清子がちよっと妹を睨んでから、手に下げていた風呂敷包みを差し出した。
「ジャガイモと玉葱です」
千恵が先刻の姿勢を崩さず言う。
「ありがとう、重たいのにありがとう」
高志は急いで土間から御用篭を持ってきて包の中身を開けた。
鉄さんは船の上で、エンジンの調子を見ていた。
船上で二人を迎えた彼の顔は、笑顔ながらやはり漁師の厳しさの漂う顔になっている。
姉妹の顔にも、ほんの少こし、緊張感が走る。
「あやはまだか」
鉄さんはちよっと不満そうに高志を見た。
その声が聞こえたかのように、玄関から片手を上げて振りながら、あやが現われた。
「おはよう、今行く」
こちらの声も千恵に負けずに良く透り、入江の渚を渡ってきた。
千恵が両手を上げて、ピョンピョン跳ねて応える。
入江が俄かに華やかに活気付く。
高志は思わず顔を上げて、入江を包む緑の壁を見廻した。
急峻な崖と山肌に隠された入江が、急に海に向かって押し開かれたように思えた。
「高さん、今日は大漁だよね」
千恵が浮き浮きと声をかける。
「お嬢様の腕次第だね」