サッカー狂映画監督 中村和彦のブログ

電動車椅子サッカーのドキュメンタリー映画「蹴る」が6年半の撮影期間を経て完成。現在、全国で公開中。

DEAF PEAPLE『ろう者の識字率を上げるために、あなたに出来ること』について

2012年11月14日 | 手話・聴覚障害

DEAF PEAPLE というサイトがあります。
聞こえない人のことがわかりやすく書かれている、本当にいいサイトです。
私自身も、そのサイトを見つけて以来、ずっと読んでいます。

本日、『ろう者の識字率を上げるために、あなたに出来ること』というタイトルで
新たにアップされていました。

http://deafathlete.blogspot.jp/

しかしこれは、知らない人に相当な誤解を与えるのではないかと思い、
あわてて書いています。

是非、ブログを読んでほしいのですが、
「なぜ、ろう者の識字率が低いのか?」
書き手の方は2つの原因をあげられています。
1 聞こえる人に比べて、圧倒的に情報量が少ない
2 (原文を引用)2つ目の原因は手話です。ろう者が使っている手話のなかに文法というものが存在していないからです。手話はジェスチャーに近い、ボディランゲージのようなもので、彼らにとっては、ごく当たり前で、自然なことです。文法というものを身に付けていないだけだと考えられます。

(注・その後、批判的な意見が多数寄せられたようで、かなりの部分を削除し、書き直してあります。2つ目目の原因の部分もすべて削除されています)


次に、私が考える「ろう者が日本語の読み書きが苦手な理由」を書きます。
一言で言えば、
日本手話を母語としている人にとって、日本語の読み書きは別の言語を読み書きすることになり、困難がともなう。
ということです。
もう一点付け加えるとすれば、ろう教育の弊害です。
過去、聾学校では、手話が禁止され、日本語の発音指導が延々と繰り返されてきました。
日本語の読み書きを習得するという点に力点がおかれた教育ではなかったということです。


補足説明します。
○識字について
まず識字とは私の解釈では、ある音声言語を母語(第一言語)としている人が、その言語の読み書きも出来るということです。
要するに、日本語をしゃべる人が、日本語の読み書きが出来る。韓国語をしゃべる人が、韓国語の読み書きもできる。
とまあそういうことです。
ですから、日本手話を母語にしている人にとって、日本語の読み書きは別の言語の読み書きにあたるわけで、識字という言葉は適当ではないと思われます。
しかし、書き手は確信的にその言葉を使われているようで、そのことは後述します。

○日本手話について
日本手話とは、とある文法体系を持った日本語とは別の言語です。
ジェスチャーやボディランゲージとは根本的に違います。
もちろん、そういった要素も含んではいます。
また、手話は国や地域によって異なります。


次に母語、第一言語、自然言語について書きます。
自然言語とは、特に苦労することもなく、自然に身につける言語のことです。
聞こえる日本人が、日本で育てば、自然の日本語(話し言葉)を覚え、それがその人にとっての母語、第一言語になります。
聞こえない、聞こえにくい人にとっての自然言語は手話でしかあり得ません。
聞こえない、聞こえにくい人が日本手話の環境で育てば、日本手話が母語となり、第一言語となります。
母語、第一言語は一つとは限りません。日本語と韓国語というバイリンガルもあります。
またコーダ(デフを親に持つ聞こえる人)の場合、手話と音声言語双方を身につけるバイリンガルの例もあります。

ところが、聞こえない、聞こえにくい人の中には、最初に日本語を覚えた人が多いのです。
その際、自然に身につけることができないので、かなりの訓練を要します。
つまり、自然言語ではない言語を第一言語としたわけです。
そういった困難、大変さがともないます。
おそらくサイトの書き手の方もこちらの例なのではないかと思われます。
ですから、識字という言葉を使われたのかもしれません。
また、最初に日本語を覚えた人の中にはかなりしゃべれる人もいます。
かなりしゃべれるというのは、健聴者にもわかりやすい発音でしゃべれるという意味です。
但し、しゃべるからといって聞こえるわけではありません。


つまり、聞こえない、聞こえにくい人は文章が苦手という時、
日本手話が母語の人と、日本語が母語の人と分けて考えなくてはならないと思います。

日本手話が母語の人にとって、日本語の読み書きは別の言語の読み書きです。
当然習得するのは大変です。
どんなに字幕が増えようが、読めない、あるいは読むのが苦手な人もいます。
もちろん日本手話が母語の人の中にも、流暢に読み書きできる人はいます。

