サッカー狂映画監督 中村和彦のブログ

電動車椅子サッカーのドキュメンタリー映画「蹴る」が6年半の撮影期間を経て完成。現在、全国で公開中。

“聞こえない映画監督”のドキュメンタリー映画『Start Line』

2016年10月16日 | 手話・聴覚障害

先日、“聞こえない映画監督” 今村彩子さんのドキュメンタリー映画『Start Line』を観てきた。
ブログに書き込もうと思っているうちに随分時間がたってしまった。

どんな映画かというと以下(チラシからの抜粋)のような映画だ。

 “聞こえない映画監督”今村彩子は2015年夏、自転車で日本縦断の旅に出る。
 荒天、失敗にすぐ失敗、“聞こえる人”とのコミュニケーションの壁に、ヘコみ、涙し、それでもひたすら最北端の地に向けて走り続ける。そんな彼女 の姿を追うのは、伴走者にしてカメラ撮影を担う“哲さん”。
「コミニュケーションを、あなた自身が切っている」
 相手を思うがゆえの容赦のない言葉に、一触即発の危機が訪れる…。
 そして、聴力を失ったサイクリスト、ウィルとの奇跡的な出会い。
 はたして彼女はどんな答えを見つけるのか?人生の旅そのものの3,824km。
 ニッポンのためらう人に観てほしい、一遍の勇気のおすそわけです。 


 なかなか面白かった。今村さんの作品は結構観ているが、この作品は初めて“一般の聞こえる人”にも薦められる作品なのかという気がする。過去の作品は“聞こえない人”向けだったり、“聞こえない人に関心がある聴者(聞こえる人)”の教材映像という感じだった。
 この映画はコミュニケーションがテーマとして企画されたようだが、映画の前半、“主演女優”でもある監督は聴者とうまくコミュニケーションがうまくとれず、半ばコミュニケーションを放棄したような状況になる。
 聞こえない聞こえにくい人は聴者の口形を読み取ることが出来るなどとまことしやかに語られることがあるが、実際には慣れない人の口形を読み取ることはとても疲れることであり、すべてを理解することなど至難の技だ。映画ではそのあたりのことが痛いほど伝わってくる。それだけでも一見の価値がある。
 監督はそんな困難からまるで逃げるかのように、ろう者の友人を訪ね活き活きと手話で会話する。その対比もとても興味深い。

 前半は今村監督が自暴自棄のような行動で監督を放棄し、まるで“哲さん”が監督のようにも見えたりすることもあるが、撮影の前にかなりのディスカッションをしたのだろう。というか監督が熱く語ったのだろう。“哲さん”のなかに「あなたはこれこれこういう映画を作りたいと言っていたじゃないか」みたいなことがベースにあってのやりとりとなっている。
また彼女の行動は計算なのか?とも一瞬思うが、まったくそんなことはないのだろう。
 
 今村監督は旅が終わった後、当初思い描いていたようなことにはならず随分へこんだようだが、弱い自分と向き合い編集作業を進めた。その結果、まさに等身大のろう者のむき出しの『とても素敵なドキュメンタリー』に仕上がっている。

またこの映画の音に関しては聴者スタッフが何名か関わっているようだ。このあたりも映画の強度を高めている。

東京での上映は終わったが今後各地での上映が予定されているようだ。観て損はないと思う。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