神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] SFマガジン 2015年10月号

2015-10-10 16:26:36 | SF

『S-Fマガジン 2015年10月号』

 

隔月発行なのですっかり忘れていたSFマガジン。1ヶ月遅れで書店に行ったら平積みだったので一安心。その今号は伊藤計劃特集。

伊藤計劃はぜんぜん新しくなくって、あれはクラシックで王道だと言い続けているつもりだけど、いまだに“伊藤計劃以後”、“ポスト伊藤計劃”なんてことが言われ続けている。実に6年だよ、6年。

それはさておき、今月号の座談会を読んで、“伊藤計劃以後”と呼ばれるものが何なのかわかってきた気がする。それはSFのスタイルではなく、テーマにあるわけだ。

“伊藤計劃以後”を代表する作家として新鋭の(とはいえ、伊藤計劃と同世代の)藤井太洋に加え、仁木 稔と長谷敏司の二人が座談会に参加している。この二人は伊藤計劃よりも前にデビューしているわけで、“伊藤計劃以後”と名付けるにはかなりの違和感がある。

しかし、彼らは伊藤計劃と同世代として同時代を生きることによって、技術によるヒトの変革という同様なテーマを同様に描こうとしてきた。

ヒトの変革自体はSFの古典的テーマでもあるが、2000年代の日本において、社会をまさに変革したケータイ文化に代表される技術が、ヒトそのものへも変革を迫るという世相を反映した新しいテーマとして浮かびあがってきたのではないか。

それまでとは質的にも量的にも異なった、いわゆる普遍的にパーソナルなものとしての技術革新がSFの世界に“伊藤計劃以後”を作り出したのではないか。

“それ”は、伊藤計劃の死がなければ、おそらく別な名前で呼ばれていたであろうものであるけれども、どう呼ばれようが、新たなトレンドとしてくくられるべきものがあったのは確かだと思う。

で、その死を、良くも悪くも商業的に利用したのがハヤカワの“伊藤計劃以後”というキャッチフレーズであり、これが思いのほか成功して、若い人々の中に“伊藤計劃チルドレン”とでも呼ぶべき世代が生まれてきたというのも凄い話だ。

それでもやっぱり、このへんのムーブメントを“伊藤計劃以後”と呼ぶのは、納得し難いのだよね。伊藤計劃以外の業績を軽んじているようで……。

 

ところで、隔月刊行になったせいか、今号の小説は連載も読みきりも、胸焼けしそうなほどに濃厚でボリュームも大きかった。特に「アノニマス」は堪能したけれども、やっぱり隔月で連載っていうのは前回の出来事をすっかり忘れてしまうな。

 


「無能人間は涙を見せない」 上遠野浩平
元祖中二病小説。これって、不定期連載じゃなくて読みきりなのか?

「彼女の時間」 早瀬耕
夢オチかと思わせて……夢オチとか、時間の進みが出てくるので光速かと思わせて軌道上とか、いろいろ裏切られた気がするけど、気持ちよく読めた。

「イシン―維新―」 マデリン・アシュビー/幹 遙子訳
ドローンSFであり、バディもの。年配のオヤジと少年のコンビがスーツを通じて感覚を共有するとか、あっちの方面で受けそうな。上上下下コマンドはやり
すぎ。

「苺ヶ丘」 R・A・ラファティ/伊藤典夫訳
これ、著者名を隠して当てろといわれたら、絶対にラファティの名前は出ないと思う。えーっと、キング?

「罪のごとく白く、今」 タニス・リー/市田 泉訳
読みながら、これってシンデレラなのか白雪姫なのかと迷ったけれど、それらいろいろ全部なのか。最後に時系列のつながりを間違って理解していたことがわかって、ありゃりゃりゃ。

 


[SF] 孤児たちの軍隊4 ―人類連盟の誕生―

2015-10-10 16:16:07 | SF

『孤児たちの軍隊4 ―人類連盟の誕生―』 ロバート・ブートナー (ハヤカワ文庫 SF)

 

続編を最初から想定していたのならともかく、前作が人気だから続きを書いたというのは総じてクソが多いという印象。

このシリーズもご多分に漏れず、尻つぼみ。どう考えても、2巻と3巻が繋がっていないし、妙な方針変更があったような感じ。

単発モノ⇒三部作⇒3巻を引き伸ばしてさらに3部作追加、という変遷でもあったのだろうか。

もう読むの止めようかと思ったけれど、次が完結偏とのことなので、仕方がないので最後まで付き合うことにする。

今回の4巻は燃え成分も泣かせ成分も入っているくせに、読んでいてもなんとなく惰性っぽかった。飽きてきたとかの問題よりも、文体が淡々とし過ぎていて、最初の頃のクスクス笑えるユーモア成分がどこかへ行ってしまったのが原因か。

このシリーズの根底にある、政治家は無能、歩兵は有能というコンセプトは健在で、そこに世界情勢(というかアメリカの戦争外交)を揶揄した形で二つの有力同盟惑星(というか植民地)を絡めて語ろうとしてはいるんだろうけれど、なんとなくとってつけたようなイメージは拭いきれない。

主人公が出世しすぎ(今回で中将に昇格)て物語にあわなくなってきてからの方が長いというのがネック(ここから見ても、無理矢理延ばしただろ)なのだろうけれど、徹底して現場(前線の戦場)の話に絞った方が、このシリーズは面白いと思うんだけれどな。