「で、どうして今は一人なんですか」
再び鉄さんは長い間合いに入った。
しかし、今度の質問は最初のよりも言葉が見つかりにくいようだ。
茶を飲み、飲み終わった後も湯呑を両手で包んで膝の上に置き、見るともない瞳をストーブの鉄
瓶から昇る湯気に泳がせている。
やがてその湯気に、そっと乗せるように言った。
「亡くなったよ。夫婦一緒にこの眼の前の海に呑まれてしまった。子供が10歳の時だ。
わしがころがりこんで4年目だった。
それから6年間はその子と二人暮らしになった。
その子がな・・・・娘だがね・・・・伯母さんを頼って札幌に出て、そこで高校に入って、それ
からずっと一人だ。そうよなあ・・・・あれからもう10年になる」
「そうなんですか」
高志にはその後の言葉が見つからない。
何か言うには鉄さんの20年は途方もなく永いものに思えたが、彼の話しはあまりにも簡単で短
かった。
人生なんて言葉で表わせばそんなものだろう。その短さが彼から言葉を奪った。
いつの間にか今度は彼が、湯気の上で視線を泳がせていた。
そんな彼の口から、また何の考えもなく、ぽろんと言葉がこぼれ落ちた。
「娘さんは今はどうしているのですか。25,6歳に成ると思うのですが、もう結婚しましたか」
「まだたと思う」
「えっ」