのでネタバレしちゃっているのだけれど、これは本格的に騙されたかと思い始めていたので、そのシーンでの高揚感はすごかった。やっぱり、そういう映画だったじゃないか(笑)

でもこれ、何も知らないで見たら本当にひっくり返っちゃうんじゃないか。いや、逆に、何も知らないで見るべきだった。でも、何も知らせないと見に行くこともないから、どこまで宣伝に乗せるかは難しいところ。

とにかく、いろんなところがツボにはまった。“侵略”の真相を知っている唯一の人間のキャラ付けも、主人公の名前がキングであることを使った「人間のキング」という呼びかけも、元いじめられっ子が放つ拳も、デブキャラが放つきれいなエルボードロップも、すべてが素晴らしい。

田舎町の閉塞性、閉鎖性、そして、そこから抜け出した「自由になるんだ!」という気持ちのまま大人になり切れない男の悲哀が、「俺には飲むことしかできないんだ!」という叫びとともに、地球がどうなろうとゴールデンマイルを文字通り走り続ける格好よさに変わったとき、観客はゲラゲラ笑い続ける。

物語ちょしては地球の危機というシリアスなネタでありながら、基本がコメディなので、劇場でもあちらこちらで何度も笑い声が。ビールの味を語る繰り返しネタや、「使用禁止」の看板などの小道具の使い方がことごとくツボ。

“侵略者”の造形がソフビ人形的な関節から青塗料がダラダラ流したり、明らかに口にLED電球含んだりといったチープさなのだが、それがまったく面白さの障害にはなっていない。やっぱり、何億ドルも金をかけなくても、奇想天外なアイディアとよく練られた脚本があれば、面白いものは面白い。

あきらかにそれ人形だよねという突込みを逆手に取った展開(その脚を離せ!)などもあり、隅から隅まで、やたらと楽しい。本当にツボが分かっている人が練りに練った脚本だと思う。

キャッチフレーズは「5人の酔っ払いが世界を救う」だけれども、これって救ったんだっけという捻くれた結末もいい。なんだそりゃ!


蛇足:
渋谷だと、夜の回でビールを片手にという人が多かったとか。立川での上映は昼間に一回だけという謎設定だったよ。レンタルで出たら、家でビール(いや、エールか!)片手に見るか。それも、12本用意しよう(笑)