ロビーの一画を占める、淡いベージュを基調にした喫茶店で、あやは公園の緑に向かって席を取
った。
約束の時間までには、まだ間があった。
ほどなく運ばれた白磁のカップから立ち昇る、強いコーヒーの香りが、あやを強引に東京での暮
らしえと引き戻した。
思えばあそこが第三の扉を開けた世界だった。
ならば今いるここはあれから後の、第四の扉の先の領域だろうか。
そし、その扉はあの入江の家に戻った時に、気付かぬ内に開かれていたのか。
振り返れば何もかもが、ふわふわと浮遊していて、確かな現実感がない。
不真面目に浮かれてやってきたとは思わない。むしろその逆と言ってよいはずだ。
それなのに少こしも手応えがない。
これはただ単に成果を上げられなかったからなのか、そんな風には考えたくない。でもやはり、
多分そんなところかも知れない。
自分にも人にも、不満ばかりが積もっている。
「待たせたかしら、ごめんなさい」
背後から聞き慣れた声がした。
あやの前に立った優美は直ぐには座らずに、上からあやを見下ろして笑っている。
淡い萌黄色のタイトなスーツに、絹の白地に銀色のストライブの入ったブラウスが映える。
ショートにカットした髪が、いやでもきびきびとしたキャリアな活動派を印象付ける。