作品情報⇒https://moviewalker.jp/mv78227/
以下、公式HPよりあらすじのコピペです(青字は筆者加筆)。
=====ここから。
本土が内戦に揺れる1923年、アイルランドの孤島、イニシェリン島。
島民全員が顔見知りのこの平和な小さい島で、気のいい男パードリック(コリン・ファレル)は長年友情を育んできたはずだった友人コルム(ブレンダン・グリーソン)に突然の絶縁を告げられる。急な出来事に動揺を隠せないパードリックだったが、理由はわからない。
賢明な妹シボーン(ケリー・コンドン)や風変わりな隣人ドミニク(バリー・コーガン)の力も借りて事態を好転させようとするが、ついにコルムから「これ以上自分に関わると自分の指を切り落とす」と恐ろしい宣言をされる。
美しい海と空に囲まれた穏やかなこの島に、死を知らせると言い伝えられる“精霊”が降り立つ。その先には誰もが想像しえなかった衝撃的な結末が待っていた…。
=====ここまで。
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アイルランドが舞台、というだけで劇場まで見に行きました。死ぬまでに一度は行きたい、アイルランド、、、。
~~以下ネタバレしていますので、よろしくお願いします。~~
◆対人距離感がおかしい人。
初めに言っておくと、面白かった! インパクトも大。いろんな意味で忘れられない映画の1つになるのは間違いない。
でも、好きか? と聞かれると、あんまし好きじゃないかも、、、、。多分、自分にも似たような経験があるからだと思う(後述)。そのときの、何とも言えないイヤ~~~な感じを追体験させられたような感覚になったのだよね。
さらに言えば、私はパードリック系の人が大嫌いなんだが、あんまりにもパードリックだけがめちゃくちゃ救いがないオチに同情してしまい、その「嫌悪」と「同情」という相反する感情が自分の中で収拾がつかない感じ。コルムは自らの意志でしたことだけど、パードリックは友人も妹もロバも、、、愛するもの全てを失ってしまうのだ。
最初、コルムがいきなりパードリックを絶縁するのは、ちょっとあんまりやない??と思ったんだが、見ているうちに、こりゃ絶縁したくなるわなぁ、、、とコルムに激しく共感。だって、パードリック、バカ過ぎる。あれこそ“真正バカ”。もう、どうしようもない、手の付けようがない、修正が望めないバカ。そういう人には、ああやってコルムみたいにキッパリ・ハッキリ絶縁宣言せざるを得ないし、しかしバカはある意味怖いもんナシの人なので、コルムを逆に追い詰めることを平気でやってしまう、、、それくらい絶望的なバカなんである。
「ここまでしてもダメなのか」とコルムが抱える絶望感は、私も経験者なので痛いほど分かる。私の場合、絶望した相手は、戸籍上の元夫だが。もうね、人との距離感ってのが、生まれつきヘンなんだよね。分からないの、言葉で言っても、ゼンゼン。宇宙人と話しているみたいな感じ。こっちは深く深く絶望の底なし沼へと落ちていくんだが、相手はこっちが何で絶望しているかが分かんなくて、挙句「言ってくれなきゃ分かんないよ!」と。だから言ってんじゃんよ、、、って。コルムと同じ。もし、私もコルムみたいに「今度やったら自分の指切り落とす!」と宣言していたら、私の場合は両手指10本全部失くしていたはず。
とはいえ、あんなバカのためにそんな犠牲を払うのは、私はゴメンだが、コルムが指切り宣言してしまった気持ちはすご~~~~く分かる。“それくらい言わないとこいつはダメだ”と思って、“それくらい言えばこんだけバカでも分かるだろう”と考えたわけよね。でも、分からなかったんだ、パードリックは。
一応、戸籍上の元夫の名誉のために言っておくと、彼は人を絶望させるバカだけどお勉強はすごーく出来た(多分)人だったんですよ。頭の良し悪しとお勉強の出来る出来ないは比例しないんです。パードリックはどっちもダメみたいだったけど。
だから、私が人生でこれ以上ないほど嫌悪した人と同類のパードリックに同情を覚えざるを得ない展開のお話、、、ってのは、やっぱし好きとは言えない。
◆ネットの感想拾い読み。
コルムがなぜ指を本当に切り落としたか、について、パンフの解説では「コルムは鬱だったのかも」みたいに書かれていた。
まあ、そうかも知れないが、私は、パードリックへの見せしめだったのだと思っている。飽くまで正気。そうやって、自分がどれだけお前のことを嫌っているのかを分からせてやる!とね。正気じゃ出来ないだろう、、、と普通は思うし、私も前述のとおり、そんなヤツのために自分の身体を傷つけるのはまっぴらだが、正気でやることはアリだと思う。誰かを激しく嫌うと、自分に対する嫌悪感も増幅するので。
