日本は今回の韓国との打ち合わせを説明会だと主張した
事の次元は完全にすれ違っている。この話し合いはどこまで行っても一致点を見いだせない。不毛の会議だ。このことは韓国に来る前から伝えてある。
何を目的にやってきたのだろう。
この会議からどんな意見が飛び出すかみものである。
オールドブラック・ジョー
若き日早や夢と過ぎ 我が友 みな世をさりて あの世に楽しく眠る かすかに我を呼ぶ オールドブラックジョー 我も行かん 早や老いたれば かすかに我を呼ぶ オールドブラックジョー ・諸園凉子訳詞
これは黒人の魂の歌で我々になじみのある歌である。この歌の中には 奴隷として虐げられた黒人の魂のあこがれがうたい込まれている。
奴隷生活の現実は言葉で表せない厳しいものであり、その現実から逃れようとする魂の叫びである。 全世界の人々の人権を守ると自負しているアメリカにおいてさえ、過去にはこのような厳しい現実が存在した。
人間を人間として扱わない白人の黒人に対する言いようのない差別、主にアメリカ南部を覆った差別の歴史をこの国は持っている。この苦しい現実を乗り越えて黒人は人権獲得に多くの血を流した。
現実にはまだまだ差別は存在するが、キング牧師らの努力の甲斐もあって法律的な差別は過去のものとなって、今は建前は差別の壁が無くなっている。
いきとしいけるものが皆平等の基盤に立って生活できることは良いことだ。生きていくだけでも大変なことだのに、いわれの無い差別によってさらに大きな荷物を背負わされるなんてとんでもない話だ。
そうでなくても人生には多くの苦がつきまとうのだから。
生きる事に失望し落胆した人々はこの世を早く去ってあの世に楽しく眠る人々に対し、憧れを抱くようになる。いやこれは奴隷になった黒人ばかりではない。
白黒人種に関係無く,生きることの苦しみから逃れたいと願うようになる。
彼女もそんな心境で日々の生活を送っていたのだろうか。 彼女は小柄で、ぽっちゃりした体型をしていた。顔はお多福の面を想像させた。
いつも物静かで余りしゃべらなかった。口数は少なくおとなしい感じの娘だった。 彼女は私が受け持ったクラスの生徒だった。
本人から直接聞いたわけではなかったが、友人の話によると,実母は早く死んで後妻つまり義理の母と一緒に暮していたが、この人が何かと難しい人で押し入れに入って何度泣いたかしれないということだった。
親しい友人にはそんな苦しい胸のうちをもらしていたらしい。僕の耳にもそれとなく伝わってきた。 可愛そうに、何時もそうは思ったが、だからといって特別なことは何もしたあげられなかった。
彼女は不幸を背負いつつも、何の問題も起こさない極く普通の生徒だった。 たった今彼女の死を友人からきかされたが、僕の感覚では十七八の若い身空で死ぬなんて不自然きわまりないもので実感がわかずぴんとこなかった。
しかし級友は黒のワンピースを着ているし、今から彼女の告別式に行くという。僕はあわてて家にとって帰し、式服に黒のネクタイを締め彼女の家へと急いだ。 もちろん告別式には間に合わなかった。
彼女はすでにお骨になって白木の位牌とともに自宅に戻っていた。彼女の自宅は線路沿いの安アパートいわゆる文化住宅である。細い道を尋ね尋ねて自宅へたどり着いたが、そのときはもう皆帰った後で、寂しさが部屋一杯に充満していた。
玄関のとをノックすると、酒で顔を真っ赤にした年輩の男性が面倒くさいそうな表情をして出てきた。 僕は自分がクラスの担任であること、彼女の急な死をしってとりあえず駆けつけてきたこと、出来ればを線香をあげさせてもらいたいと言った。
初めて会うのだが、この男は彼女の父親であった。めんどくさいそうな顔をしながらそれじゃ上がれと言う。
詳しいことは知らないがこの人は運転手をしていて先妻つまり彼女の母親とは死別した後に後妻をもらって、生活していた。
彼女はこのなさぬ仲の中で気を使いながら今まで生きてきて、持病の喘息であっけなくこの世を去ったのだ。 小さなちゃぶ台に白い布がかけられて、その上に高さ十センチくらいの小さな箱に彼女は納まっていた。
僕はお経を唱えながら、同時進行で彼女に会話を試みた。
「君は今この世の苦しみを抜け出して平安の世界へと移っていった。もう普通の人間が持つ肉体は失っている。
ひょっとしたら君を生んだ母さんが早くこちらの世界においてと招いたのか。それとも、もう君はこの世がいやになったのか。苦しみの多いこの世で生きる気力を失って心の底では死を待っていたのか。 寿命まで生きて死んだのとは訳が違う。
君は今から人生の花が開く夢多い青春のまっただ中にいたではないか。それがどうしてこういうことになったのか。何か答えてくれ。僕は悲しいよ。
教室や授業では個人的には話したことはなかったね。君のことは君の友人から少しはきいていたけれど、深くは知らなかった。だって君、喘息で学校を休んだことがあったかなぁ。
僕の記憶では君にそんな持病があるなんて全く無いのだよ。もし命に関わる重大な病気を持っているということならば、それは必ず保健か養護の先生から連絡があり、申し送り事項としてどこかに記載されているはずだ。
そういう記憶が僕にはない所を見ると、学校を卒業してからこの喘息の発作が出たと言うことなんだろうか。
あっ。そうだ。もう君はこの世にいないんだ。寂しいな。君は誰にも打ち明けられない苦しみを一人で背負っていたんだ。せめて僕にでも少し位話したら荷は軽かったかもしれないのだが。
もうこの世とでは連絡は取れないから、会話は無理かもしれないが、なんとか気持ちだけでも伝えたいものだね。
僕は若い人相手の商売だが今まで17や18で人が死ぬなんて想像だにしなかった。いや出来なかった。
真実僕は驚いているんだよ。だがこうして君の死という厳守な事実にぶち当たると腹の底までこたえるよ。
十八歳で死んだ君とオールドブラックジョウとは同列に使えないにも関わらず僕にはオールドブラックジョウの歌声が響いてくる。
オールドブラックジョーは君の母さんだったんだ。君よ、母さんとあの世で楽しく眠り給え。」 ほらほらまた聞こえてくる。 かすかに我を呼ぶオールドブラックジョー。