「様子に変わったところでもあった」
「いや、特には」
あやは高志の視線の先を追った。
「なら何か気になることでもあった」
「僕の前では何も」
言ってから高志は少し考えてからあやを見た。
「漁協事務所から戻った時にちょっと気分が悪かったのではと」
「顔色でも悪かった」
「いや、そうではないけれど、なんとなく、それで具合でも悪くなったかと思って尋ねたのだけ
れど直ぐに否定された」
あやは台所から離れて、高志の顔を探るように見た。
「何か気付いたのね。まだ病気は完全には治っていないのに、薬はいくら言ってもちゃんと飲ま
ないし、病院だってもう二回もすっぽかしている。私ちょっと見てくる」
彼女は前掛けを外しかけた。
「僕が見てくる。心配ないと思うけれど、大分翳(かげ)って来たから切り上げるように言ってくるよ」
高志はあやを制して立ち上がった。
外に出ると海原はもう色を失い、黒く沈み始めていた。
陽は遠く水平線の山波を切絵のように浮かび上がらせて、既に没している。
陽が落ちても暫くは残光で、径は見える。
海に開けた入江の山の斜面は、意外に光が留まる。