日々雑感

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ポルノ映画5-44

2019年07月23日 | Weblog
            ポルノ映画
 

ポルノ映画専門の映画館に入った。見に行ったというよりは、冷房のよくきいたところで、暇つぶしをした、といった方がぴったりだ。こんなこと、生まれて初めてである。
 ポルノ映画というのは、どういう種類の物かよくわからないが、何とか想像はできる。男と女の関係を扇情的に、刺激的に、直接的に表現した安物の映画のことだろう。全く関心がないといったら嘘になるが、はじめからストーリーがわかるような気がして、のっけからばかばかしいという思いが先にたった。
 顔見知りに会わないように、あたりをきょろきょろ見渡して、こそこそっと足早に中に入った。場内は100席もあろうか、それでもパラパラ2、30人はいた。
 予想以上のあまりにも低級なストーリーにすぐ飽きた。映画の画面より入り口のポスターのほうが、よほど迫力がある。
 
 退屈した僕は、画面を見るより客の表情を見ている方が面白かった。
客席の年齢層は50歳から80歳くらいまでか。居眠りしているセールスマン風の人を、ちらほら見かけるが、きっとさぼっているんだろう。暇つぶしか、居眠りをして睡眠をとっているのだろう。そういへば、さっきから鼾をかいている人が、何人かいるが、彼らにとってここは、700円の休憩所なんだ。僕と同じように映画を見る為の映画館ではないのだ

 折角入場料をはらって入ったのだから、見なくちゃと、損得計算をして、再び画面に目をやったが、すぐ飽きが来た。何しろ60分の上映時間に3回も大あくびが出たのだ。
何故刺激を受けないのだろう。何故興奮がないのだろう。何故眠りかけている欲情をかき立てないのか、結構直接的な場面もあるのだが、何も感じない。
 まるで気が抜けた馬鹿みたいな話である。
 
 きょろきょろしていると、前列3列目の白髪の老人だけが、しっかり見ているのを発見した。彼は僕の注目を引いた。つえが左手にしっかりと握られている。右手は指が内側へ巻き込んでいる。きっと軽い脳梗塞でもおこしたのだろう。彼は右手と右足が不自由の身なんだろう。この人は今、病と戦っているのだ。いやこんな体で僕よりも、もっともっと枯れているはずなのに、こんな映画を見に来ているというのは、何か訳があるのだろうか。
 僕はその訳が知りたくなっていろいろ思案してみた。
しかし何の答えも見いだせなかった。そしてそんなことは、もうどうでもよかった。
 

 彼は今2つの敵と戦っているのだ。病の身ながら、攻め寄せてくる老いと、真剣に戦っているのである。こういう思いに、いたったとき、僕にはこの人の姿が美しく見えた。
 700円で僕は他人の人生の1断面を見せてもらった。それは若い男女の絡み合う姿よりは、余程僕の関心を引いた。
 また迫力があったし、生きることの1つの、生なましい場面を見せてもらって、考えさせられた。絡み合う姿と、人生のたそがれ時の人間の姿と、その対比は宇宙の陰陽の画面みたいだった。