伊達だより 再会した2人が第二の故郷伊達に移住して 第二の人生を歩む

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ジャコシカ208

2022-03-09 19:51:29 | ジャコシカ・・・小説

 

 

 

 

二十

 

 花も終わった頃に、高志がここを出て行くと聞いて、あやは落ち着きがなかった。

 

 戻った時から長居をする気など毛頭なかったのに、今になってみるとやはり、病の不安のある鉄

 

五郎を一人にして出て行くことに後ろめたいものを感じていた。7年もの間、音信不通を続けてお

 

いて、何を今さらという気がしないでもなかった。

 

 心冷たい薄情者は薄情者らしく、自分のことだけを考えていれば良いのだ。

 

 少なくともここに戻ってくる前の自分なら、そのように考え行動することに、躊躇はなかったは

 

ずだ。

 

 それがここで海を眺め、子供の頃の暮らしぶりを思い出しているうちに、調子が狂ってきた。

 

 時々、今まで何をしてきたのか、分からなくなることがある。

 

 足元から波に洗われて、砂が崩れていくように、どんどん自分が頼りなくなっていく。

 

 この落ち着かない不安は、どうやら鉄さんのことが気がかりというだけではなさそうだ。

 

 特に高志がここを出て行くと聞いてから、一層増してきたような気がする。

 

 彼については、あの人はそういう人なのだと、さしたる疑問を感じることはなかった。

 

 直きにここを去って行くのは、分かっていた。

 

 それなのに、いざ時期を示されて出て行くと知らされると、初めてそんなことは思いもよらなか

 

ったと感じている。

 

 急になにもかもがあやふやになって、まるで自分が見えなくなっている。

 

 またしても自分が自らのことを、何も知らずにいたことに気付く。

 


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