神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] 黄金の盾

2015-01-26 23:59:59 | SF

『黄金の盾 グイン・サーガ外伝26』 円城寺忍 (ハヤカワ文庫JA)

 

『グイン・サーガ・ワールド』内の企画「グイン・サーガ・トリビュート」で見出された円城寺忍のデビュー作。グイン・サーガを書き継ぐ新星の登場だ。

主人公はグインの愛妾、ヴァルーサ。彼女が『七人の魔道師』でグインの前に飛び出してくるまでの“知られざる”経緯が語られる。

いやー、ヴァルーサがクムの踊り子だからって、ガンダルが出てくるとは思ってもみなかった。というか、半分以上はヴァルーサというよりはガンダルの物語。

彼があのような狂気の戦士を演じなければならなかった理由が明らかになり、ガンダルが唯の戦闘マシーンではなく、人間味あふれる男だったという解釈はなかなか感動的。

正直言って、その関係性には気付かなかったと膝を打つと同時に、そんなことは栗本薫は考えていなかっただろうと、サーガの整合性に不安を持ってしまった。

しかし、結局のところ、“例のつじつまあわせ”の結果、グインとヴァルーサはお互いにガンダルを挟んでつながりがあったことを知るすべがなかったという設定には納得させられた。これが、物語自身が持つ力ともいうべきか。

円城寺忍の文章は、これが初の商業出版だとは信じられないくらいにこなれていてとても読みやすかったし、栗本薫の物語として違和感が小さかった。

あとがきを読むと、栗本薫ファンクラブ所属の人なようなので、同人誌経験は豊富なのかもしれない。

格闘シーンの描写に特徴が出ていたので、本人は相当なプロレス好きと見た。世代的に見ても、きっと、高千穂遥とかも好きでしょ(笑)

宵野ゆめとはまた違った印象だけれど、栗本薫の遺伝子をはっきりと伝える新人の登場として期待できる。できれば、円城寺氏には『新・魔界水滸伝』の方も(笑)

 


[SF] 孤児たちの軍隊3 ―銀河最果ての惑星へ―

2015-01-15 23:59:59 | SF

『孤児たちの軍隊 3 ―銀河最果ての惑星へ―』 ロバート・ブートナー (ハヤカワ文庫 SF)

 

《孤児たちの軍隊》シリーズの3作目。今回の舞台は太陽系外のとある惑星。そこではなんと、人類にそっくりな異星人がナメクジに支配され、恐竜が家畜として使役されていた!

2作目のエピローグにまったく繋がらなくて、無理矢理引き伸ばした感が満載。残念ながら、対テロ戦争からインスパイアされたゼロ年代の戦争SFという範疇からは完全にはみ出した凡作レトロSF。

そもそもが行き当たりばったりすぎる成り行き任せのストーリー展開に加え、舞台となる惑星に人類がいる理由は説明されているけれども、恐竜が存在している理由の納得できる説明は無く、ダメさ加減マックス。

いったいどうしちゃったのだろう。著者ブートナーの中の人が変わったのか、化けの皮が剥がれたのかわからないが、これなら読む価値無しでしょ。

一応のテーマとしては、部下に死ねと命じるのが指揮官の仕事であり、軍隊は孤児にとっての家族という前作までのテーマと重ね合わせることにより、家族に死ねと命じなければならない苦しみを描くということなのだろうけど、ストーリーから見るといかにも取って付けたように感じる。

家族と言っても、実際には名付け子であるし、正直異言って、この絆の重さも理解できないんだけど。

最後のどんでん返しに使われているのは、軍隊補給に関するあるあるネタなんだろうけど、あれもこれも突然のご都合主義っぽくて、いまひとつ。

次の4作目で完結らしいので、対テロ戦争時代の戦争SFとして、新たなビジョンを見せてくれることを期待する。

 


[SF] 地球が寂しいその理由

2015-01-06 23:59:59 | SF

『地球が寂しいその理由』 六冬和生 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

 

面白くはあるのだけれど、前作が前作だけに期待が大き過ぎたか。

地球を管理するAIと、月を管理するAIの姉妹喧嘩かと思いきや、人類を未曾有の危機から救うための方式論争エスカレートしていく展開の壮大さにはひれ伏すしかない。

しかし、問題なのは、作中でちらっと言及されながらも未消化なネタが多く、ここが評価の別れ処なのではないかと思う。

具体的にいうと、スティーブは人間じゃないとか、NATの性別は男性とか。

性別が男性の件については、前作の『みずは無間』につなげたかったのか、ないしは、つながっていた名残なのかもしれないけれど、もう少しうまくネタとして使えなかったものか。

また、人間じゃない設定の方も、じゃあそっくりと言われるオパールはどうなんだとか、ルナリアンとか教会方面でうまくネタに組み込めたような気がするので非常に惜しい。

っていうか、他の感想を読んでもそのあたりへの言及が見つからず、俺が読み落としただけ?

思わせぶりな小ネタをかき集めると、実はとんでもない裏設定が隠されているような気がぷんぷんするのだけれど。いや、そうでなければ、ただのネタを持て余してとっ散らかっちゃってる小説にすぎないじゃないか。

で、テーマについては、二人(もしくは二機?)の人類を救う方法論の違いがメインだと思うんだけど、これも派手な姉妹喧嘩や、人工知能の身体性論に引きずられている感想が多くて、どうもよくわからん。

だってさ、一億年先に人類が生き残るためにはどうすればいいかなんて、果てしなくSF的なロマンじゃないか。姉妹喧嘩の根本的な理由がそこに行き着くから、それが地球の寂しい理由だから泣けるんだろ。