希死念慮に囚われている、と書いている人もいたけど、私も、終盤でパードリックがコルムの家に火をつけたときにコルムが家の中で身じろぎもせずに座っているシーンを見て、ありぃ?このままコルムは死ぬ気なのか??とちょっと思ったけど、その後ちゃんと家から脱出していたので、やっぱり死にたいわけじゃないんだな、と感じた次第。終始、コルムに死にたい願望があるようには、私には見えなかった。
別の人は、パードリックとの友情がそれだけ重みのあるものだった、、、と書いていたが、もちろん可能性はあるけど、多分違うと思う。理由は前述のとおりだが、ただ、あの閉鎖的な島という環境で人間関係が狭くて濃いので、重みがあるというよりは、逃げられないお隣さん的な圧迫感はあったと思う。いずれにしても、コルムが友情故に指を切り落としたとは考えにくい。
後世に残る仕事をしたいから、という理由でパードリックに絶縁宣言したのに、フィドルを弾くために欠かせない指を切り落とすなんて矛盾してるだろ、という感想も目にしたが、矛盾だらけなのが人間ってもんだし、フィドルを弾けなくたって作曲はいくらでも出来る。
男同士の、恋愛感情ゼロ関係での拗らせ話って、ビジネスも絡んでいないし、案外珍しいのでは? 男同士の友情がメインの話って、前向きで汗くさいウザ系が多い気がしていたんだけど、私の思い込みかしら。
……と思って、検索してみたら、「マイフレンド・フォー・エバー」「最強のふたり」を挙げている人が割といるなぁ。どっちも未見なんで分からない、、、。私の大好きな「きっと、うまくいく」を挙げている人もいる。あれも超前向きで、ウザ系といえばウザ系ではある。でも大好きだけど。「ショーシャンクの空に」「グリーンブック」も挙がっているけど、まあ、これらもザックリ括れば“良い話”よね。
やはり、本作は、ジャンルでいえば珍しいと言っても良いかも知れませぬ。
◆その他もろもろ
本作は全体に暗いのだけど、セリフで笑っちゃうのが結構あって、ブラックコメディと言っていいくらいじゃないかと思う。
ちょっと知的障害のありそうなドミニクが時々言うことが笑えるというか、鋭いというか。パードリックが、「コルムに絶交された」と愚痴ると「何だソレ、12歳かよ」(セリフ正確ではないです)とヘラヘラ笑いながら言ったり。パードリックがバカにしているドミニクの方がよほど察しが良いし、道理が分かっているという皮肉。
パードリックがいかにウザいかという描写としては、パブで酔っ払ってコルムに絡むシーンが秀逸。「俺が嫌いなものが3つある。1つ目は警察官。2つ目はフィドル奏者。3つ目は………(何だっけ)??」(セリフ正確ではないです)とヘラヘラ笑いながら繰り返して言ってるんだが、何かもう、、、ウザ度全開で笑っちゃいました。そら、嫌われるよ、あなた。
結局、マトモな、、、というか、ちょっと知識欲のある人は、あの島での生活はかなり厳しいんだろう。まあ、分かる気はする。パードリックの妹シボーンは、コルムの絶縁宣言を理解できちゃって、結局、島での閉鎖的で保守的な生活に耐えられず本土へと出て行ってしまった。コルムも島を離れればよかったんじゃないのかとも思うが、年齢的に体力・気力が残っていなかったのかな。その割に、教会での告解シーンでは神父に笑える悪態ついていて、十分気力はあると見えたけどなぁ。
コルムを演じたブレンダン・グリーソンのフィドルを弾く姿が実にナチュラルだったのが感動モノだったんだけど、パンフを読んだら、彼はプロ級のフィドル奏者だとか。……納得。
本作は、アイルランド内戦のメタファーだとか、背景にあるとか言われていて、それはそうなんだろうけど、そういうことをゼンゼン知らなくても、映画だけで十分面白いし、イロイロ考えさせられる作品になっている。
原題は“The Banshees of Inisherin”で、イニシェリン島のバンシー。バンシーってのがアイルランド語で直訳すると「妖精女」だそうな。アイルランドの妖精といえば、私の大好きな映画「フィオナの海」があるけど、あれはアザラシが妖精の化身とされていた。「フィオナ~」はまさに妖精譚でちょっとファンタジーな話だったので、本作とはゼンゼン違う。DVD化されていないのがなぁ、、、ホントに悲しい。
また、アイルランドで妖精といえば、リャナンシー(パンフにも言及があって感激!)。リャナンシーはまさに音楽の妖精で、コルムが指の無くなった左手を振り回しているシーンを見て、リャナンシーのことが頭をよぎっていた、、、。みんシネにリャナンシーというHNのレビュワーさんがいて、ファンだったんだけど、もう10年以上書き込みがなくて寂しいなぁ。お元気かしら。
ロバのジェニーが可愛かったけど、、、