『サムライ・ポテト』 片瀬二郎 (河出書房新社 NOVAコレクション)
著者の片瀬二郎は2001年にENIXエンターティンメントホラー大賞を受賞しながら、10年間沈黙していたという。それが創元SF短編賞で大森望の目に留まり、再デビュー。その後、『NOVA』後半の常連となり、ついに《NOVAコレクション》から単行本発行にいたる。
表題作「サムライ・ポテト」の初出は大森望責任編集の『NOVA』シリーズだが、シリーズ中、1、2を争う傑作だった。夕暮れの電車内で電池切れ警告音が響くラストシーンは、何度読んでも涙を誘う。
この人の作品は、アイディアは目新しくないものの、その料理方法は独特で、当初の読みとは予想も付かない方向に、突然転がり出す処が面白い。しかも、それでいながら、その転がり方は、自分が昔に考えたようなシナリオと比較的重なっていて、まるで他人のような感じがしない。
『SFが読みたい!』でもベスト10にランクインしているくらい好評なので、まさか再び沈黙してしまうことはないと思うのだけれど、今後が気になる作家の一人である。
「サムライ・ポテト」
商店街の店頭で接客するキャラクターロボットが意識を持ってしまったら。それを気付かせてくれたのは児童虐待が疑われる少年の姿だったが、そこから物語は予想外の方向へ。意識とは何かを考えさせられる問題作。
「00:00:01pm」
こちらも『NOVA』初出。よくある時間静止ネタで、主人公が世界に絶望し、そこから復活していく様子が物語の核なのだけれど、その過程で登場する狂女の存在が、ある意味怖すぎる。
「三人の魔女」
これまた良くある仮想現実ネタなのだけれど、途中までの世界を疑う展開から、なぜこの世界が作られたのかが明らかになる結末のアンバランスさがおもしろい。そんな理由で、というのは、必ずしも陳腐な結末を意味するわけではない。
「三津谷くんのマークX」
イスラム国が猛威を振るっている昨今、現実感を増していく物語。誰もが使えるオープンソースとテロの結びつきは藤井太洋も指摘しているとおり。その魔法のような技術の紡ぎ手としての葛藤よりも、相手に一泡吹かせてやりたいという気持ちが前に出ていて痛快だけれど、それでいいのかという気も。
「コメット号漂流記」
これも序盤で仮想現実を疑ったが、スペースコロニーの話。攻撃を受けたスペースコロニーから剥がれ落ちたコンビニでサバイバルする話と思いきや、壮絶な戦闘が始まり、爽やかに見えても世界が終わる予兆で終わる。女子高生の素直な感情が理不尽な世界をぶち壊す様に喝采を送りたい。