あやは黙って首を振った。
清子はそんなあやを不安そうに見ていたが意を決したように言った。
「私、鉄五郎さんに手紙を渡した後で、思い出したことがあるのです。昔漁協の人が鉄五郎さん
のことを影山さんの所の野木さんと呼んでいたような気がするのです。それがだんだん影山さんが
外され、次いで影山さんも消えそして鉄さんだけになった。
そのことに気が着いたら、何だか急に気になり出して、それでつい・・・」
あやは沈黙した。
暫くは足元を見たり、海に視線を泳がせていた。
仕方なく清子も黙って海を見ていた。
ようやくあやが口を開いた時は、その顔にいつもの快活な笑みが戻っていた。
「ありがとう清子さん、話してくれてとても嬉しいわ。何の報せか分からないけれど、もし分か
ったら清子さんにもお報せします。
私さっぱり見当もつかないけれど、やはり気になるわ。もし鉄さんが教えてくれたら、必ずお報
せします」
「ごめんなさい余計な心配をかけたみたいで、私の方はどうか気にしないで下さい」
「何を言っているのよ。私達家族みたいなものでしょう、だから教えてくれたのでしょう。私、嬉
しいわ」
あやは屈託のない表情で言った。
船溜まりに向かう途中で、高志が立ち止まってあやを見た。
「本当に心当たりないのかい」
「ないわ」