『白熱光』 グレッグ・イーガン (新☆ハヤカワSFシリーズ)
長かった。読みにくいというわけではないのだけれど、何が起こっているのかを視覚的に想像するのが難しすぎ。
解説では奇数章と偶数章という呼び方をしているが、二つのストーリーが並行して語られる形式。奇数章は遠い未来の仮想と現実の区別が無くなり、人類が電子データとして銀河中を旅する時代の物語。一方の偶数章は、場所も時代もわからない6本肢の異星人が物理学を(再)発見していく物語。
この偶数章が難敵。異星人たちはどうやら小惑星をくりぬいた空間か、人工衛星コロニーのような場所で暮らしているらしいのだが、詳しい設定や用語の説明がなされるままに進んでいくために、何がどうなっているのかを理解するまでに、何度も読み直さなければならなかった。
そして、そこで発見されていく物理法則は確かにワクワクするものなのだけれど、その説明が異星人の視点から見た説明なので、これまたわかりずらい。実際に、異星人たちが言っていることが全部わかったわけではなく、これは遠心力のことを言っているんだろうとか、これはコリオリ力なんだろうとか、あたりを付けてから補完していくような作業になってしまった。これを物理学の知識が無い人がすらすら読めるとは思えないんだけど。
特に、方角やヌル線が何を指すものかを理解するまでに結構な時間がかかった。最終的には理解できたつもりなのだけれど、風向きがどうなっているとか、無風地帯がどうこうとか、わかりやすい図が無いと厳しい。ネット上にも解説ページがちらほら出始めているので、それらを見ながら読み直した方がいいかも。
で、やっぱり著者が言う「4つの勘違い」に触れざるを得ない。個人的には、1はOK。2と3は解説の通りの指摘なのであればOK。なので、勘違いせずに読めたようだ。しかし、問題は4。
それって、あえてそう言わなければ、何かが判明しているとは言えないレベルなんじゃないのかなぁと思っているんだけれど、どうだろう。異星人たちの習性と孤高世界の習性から考えればそうなっているのは必然と言うことなんですかね。その辺はいろいろ想像できるのだけれど、あえて確定した書き方がされているのかどうかは見つけられなかった。
しかし、そこにあまりこだわるのは読み方としておかしいのか。どちらかというと、謎解きよりも、“発見”のおもしろさを描いた作品なのだろう。人類が生まれた地球という惑星とはまったく違う環境で生まれた異星人たちは、どのように物理学を発見していくのか。その過程が違っても、最終的にたどりつく真理の美しさ。
この小説を読んで物理学者を目指す若者が出てきてもいい。とはいえ、ある程度、物理学に興味を持って勉強していないと、何が起こっているのか、何を“発見”したのかはわからないかもしれない。