「下町ロケット」素直に見れない……崩れる、日本人の仕事観
2019.01.09(liverty web)
《本記事のポイント》
- 佃製作所は「やりがい搾取」!?
- ちらつく「仕事は必要悪」という価値観
- 「下町」否定は日本にマイナス
俳優の阿部寛さんが主演を務める大人気ドラマ「下町ロケット」(TBS系)の今シリーズの内容に、冷めたツッコミが相次いでいる。
「小さな町工場が、巨大企業のロケット打ち上げ事業に、主要部品を提供する」といったストーリーで多くの視聴者を感動させた下町ロケット。1月2日放送の「新春ドラマ特別編」で事実上完結した続編では、無人農業用ロボットを開発するために奮闘する下町の技術者たちが描かれた。
特に阿部さんが演じる主人公の佃航平は、「無人農業ロボットの開発で日本の農家を救う」という夢を持つ。その姿に感化された社員たちは、毎日遅くまで研究し、時には徹夜もする。また、農業ロボットの意義を実感するために農家の手伝いもする。
佃製作所は「やりがい搾取」!?
今時めずらしいほどピュアな企業ドラマだが、そこで提示される「仕事観」をくさす声が出ている。「『ブラック企業』を美化している」というものだ。
例えば、あるウェブメディアは、「こういうドラマに熱狂し、留飲を下げる人がこれだけ世に溢れ返っているということは、日本の『ブラック労働』を礼賛するカルチャーもまだまだしばらくは健在ということ」と評している。
さらに、佃社長が夢を語り、社員たちが長時間の仕事や時間外労働に没頭していることを、「やりがい搾取」「洗脳系ブラック企業」などと呼んで批判する。まるで、社長の情熱に感化された社員たちが騙されているかのような言い方だ。
ネット上にはこの手の批判が溢れている。
ちらつく「仕事は必要悪」という価値観
もちろん、体を壊すほどの労働を強いたり、精神的に追い詰めることでキャパを超えた仕事を強要したりすることは望ましくはない。しかし、このドラマにはそうした状況が見当たらない。
また、経営者や企業リーダーが「下町ロケット」のような一体感のある仕事を目指しても、社員の心をつかめずに空回りして、逆に不満を生んでしまうこともあるかもしれない。現実問題として、マネジメントの知恵やトップの人徳がなければ、本物の一体感はなかなかつくれないだろう。
だとしても、「経営者が理念を掲げ、社員たちも情熱的に働く」という理想像を、「このようなものを目指さない方が身のため」と言わんばかりにあげつらうのは、いったい仕事に何を求めているのだろうか。
まるで「変な情熱などに突き動かされるのではなく、淡々と無理なく働き、適正な給与が貰えればいい」と言っているようにも見える。その奥には、「仕事は食べていくための『必要悪』である」という発想が見え隠れする。
仕事は本来「幸福」そのもの
しかし、「仕事をすること自体が幸福」という人生観がある。19世紀に「スイスの聖人」と呼ばれたカール・ヒルティ(1833~1909年)の代表的著作である『幸福論』だ。
ヒルティは弁護士や大学教授、政治家などを務め、敬虔なクリスチャンでもあった。ヒルティの『幸福論』は、「仕事論」から始まっており、「ひとを幸福にするのは仕事の種類ではなく、創造と成功のよろこびである」と述べた。
「下町ロケット」のような働き方を否定することは、日本人の仕事によって得る「幸福感」を奪うことになりかねない。
「下町」否定は日本にマイナス
さらには、日本経済を停滞させることにもつながるだろう。
マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツは、BASIC(プログラミング言語)の開発を進めていたころは毎日、日の出まで働いていた。
実家のガレージでアップル社を創業したスティーブ・ジョブズは、寝食を忘れて何週間も開発に没頭していた。世界的な大企業になってからも、開発メンバーはジョブズが納得する製品ができるまで、休みなしで働くことも多かったという。
日本でも、松下電器(現・パナソニック)の松下幸之助やホンダの本田宗一郎、カップヌードルを開発した日清食品の安藤百福などは、ヒット商品を生み出すために、早朝から深夜1時、2時まで研究を続けるような日々を送っていた。
「熱烈な働き方」は強制するものではないが、人間の幸福とは不可分な関係にある。それを、一部の不幸な事例を強調することで全否定する風潮は、長期的には日本にとってマイナスとなる。
(馬場光太郎)
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