日々雑感

心に浮かんだこと何でも書いていく。

徳寿宮のペテン師

2008年03月24日 | Weblog
彼は赤と白のポロシャツをきていた。靴は白いエナメルの革靴である。頭はMの字にはげ上がっている。
歳の頃は40歳位か。顔には不敵な笑いを浮かべている。見るからに、いけすかん奴だ。

 その時僕は、徳寿宮の入口の門の前に立って、英文で書かれた看板を読むのに、夢中になっていた。彼がここへ来たのが、全く気がつかなかった。だから彼の姿を見たときは、ハット身をかわした。どこからか、やってきたというよりは、足元の地中から俄かに湧き出でてきたと、いう感じだった。

 彼は愛想を笑いをしながら、私に近づいてくるなり
「観光ですか」と聞いてきた。
「ええ、そうです。」 日本人と韓国人は顔かたちがよく似ているが、それでも彼が韓国人であることは、彼が持つ雰囲気でわかる。
「今どちらに住んでますが」
「大阪です。」
「それはにぎやかなところですね。今年の年末には、私も日本へいかなければならないのですが、韓国では50万ウオンしか、払い出し出来ません。旅行者のあなたに頼むのは、気の引ける話だが、円とウオン交換してくれませんか。
えーっと。今はレートはいかがですか、損はさせませんよ。」
「 私は旅行者だから、円の現金は持っていません」
「それでもお金がいるでしょう。この国ではウオンしか使えないじゃないですか」
「それはそうですね。だからウォン少し待ってますが、円は持っていません」
「韓国では貨幣の価値が1桁違いますよ。ウオンなどは、すぐなくなるから円の両替をしておいた方がいいですよ」
「そうですね。必要なときには替えます」
どこまでもしつこい。

「ところでドルは持ってますが。」
「ええ少しだけ」
「今レートはいくらですが」
「さあ替えてないからわかりませんが」
「円でだめならドルに替えてくれませんか」
「両替するほどのドルは持ち合わせていません」
「あなたに損は決してさせません。今多分1ドルは124円です。1ドル140円でいかがですか。これだったらあなたは絶対に損をしないでしょう。私の友人がすぐそこの銀行に勤めています。彼にいえば便宜を図ってくれますよ」

言葉は丁寧だが、中身には強迫的な言葉が増えてきた。
僕は先ほどから、どうしてこいつから逃げるか、そればかりを考えていた。最悪は少しぐらい両替しなくてはいけないかなと思ったが、理不尽なことだから、彼の要求を受け入れることはないと頑張った。
第一見知らぬ旅行者に両替頼むなんて常識で考えると、そこには何らかの、わながしかけてあるはずである。彼は自分の仕掛けたわなに私を押しかけようと、あっちから、こちらから攻めてくる。私は彼の話を聞くふりをして、どうやってこの場から逃げるか。そればかり考えていた。

 彼の表情から、薄暗笑いが消えたとき、もうこれ以上彼と話しているときっと暴力的になると思ったので、とっさの判断ではあったが、9時に友達と門の前で待ち合わせっているからというなり、一目散に徳寿宮に向かって早足で歩き出した。
後ろを振り返らなかったから、彼がどんな顔をしていたかはわからないが、多分鴨をのがした悔しさは、満面に出ていたであろう。

生まれて初めての海外旅行である。西も東もわからないソウルである。日本語を話すとしても、相手は外国人である。韓国人である。喧嘩すれば不利なことおびただしい。無傷で逃げることが最上である。僕は顔でこそ、彼の相手になっていたが、心は全然別なところにあった。

 別に彼から逃げなくても堂々と、彼を煙に幕だけの力があればいや自信があれば、彼をからかってやればいいのだが、なにせ生まれて初めての経験で、とてもそんな余裕はなかった。
日本を一歩出ると、海外は少しも油断のならないところだ、と心にしみた。