が解け、皆の気持ちがほっと緩んだ。
「早いけれどこの間に、弁当にしませんか」
千恵が次の楽しみを見つけたと言わんばかりの笑顔を皆に向けた。
「とてもいい提案です。今の内にいただきましょう」
あやも納得顔で応じた。
頭上の陽はほど良く傘をかけられて優しく、風もなく波もない。
皆はそれぞれに船べりに身を乗り出して手を洗い、千恵の取り出す大振りの握り飯を頬張った。
続いて清子が漬物と、厚焼きの卵焼きを取り出す。保温瓶から熱い茶も配られた。
「海の上のピクニックだね」
千恵は皆を満足そうに見廻し、巨岩と緑の屏風の山々に眼を細めた。
「静かで大きくて、何にも言えなくなるわ」
あやは大きく息を吸って、溜息まじりに言った。
それから暫くは皆、釣りのことは忘れたように、おだやかな船の揺れに身をまかせながら、香ば
しい海苔の結びを味わった。
やがて弁当も終わり、片付けも済んだ頃、突然千恵があやに言った。
「あやお姉ちゃん、いつ東京に戻るの」
あやは少こし間を置いてから答えた。
「東京には当分戻らないわ」
「じゃあ、ずっとここに居るの」
「いや、今度は札幌ね、札幌で再出発かな」
「じゃ、私行っていい。私、来春卒業だからそうしたら行きたい。私あや姉ちゃんと同じ服飾の
仕事したい。使って私を」