日本語が母語である人にとっても、耳からの情報が限られているため、読み書き(書記日本語)が苦手な人も多いです。
前述しましたが、サイトの書き手の方もこの例なのだと思います。
彼女は努力を重ねて、かなりの文章を書けるようになった。
だから是非、同じような立場の人にも努力してそうなってほしい。
ある種のもどかしさから、おそらく批判なども覚悟のうえで書かれたのでしょう。
日本語が母語である人に向けては、ある種の説得力があるとは思うのですが、
誤解をあたえてしまう、あるいは書き手自身が誤解しているのではないかと思う点もあり、書き連ねました。
ただ、聞こえない、聞こえにくい人にとって、日本語の読み書きを苦にしなければ、現在の日本社会において職業などの選択の幅が広がることは確かです。
現代の聾教育のおいても、書き言葉(書記日本語)の習得がもっとも大きなテーマの一つになっています。
ただその習得方法には様々な議論があります。

この文章を読み進めて、余計わからなくなった人もいらっしゃるかもしれません。
具体的なことを少し書いておきます。
ろう者が文章が苦手という時、何が苦手なのかいうと、一例をあげると、助詞の使い方です。
日本手話と日本語は文法が違いますから、日本語の助詞に戸惑い、うまく使えないことが多いのです。
その際、耳からの情報が少ないため、間違いをなかなか訂正できません。
聞こえる人であれば、助詞の使い方に迷った時に、ぶつぶつとつぶやいてみて、音としてしっくり来る助詞を選ぶことも出来ますが、聞こえない、聞こえにくい人にとっては難しい点です。
それから漢字の音読み、訓読みです。
漢字は表意文字なので、むしろ、ろう者の子供の方が関心を示すということもあるようですが、音読み、訓読みの使い分けは、耳からの情報が少ない分、とても苦労するようです。

本当はもう少し推敲してアップした方がよかったかもしれません。
あわてて書いて、不備な点もあるかと思います。
またサイトの書き手の方には失礼な書き方になった点もあるかもしれません。
是非、ご指摘ください。

聞こえない、聞こえにくい人々のことが、まだまだ正しく伝わっていないのではないか、
日々、そう感じています。
誤解が誤解を招く、そいういったことも多いように感じます。
もちろん私自身も知らないことも多いのですが、わかり得る範囲内で発信していきたいと考えています。
 


 

 


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
もっと簡潔に (もも)
2015-08-03 06:18:47
はじめまして。
聴覚障害について説明する際、もっと短く簡潔にした方が、社会の人に読んでもらえるのではないでしょうか?正確さを優先すると、ついてこれる人が限定されてしまいます。
ろう、難聴者、中途難聴者&中途失聴者のコミュニケーション方法の違いや日本語の読み書きの使用率などの一覧もオープンにすべきと思います。でないと、理解が得られません。
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Re:もっと簡潔に (kazuhiko-nakamura)
2015-08-06 23:27:51
書き込みありがとうございます。
ご指摘のとおり、正確を期すあまり、長くて難しい文章になっている面は否めませんね。
簡潔に書くことはは必要ですが、なかなか難しいことも事実です。聴覚障害はとてもわかりにくいので、簡潔に言ってしまうと誤解する人がたくさんいますし。
なかなか難しい問題です。
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Unknown (くらげ)
2016-03-10 19:36:57
こんばんは。
(けいざい心話)ろう者の祈り:2 「日本語」の悲劇、見たくない
の冒頭のみを見て検索したところ、こちらの記事を見つけました。
手話が母語であって日本語が母語ではない人がいるということ、だから読み書きを学ぶのは外国語を学ぶようなもの、言われてみれば「そっか」と思うけど知ってビックリの世界です。
検索した中で、ろう者のコミュニケーションの問題についての資料も見ましたが、それが85年に書かれたものだったので更にビックリしました。
このような現実が世間一般に広まればなあと思います。
耳が聞こえなくても日本語力は違わないだろう年相応だろうと思っている健聴者がほとんどでしょうから。
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Re:Unknown (kazuhiko-nakamura)
2016-04-14 01:23:19
ずいぶん時間がたってしまいましたが、書き込みありがとうございます。
聞こえない、聞こえにくい人たちの世界は、なかなか理解されていないというか誤解されていることが多いです。
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