全国で公開中

 

 

《本記事のポイント》

  • 若者たちに必要な「神の存在」と「信仰心」
  • 変えられないものを受け入れるために必要な「こころの力」と「勇気」
  • 物質的なものと釣り合う心の発展を

 

 

本作は、キリスト教信仰が色濃く残る長崎市街を舞台に、若者たちが、つまずきながらも、支え合いながら成長していく姿を描いた心温まる青春音楽映画。

 

山田尚子監督が長崎市内の教会を巡りながら育んだ着想を、気鋭の脚本家・吉田玲子氏が巧みにストーリー化した。

 

 

若者たちに必要な「神の存在」と「信仰心」

映画は、長崎市街を舞台に、ミッション系女子高校を勝手に退学したことを家族に打ち明けられない少女きみ、母親からの将来の期待に反して、隠れて音楽活動をしている男子ルイ、きみの同級生で、人が色で見えてしまうトツ子という3人の高校生が、ふとしたきっかけでバンドを結成し、離島の古い教会で練習しながら心を通わせ、初めてのライブに臨むという青春音楽物語だ。

 

しかし、"ごくありふれた"とも言えるこの物語が、フランシスコ・ザビエルの伝道以来、隠れキリシタンとしての長き苦難を経て、キリスト教信仰を脈々と伝えてきた長崎という街のなかで進行していくなかで、思わぬ展開を見せ始める。

 

キリスト教信仰が空気のように満ち、息づいている世界に生きる彼らは、親との葛藤や、抱え込んでいる心の傷を不必要に大きくすることなく、明るい未来に向かって互いに支え合って歩みを進め、成長していく。

 

その姿は、この殺伐とした世界のものとは思えず、どこか天国的な、ユートピア的とも言える、とても心温まるものへと昇華されている。

 

長崎市や五島列島の教会を巡り、思索を重ねたという山田尚子監督は、長崎の街並を舞台としたことについて、「〈信じることができる心〉を描きたかったというのが、シンプルなところかもしれません。何かを信じることができる心というものに、とても尊敬を持っているんです」(映画パンフレットより)と語る。

 

宗教2世問題など、宗教が若者に及ぼす悪影響ばかりが議論されている中、神への信仰がごくありふれて普通に存在することが、思春期の子供たちにとって心安らかに生きるための前提であることを描いているという意味で、この映画は大変"挑戦的な"映画だと言える。

 

 

変えられないものを受け入れるために必要な「力」と「勇気」

映画は、主人公のトツ子が、誰もいない学校附属の礼拝堂で、「変えることのできないものを受け入れる力をお与えください」と独り唱えるところから始まる。この祈りの言葉は、アメリカのプロテスタント神学者ラインホルト・ニーバー(1892-1971)がつくったとされ、この映画の基調となっている。

 

ニーバー神学に詳しい大木英夫氏(元東京神学大学長)によると、ニーバーが現代社会最大の問題だと考えたものは、価値相対主義、つまりニヒリズムだという。

 

ニーバーによると、ニヒリズムに打ち勝つためには、被造物である人間にとって、どうしても変えられないものが存在することを認めるべきであり、そしてその変えられないものは創造主によって創られているがゆえに変えられず、それゆえに人間は、創造主の存在を受け入れることによって、初めて謙虚さを取り戻し、自己絶対化の誘惑を克服できるのだという(*)。

(*)大木英夫著『新しい共同体の倫理学』より

 

そして、このニーバーの祈りの後半は、映画でも触れられていた通り、次のように続く。

「神よ、変えるべきものを変える勇気を、そして、変えられないものと変えるべきものを区別する賢さを与えてください」。

 

 

物質的なものと釣り合う心の発展を

人間が物質的な発展に酔いしれ、神に成り代わり、すべてのものを自分の思いのままにつくり変えることができると、傲慢にも考えるようになったことについて、大川隆法総裁は著書『救世の法』の中で次のように指摘している。

 

天上界から見て、何がいちばん不満なのでしょうか。それは、一言で言えば、『人類が信仰心をなくしている』ということです。物質的な発展自体には、人類の生活を便利にする面もあるため、それを否定する気持ちは私にはありません。しかし、そうした『物質的な発展』と釣り合うだけの『心の発展』が必要です。これらは釣り合っていなければならず、このバランスが崩れると、人間は驕り高ぶり始めて、自分たちが神に成り代わったような気になり、できないことは何もないような気持ちになるのです

 

確かに、私たちは、物質的な繁栄を成し遂げ、歴史上、稀に見る便利な生活を享受している。しかし、それに釣り合うだけの心の発展、つまり、信仰心に基づいて、もう一段深く、互いに愛し合い、高め合うことこそが、これからの人間社会に求められる目標とならなくてはいけないということだろう。

 

信仰をごく当然のものとして受け入れながら、その中で、支え合いつつ、自分の持っている良き性質を花開かせようともがいていく高校生たちの姿を描いたこの映画は、信仰や宗教を裏側の世界に追いやってきた日本の教育や文化と、日本人の心のあり方について、見直しのヒントを投げかけているとも言えるだろう。

 

『きみの色』

【公開日】
全国公開中
【スタッフ】
監督:山田尚子 脚本:吉田玲子
【キャスト】
出演:新垣結衣ほか
【配給等】
配給:東宝
【その他】
2024年製作 | 100分 | 日本

公式サイト https://kiminoiro.jp/

 

 

【関連書籍】

救世の法

 

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