いつの間にか日本SF大賞を受賞していた『突変世界』の前日譚が、これまたいつの間にか出ていた。徳間文庫の新刊なんて、チェックしていなかったから仕方がない。
すごい天変地異が起こっているのに、町内会規模でゆるゆるだった『突変世界』とは異なり、こちらはそれなりの緊迫感。とはいえ、最悪だったという久米島移災とはまた別の話。
今回は大阪移災のエピソードがメインとなる。前作との違いは、移災が大規模であり、ある程度の政治的中枢を含む災害だったということだろう。さらに特筆すべきことに、まだ政府が移災に対する備えを固める前でありながら、複数の集団が独自に移災に対する準備を始めていたということ。
当初は無意味な狂人のたわごとだった教義が、偶然に(←ここ重要)移災と重なり、信者を増やした新興宗教集団。警備会社や倉庫管理会社を含む商社グループ。さらには、暴走族がサバイバリストと結びついた世紀末ヒャッハー集団が複数。
このような大規模災害が起こった時に、サバイバル可能な集団は何かという思考実験としては、なかなか面白い。あとは、ゾンビでお馴染みのショッピングセンターとか、大規模工場なんかもサバイバル集団として有望な気がする。少なくとも前作の町内会よりは。
しかし、いろいろなエピソードはあるけれども、やはりどうにも、手ぬるさとうか、ゆるさというか、悲壮感が足りない気がする。
主人公は信仰宗教団体の教祖の娘の警備を依頼された、商社グループの警備員。ひょうひょうとした雰囲気の青年でありながら、格闘技は意外に強くて、予想外のピンチにも安心だ。
銃器の撃ち合いでひとがバタバタ死んでいるというのに現実感が無く、馬鹿馬鹿しさと苛立ちの方が先に来る。わずかな出番しかないチェンジリングの方が、はるかに悍ましい。これはわざとやっているのだろうか、それとも著者の性格的な限界なのか。
舞台となった関西系のノリも影響しているのかもしれない。なんとなく関西弁だと笑わなければいけない強迫観念が出てくる。関西でこんな話をやってはいけないということか(偏見)。
それよりも気になったのが、移災の原因への言及。ちょっと量子力学に喧嘩を売っているのではないかというレベルの仮説なので、それは無いんじゃないかと思った。
移災の原因解明や、それに対する対策などは、時間軸的には前日譚となるこちらの作品の方が進んでいるので、その対策の結果というか、落としどころは気になる。そういった意味ではシリーズ化して欲しいのだけれど、ディザスター小説としてはもっと切迫した危機感と悲壮感が欲しい。
こういうのこそ、シェアワールド化したらいいんじゃないかな。設定も単純だし、「憑依都市」みたいな揉め事も少ない気がする。