『ミカイールの階梯(上下)』 仁木 稔 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)
ちょっと前に読み終えていたのだが、いろいろあって感想アップが遅れた。なんというか、消化不良気味のせいなんだが。
『グアルディア』、『ラ・イストリア』に続く《イストリア・シリーズ》第3作。今度の舞台はソ連の亡霊とイスラムの末裔がしのぎを削る中央アジア。世界を分断する使途の名前はミカイール。
仁木稔の作品はいろんな意味でイタイ。いや、ほんと、痛い。
この作品は、現実の合わせ鏡のフィクションとして、ジェンダー、テロ、貧富格差、全体主義、宗教……。現実に存在する様々な問題をストレートな文体で描写していく。
主人公の一人は半陰陽でBLだし、女性だけが自爆テロの遂行者にしたてられるし、戦闘美少女はプロパガンダに使われる。
赤い髪の少女と金髪の少女が黄金の瞳を持つ少女を賭けて決闘するという極めてラノベ的モチーフのもとで、半陰陽のおとこおんなが、少女が闘うという意味を冷静に語るのだ。
そして、そこには、明確な善悪や正邪の決め付けはない。
ヒーローは悪魔であり、救世主は疫病みの王であり、憎しみは愛情の裏返しで、戦いは理想ではなくエゴのために発生する。
そんな混沌とした世の中で、少女の友情だけが純粋にキラメくわけで、それさえも、「女の友情は男の友情よりも弱い」という通説を踏まえたパロディに見えてくる。
いやはや、なんというか、トンデモなく深いのか、トンデモなく薄っぺらいのか、判断に困る。
同じくJコレ収録の『グアルディア』を読んだときに、2chのSFスレで褒めたら総叩きを食らったのも懐かしい思い出だが、表面上の中二病的痛さの下に、何か深い罠が隠されているようには感じる。それはどちらかというと、地の文よりも、登場人物たちの何気ない会話の中に浮かび上がってくるようなことが多い。
かといって、著者本人のブログを読んでみたら、想定外なネタバレ的記載があって、やっぱり自分が深読みのし過ぎなんじゃないかという不安にも駆られてしまう。
ただひとつ言えることは、あまりにストレートな問題提起に惑わされるなということ。そこには何も無い。ただ、読者の側に共鳴する“何か”があった場合は、グッサリと露骨に抉ってくる何かがある。それが狙いなのか偶然なのかは、相変わらずよくわからないのだけど……。
最後に、一番主人公っぽいはずのセルゲイには、今回明かされなかった謎が露骨に存在する。これも、『グアルディア』に対する『ラ・イストリア』のように、前日譚か後日譚があるのだろうか。世界も12使途で分断されているので、これから先、10個の舞台が用意されているのかも。
ちょっと前に読み終えていたのだが、いろいろあって感想アップが遅れた。なんというか、消化不良気味のせいなんだが。
『グアルディア』、『ラ・イストリア』に続く《イストリア・シリーズ》第3作。今度の舞台はソ連の亡霊とイスラムの末裔がしのぎを削る中央アジア。世界を分断する使途の名前はミカイール。
仁木稔の作品はいろんな意味でイタイ。いや、ほんと、痛い。
この作品は、現実の合わせ鏡のフィクションとして、ジェンダー、テロ、貧富格差、全体主義、宗教……。現実に存在する様々な問題をストレートな文体で描写していく。
主人公の一人は半陰陽でBLだし、女性だけが自爆テロの遂行者にしたてられるし、戦闘美少女はプロパガンダに使われる。
赤い髪の少女と金髪の少女が黄金の瞳を持つ少女を賭けて決闘するという極めてラノベ的モチーフのもとで、半陰陽のおとこおんなが、少女が闘うという意味を冷静に語るのだ。
そして、そこには、明確な善悪や正邪の決め付けはない。
ヒーローは悪魔であり、救世主は疫病みの王であり、憎しみは愛情の裏返しで、戦いは理想ではなくエゴのために発生する。
そんな混沌とした世の中で、少女の友情だけが純粋にキラメくわけで、それさえも、「女の友情は男の友情よりも弱い」という通説を踏まえたパロディに見えてくる。
いやはや、なんというか、トンデモなく深いのか、トンデモなく薄っぺらいのか、判断に困る。
同じくJコレ収録の『グアルディア』を読んだときに、2chのSFスレで褒めたら総叩きを食らったのも懐かしい思い出だが、表面上の中二病的痛さの下に、何か深い罠が隠されているようには感じる。それはどちらかというと、地の文よりも、登場人物たちの何気ない会話の中に浮かび上がってくるようなことが多い。
かといって、著者本人のブログを読んでみたら、想定外なネタバレ的記載があって、やっぱり自分が深読みのし過ぎなんじゃないかという不安にも駆られてしまう。
ただひとつ言えることは、あまりにストレートな問題提起に惑わされるなということ。そこには何も無い。ただ、読者の側に共鳴する“何か”があった場合は、グッサリと露骨に抉ってくる何かがある。それが狙いなのか偶然なのかは、相変わらずよくわからないのだけど……。
最後に、一番主人公っぽいはずのセルゲイには、今回明かされなかった謎が露骨に存在する。これも、『グアルディア』に対する『ラ・イストリア』のように、前日譚か後日譚があるのだろうか。世界も12使途で分断されているので、これから先、10個の舞台が用意されているのかも。